かつて小倉城を望む紫川沿いに、台北に本店がある「欣葉(シンイエ)」の小倉店があった。当時は九州でも珍しい本格的な台湾料理の店として人気を呼び、僕も何度か足を運んだことがある。その料理長として来日したのが、張玉輝(チョウ・ギョクキ)さん。2014年に「欣葉」が惜しまれつつ閉店した後も小倉にとどまり、その2年後に自らオーナーシェフとして開業したのが「台湾レストラン 麗白」である。
僕が「麗白」のことを知ったのは、当時美野島にあった四川料理店「巴蜀」(現在は東京に移転)の店主・荻野亮平さんからの紹介だった。荻野さんは修業時代に張さんの下で働いた経験があり、今も「親方」と慕う師弟関係にある。僕がもっともリスペクトする料理人の一人である荻野さんの師匠なら、まず間違いなかろう。そう思って訪ねると果たしてその通りで、福岡でも屈指の中国料理店と信頼している。
提供している料理は、1980年代から90年代にかけて一世を風靡した「ヌーベル・シノワ」の流れを汲むフレンチ風のフルコース。今回予約した6,600円のランチコースは、前菜に始まり、スープ、魚料理、肉料理と続き、飯・麺物を挟んでデザートと中国茶のメニューで構成されている。卓上にはショープレートを中心にカトラリーが整然と並べられ、これほど正統派のテーブルセッティングは、今時フランス料理店でもなかなかお目にかかることができない。
この日の前菜は、車海老、姫アワビ、穴子の豆腐乳ソースに台湾香腸(豚の腸詰)など。僕はこの香腸が大好きで、迷わず「台湾ビール」を注文した。香辛料が効いた独特の甘みがある香腸とサッパリしたビールの組み合わせは抜群で、のっけから食欲を刺激してくれる。
食べる気満々のところに出てきた2品目は、「蟹肉と白キクラゲ入りフカヒレスープ」。トロ~リとしたスープにレンゲを入れると中には卵が潜んでいて、突き崩しながら食べると甘みが増して、さらに濃厚な味わいに変化する。
魚料理は、「海老とアスパラのカシューナッツ炒め」。野菜は主に小倉近郊の契約農家から調達しており、鮮度は抜群だ。プリプリとした海老に対比させるかのようなナッツのクリスピーな歯応えも心地よく、食材の組み合わせにも熟練の技を感じる。
メインにあたる肉料理は、ボリューム感のある「骨付き豚肉の酢豚」。九州では一般的な酢豚のことを「酢排骨(スーパイコ)」と呼ぶ店もあるが、読んで字のごとく「排骨」とは骨付き豚バラ肉のこと。「骨付きじゃないスーパイコが出てきたら、台湾の人はビックリするよ」と、張さんが笑う。「麗白」では鹿児島県産ブランド黒豚「南州豚」の骨付きバラ肉の塊を一度煮込み、ホロリと崩れるほど柔らかく仕上げている。もっちりとした身の部分から、最後はナイフとフォークを使って骨に接した部分までこそげ取り、その旨さを十分堪能することができた。
飯物・麺類は、干し貝柱のお粥、炒飯、魯肉飯、担々麺から選ぶことができ、今回は「鮭炒飯」をチョイスした。そして、最後のデザートとお茶は、フルーツ入り杏仁豆腐と甘塩っぱい月餅に台湾烏龍茶の名品「文山包種茶」の組み合わせ。訪れたのはちょうど中秋の名月の頃で台湾では月餅で祝う習慣があるといい、国は違えども月を愛でる精神性にシンパシーを感じる。食を通じて日台友好の絆が深まることを願って、今後も通い続けたい北九州の名店だ。
ジャンル:中華料理
住所:北九州市小倉北区魚町2-5-17 インクスポットビル2F
電話番号:093-287-8287
営業時間:11:30~OS14:00/17:30~OS21:00
定休日:日曜、第4月曜
席数:テーブル14席
個室:6-10名
メニュー:ランチコース3,630円・6,600円、ディナーコース8,800円・13,200円・17,600円・22,000円
URL:https://tabelog.com/fukuoka/A4004/A400401/40043689/
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