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時には孤独を選ぶことも大切。それを一杯のコーヒーが教えてくれた

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昨今のコーヒーショップというと、明るい店内に、柔らかでナチュラルテイストなインテリアやしつらえといったイメージを持たれている人も多いと思います。今回ご紹介する『綾部珈琲店』はどちらかというと、その真逆。

綾部珈琲店 焙煎機 焙煎機は2014年製のPROBAT。バーナー出力のみをコントロールする非常にシンプルな構造

重厚で、どっしり、どこか男っぽくて、ミステリアスな雰囲気。そこにはオーナーの井田悠樹さんが歩んできた20数年が深く関係してきます。一度、10数年にわたりコーヒー業界から離れ、あえて孤独な世界に生きることを選んだ井田さん。その経験がこの店に満ちあふれています。

綾部珈琲店 外観 20:00まで開いているので仕事帰りにも利用しやすい

『綾部珈琲店』があるのは福岡県立城南高校の正門の目の前。“COFFEE”と書かれた看板、煙突が伸びたガレージ風の建物が目印になっており、初めてでも比較的わかりやすいと思います。ただ店に入ると「おっ、なんか普通じゃないぞ」と思わせる空気感。少し低くこもった音でジャズが流れ、陽の光があまり入らない薄暗い空間。アンティークなイスやテーブル、ガラスキャビネットがこの空間にとても合っています。

綾部珈琲店 店内 メニュー表はカウンター上の黒板のみ

そんな重厚な店内のカウンターに一人で立つ井田さん。店がオープンしたのは2019年と6年ほど前ですが、もっと長くこの町にあるような、そんなたたずまいを醸し出すのは井田さんのバックグラウンドが関係しているのかもしれません。

綾部珈琲店 店主 井田 店主の井田悠樹さん

もともと井田さんは20代でコーヒーに傾倒し、かつて城南区別府にあった『綾部珈琲』を間借りする形で自分なりのコーヒーを表現。3年ほどそんな風にコーヒーと関わったことでますます惹きつけられ、エスプレッソの先駆けともいえる東京の『マキネスティコーヒー』の門を叩きました。ここまではよくありそうなストーリーですが、井田さんはそこから土の中に潜るかのように、まったく別の仕事に就きます。それが長距離専門のトラックドライバーでした。

綾部珈琲店 コーヒー コーヒー一筋、というわけにはいかなかった20数年

「もともとバイクが趣味で、遠出するのは性に合っていましたし、自分でいろいろカスタムするのも好きだったので、ドライバーという仕事はまったく苦になりませんでしたね。あえて深夜に運転する仕事を選び、ひたすら一人の時間を過ごしました」
トータル12年ほどトラックドライバーをし、コーヒー業界からは離れることを選んだ井田さん。普通ならその時点でコーヒーに対する情熱も薄まりそうなものですが、井田さんは逆でした。仕事柄、全国各地を巡ることから空いた時間で気になる喫茶店やコーヒーショップに足を運んだそうです。ただ、それはシンプルに好きなコーヒーを楽しむというのが大きな理由。コーヒー熱をじわじわと温めたのは孤独に過ごした時間と、さまざまな本との対話でした。

綾部珈琲店 本 1階カウンターにさりげなく置かれた本のジャンルもいろいろ

「歴史や考古学など、とにかくさまざまなジャンルの本を読みましたね。逆にコーヒーの本などはほとんど読まず、コーヒーとはまったく関係のない知識をインプットし続けました。そしてそのインプットした知識や知見、自分が感じたことをアウトプットしたのがこの店。だから悶々とした雰囲気が漂っているでしょ」と笑いながら話す井田さん。
黙々と働いた長距離ドライバー時代の日々、その時期に得た幅広い知見から生まれた世界観。それが『綾部珈琲店』の独特な雰囲気を作り出していたんですね。

綾部珈琲店 ハンドドリップ 店で使用するのはフラワードリッパー。ネルに近い抽出ができるのが理由だ

そんな『綾部珈琲店』のコーヒーはというと、非常にオーセンティックで、変化球なしのど真ん中の味わいで勝負しているイメージです。トレンドや流行は意に介さず、愚直なまでに自身が好きなテイストを探求する。ベースには20代でハマったネルドリップがあるからか、非常にコーヒー感が強い一杯が同店の特徴になっています。焙煎度合いは浅煎りもあるにはありますが、極端に浅く焼いたコーヒーはありません。

綾部珈琲店 コーヒー豆 コーヒー豆はシングルオリジン8種程度を常時ラインナップ。100グラム800円~900円の価格帯がメイン

個人的には中深煎り、深煎りの焙煎レンジの豆がおすすめです。さらに、ストロングテイストが苦手じゃなければ、濃いめの味わいをリクエストしてみてください。きっと深淵で、奥深い、ネルで淹れたような一杯が楽しめるはずです。

綾部珈琲店 焙煎風景 蓄熱が良く、シンプルな造りに惹かれたPROBAT

開業から6年を経た今、井田さんはどんなこと思っているのか最後に聞いてみると、こんな言葉が返ってきました。
「自分が本当にやりたいコーヒーってなんだって考えた時、おそらく自分にとってのコーヒーの原点が理想だと、最近よく考えます。自分にもっと正直でいられるような店でありたい」

綾部珈琲店 焙煎 中煎り~深煎りの豆がメイン

無骨で、不器用で、できるだけ不要なモノ・コトとは交わらず、自分のコーヒー観をしっかり持っている井田さんらしい一言。はっきりと自分の心の内を言えるってすごい。そんなことを最後に考えさせられたのでした。

店舗名:綾部珈琲店
ジャンル:コーヒー
住所:福岡県福岡市城南区茶山5-7-1
電話番号:050-1432-2714
営業時間:11:00~20:00(LO19:30)
定休日:月曜 ※盆、正月に長期休暇あり
席数:カウンター5席、テーブル8席
個室:なし
メニュー:ハンドドリップコーヒー600円~、カフェラテ650円、カフェモカ700円、ココア600円、ニューヨークチーズケーキ550円、テリーヌチョコレート450円、ブラジルプリン450円
URL:https://www.instagram.com/ayabecoffee/

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この記事を書いたひと

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