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春はたけのこ農家として活動。素材に寄り添う料理人の新たな挑戦

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今年5月、春吉通りから一本入ったアパートの1階に、気になる一軒がオープンしました。その名は『ura eta lurra(ウラ・エタ・ルーラ)』。スペイン・バスク語で「水と土」を意味する店名には、自然と向き合い、土地に根ざした食材を大切にしたいという店主の想いが込められています。

ウラエタルーラ外観 ウラエタルーラテラス

看板を横目に扉へ進むと、右手にはテラス席が。春や秋などの季節の良い時期には、穏やかな空気に包まれる心地よさを感じられる場所となっています。店内はL字型のカウンター6席のみ。木のぬくもりが感じられるカウンターとやわらかな照明が、シンプルながらも居心地の良い空間を演出。料理人との距離も近く、自然と会話が生まれるのも、この店の魅力のひとつとなっています。

この店を切り盛りするのは、店主・中村郁雄さん。かつては渡辺通の人気店「山バスク」で料理長を務め、繊細で滋味深い料理に定評のあった実力派です。近年は、春先に山へ入り、たけのこを掘る農家としての活動もスタート。料理と農業という異なる現場での経験を活かしながら、季節や土地に寄り添った食の表現を追求してきました。一方、2024年までは、界隈の人気店「松田謹製 夜鳴蕎麦」でもつまみの一部を担当。夜な夜な食通たちが通う場所でも、ひっそりと腕を振るっていました。

ウラエタルーラ内観

中村さんの料理の根底にあるのは、“素材が主役”であること。たけのこに代表される山の恵みや、信頼を置く生産者から届く野菜・ジビエ・魚介などを、華美な装飾を施さず、持ち味がきちんと伝わるカタチで一皿一皿にのせていきます。

春は山に入り、その時期に獲れるジビエを扱う。季節とともに移ろう自然のサイクルを、料理を通して体現する姿勢は、その柔らかな眼差しとは裏腹に、生産者への熱い想いが垣間見えます。

料理に対する姿勢も実にユニークです。ジビエを扱う際は、その個体差ごとの身質や大きさに合わせてカットの方向や火入れを細かく調整し、食べやすさと美味しさのバランスを図っています。ときに繊維が立つようにカットする、あるいはローストの温度帯を工夫するなど、素材との“対話”を重ねて一皿に仕上げていくのです。

さらに興味深いのは、香りの相性に着目した食材の組み合わせ。ヨーロッパの大学研究機関が行う香気成分の分析を参照し、香りの構成が近しい食材同士をかけ合わせることを意識しているといいます。ホワイトチョコとキャビアの意外な相性が好例で、「イノシシにはナッツ系」「この魚には柑橘かスパイスか」と、香りの系統に着目した構成は、実験的でありながらも自然な一体感を生み出します。

「ヨーロッパは似た者同士で味を強め合う、和食は異なるもの同士で補い合う。どちらの考え方も知っていれば、料理の構成がさらに広がります」と語る中村さん。食材そのものに向き合いながら、そこに知見と工夫を重ねるスタイルは、まさに今、この場所で進化し続けている最中です。

メニューはアラカルトとコースがあり、一人でも気軽に利用できるのも嬉しいところです。

まずはじめに、「ヤイトカツオの自家製シーチキンと新じゃがとクレソンのポテトサラダ」(1300円)をオーダーしました。塊のままでもしっとりと仕上がったヤイトガツオのシーチキンは旨味が濃く、新じゃがの甘味と好相性。そこに春先に採取した野生のクレソンをペーストにして練り込んだポテトサラダが重なります。最後にかけた自家製マーマレードのソースが、ほのかな甘苦さと清涼感を添え、静かな輪郭を描くような一皿でした。

ウラエタルーラパテドカンパーニュ

続いては「鹿肉と椎茸のパテドカンパーニュ」(1300円)をオーダーしました。豊前産の鹿肉を丁寧に粗挽きし、大分産の干し椎茸の凝縮した旨味と重ね合わせています。噛みしめるごとに野趣と滋味がじんわりと広がり、余すことなく命を活かすという姿勢が伝わってきます。

ウラエタルーラメイン

メインには「麹に漬けたイノシシのロースト 大浦ゴボウのピュレ」(2300円)を。ロース部位を米麹に1週間ほど漬け込み、じっくりと低温で火を入れ、最後にオーブンで1時間弱。さらに休ませてから提供直前に温めるという手間のかかった一皿です。香ばしく焼かれたイノシシの旨味が、甘味のある大浦ゴボウのピュレと重なり合い、力強さとやさしさが同居する構成となっています。

ウラエタルーラドリンク

ドリンクは、ナチュラルワインとクラフトビールを柱に、食中酒として楽しめるラインアップとなっています。ワインは、以前から付き合いのあるインポーターのものを中心に、日々の料理に寄り添うような自然派ワインをセレクト。グラスでもボトルでも楽しむことができます。一方、クラフトビールは、山口県内のブルワリーに依頼して仕込んだオリジナルをはじめ、料理との相性を重視して取り寄せたものばかり。いずれもラベルや話題性だけに頼らず、中村さん自らセレクトしています。

取材時点では、開店からまだ1ヶ月ほど。とはいえ、「山バスク」時代の馴染み客や近隣の飲食店店主たちが次々と訪れ、すでに話題を集め始めています。中村さんの手によって、素材と向き合う料理と温かな空気感が少しずつ浸透していくこの空間。これからどのように進化していくのか、今後の展開にも注目していきたいところです。

店舗名:Ura eta Lurra(ウラ・エタ・ルーラ)
ジャンル:イタリア料理
住所:福岡市中央区春吉2-8-9 イルガレーロ天神Ⅲ 106
電話番号:070-9137-6071
営業時間:18:00~OS24:00
定休日:不定
席数:カウンター6席、テラス4席
個室:なし
メニュー:イノシシモモ肉ハムのサラダ仕立て1,300円、大分冠地鶏の炭火焼き盛り合わせ 赤ワインソース1,000円、五島のサバ 天然セリ いんげん豆のオムレツ1,200円、イノシシスペアリブの塩レモン煮込み2,000円、地鶏のミンチと早生キャベツの玄米リゾット1,600円、コース7000円、グラスワイン900円~、ボトルワイン5,000円~、クラフトビール1,000円~
URL:https://www.instagram.com/ura_eta_lurra/

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この記事を書いたひと

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