PageTopButton

「茶懐石」を気軽に体験。伝統文化の粋が待つ西中洲の名店へ

UMAGA

日本料理の醍醐味は、美味な品々とともに、我が国の伝統・文化も味わうこと。それを肩肘張らずに体験できるのが西中洲の「茶懐石 中伴」です。茶懐石とは茶事や茶会で振る舞われる食事を指しますが、茶道未経験の方には壁を感じる方も多いでしょう。
でも、それでいいのです。「茶室ではあらゆる人々が平等であること」が茶道の祖・千利休の本望なのですから。「作法は気になさらず、思うままに楽しくお過ごし下さい」と店主の中川亮さんも優しく背中を押してくれます。

中伴外観

その「中伴」は、先代店主の中川敏行さんが1983年に構えた日本料理店。自ら板を手彫りした、味のある看板が目印です。敏行さんは創業400年余を誇る京都・南禅寺の老舗「瓢亭」出身で、独立以降ひたむきに茶懐石の心を表現してきました。2014度と2019年度のミシュランガイドで二つ星に輝くなど、地元グルマンや茶道関係者には広く知られた名店です。
が、そんな熟練職人も病には勝てず、1年ほど前、店の歴史は息子の亮さんに託されました。同じく「瓢亭」で学び、敏行さんの良き相方だった40歳の二代目です。

中伴店内

そんな“新人店主”が迎える「中伴」を久々に訪ねました。店内に漂う温もりは以前と変わらず、季節の花と掛け軸だけ置いた簡素な内装はまさに茶室を思わせます。気づけばリラックスしている不思議な心地良さがあり、亮さんの柔和な佇まいも好感度大です。
「茶道は日本文化の総合芸術。茶懐石を通して、その美の片鱗を感じてもらえたら嬉しいですね」。その言葉を皮切りに、今宵頼んだ16,500円のコースが始まりました。

中伴ご飯

この日の料理は全10品で、1品目にはご飯・味噌汁・向付が供されました。他の分野だとシメに当たりますが、一汁三菜という懐石の基本に沿った“最初にご飯”も乙なものです。なんだかほっこりするんですよね。
それに炊き立てのご飯がまず絶品。初手から食べすぎないよう、おかわりの量を抑えるのに苦労しました(笑)。向付には柳橋で仕入れたヒラメを使用。死後硬直の状態で塩を振り、一晩寝かせた“ひと塩造り”です。プリッとした極上の歯応えと、深い旨味が満ちる一皿でした。

中伴煮物

続く煮物椀は糸島産のハマグリで、これも最低限の手数で最高の味を引き出した逸品。艶っぽい舌触りと、豊かな潮の香りにうっとりします。「私も大好きな素材ですね。繊細な火加減で、貝の旨味を余さず引き出しました」。懐石の煮物椀は洋食におけるメインディッシュだけに、さすがの風格を感じます。
加えて、「瓢亭」譲りのマグロ節の出汁が見事です。カツオ節より優しい酸味は九州人の味覚に良く合いますが、それを生かすには大量の昆布出汁が必要で、実はかなりコストがかかるそう。その手間を超えて生まれるコクは、真に珠玉と言うほかありません。

中伴焼き物 中伴強肴

3品目の焼物は、国産黒ゴマをまとったサワラです。「ゴマやケシの実などを振った仕事を“利休焼き”と呼びます。3月28日が利休忌ですので、本日はこれを選びました」。このように、料理を通じて季節の移ろいを知るのも和食の魅力。また、これに用いた景徳鎮を始め、先代が集めた貴重な器の数々も愛好家を楽しませることでしょう。

その後も、炊き合わせ、強肴、湯桶(ゆとう)、香の物と古式ゆかしい品々が続きます。強肴は2~3品構成で、この日はセリと利休麩の松の実和え(写真)とサワラのきずし。炒り米にお湯を注いでいただく湯桶も、懐石らしい風雅な一品でした。素人目にはそれと分からぬ技術を用い、どこまでも軽やかに仕上げた美味はこれで終了です。

中伴茶釜 中伴薄茶

──と思いきや、実は本当の山場はここから。八女産の薄茶を点てながら亮さんが話します。「茶懐石の料理は、このお茶を美味しく飲んでいただくための準備なんですよ」。そう、料理に注いだすべての努力がこの瞬間に集約するのです。そう聞くと、一杯のお茶がとても尊いではありませんか。
その味を引き立てる和菓子も文句なし。この日は平尾の「御菓子司 青柳」に依頼したもので、上品な甘さでコースを締めくくりました。

中伴店主

どの料理にも理(ことわり)があり、そこに潜む伝統との出合いを気軽に楽しめる「中伴」。茶道や和食の初心者にも「茶懐石は怖くない」と知らしめる頼もしき店です。「温故知新や不易流行も心掛けつつ、これからも古典料理の道を邁進します」と亮さんも担い手としての覚悟を宣言。
そして僕たちも、ここに来るたび「まだ変わらないものがある」と安堵するのでしょう。それは先人が築いた誇らしい文化であり、わび・さびなどの儚い美を愛でる心。食に精通したホテルコンシェルジュが、「和食を深く知りたい」という外国人客にここを勧めるのも頷けます。そうした意味でも「中伴」は、福岡でもっとも“日本”を感じる一軒かもしれません。

この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。

店舗名:茶懐石 中伴
ジャンル:日本料理
住所:福岡市中央区西中洲3-19ベイヒルコート2F
電話番号:092-725-1115
営業時間:12:00~OS13:00/18:00~OS21:00
定休日:日祝日
席数:カウンター8席
個室:なし
メニュー:コース11,000円、16,500円、おまかせ(時価)
URL:https://www.instagram.com/chakaisekinakahan/

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう

この記事を書いたひと

UMAGA

homePagefacebookyoutubexinstagram

魅力的な福岡の食文化をもっと楽しんでいただくためのバイブルとして、厳選した信頼性のある情報を毎日更新中。