以前のUMAGA記事でも触れた通り、薬院2丁目は粒ぞろいの店が軒を連ねるグルメエリア。なかでも今回は、酒と肴の楽しみ方を知る大人のツボをぐいぐい刺激する、とっておきの一軒へご案内します。
大正通りから一本入った静かな通りに佇む小料理店が今宵の目的地。2025年で創業20周年を迎えた愛すべき名店「信 NOBU」です。入口はひっそりとしていますが、暗闇で煌々と光る看板を目印に店内へと足を進めましょう。
照明を落とした店内は落ち着いたモダンな雰囲気。厨房に面した4席のカウンターとゆったりしたテーブル席が配されており、店主の波多江信宏さん夫妻が温かく迎えてくれます。
糸島出身の波多江さんは、学生時代のアルバイトをきっかけに料理を作る喜びを知りこの道へ。高校を卒業後、大阪・北新地の和食割烹にて住み込みで働きながら調理師専門学校へ通い、調理師免許を取得。その後、福岡の有名店や東京で腕を磨き、やがて出会ったのが今はなき伝説の店として知られる「たらふくまんま」の店主・菊池俊徳さんでした。
「菊池大将には、数えきれないほどたくさんのことを教わりました。それまでの僕は、日本料理の決まりごと通りに作ることしか頭になかったけれど、大将に出会い、『料理に制限はない』と身をもって学ぶことができました。もちろん基本は守りますが、それに囚われすぎてもいけない。“もっと美味しくするためには……”と、自分の舌や頭で考え、常に味を磨こうという精神が刻み込まれたように思います」と波多江さん。
今回はそんな「たらふくまんま」菊池大将直伝の逸品で、「信 NOBU」の開業当時から作り続けているという「佐賀牛カルビの肉じゃが」(1,400円)から出していただきました。これがもう、うまいのなんのって!
佐賀牛カルビは香ばしく脂がさらりとしていて、ニンジンとタマネギはとろっと甘く、ゴロッと丸ごとのジャガイモは煮崩れしていないのにしっかり味が染みてホクホク滑らか。おいしさの秘密をこっそり教えてもらったのですが、ジャガイモの下拵えの方法からすでに通常の肉じゃがの作り方とは違っていて驚きました。
続いては、「信 NOBU」の真骨頂である魚介料理をいただきます。魚は天然モノにこだわり、20歳の頃から付き合いがあるという「長浜鮮魚市場」の仲買人から直接買い付け。欲しい魚種は仲買人に伝えて翌朝のセリで落としてもらい、マグロはマグロ専門の仲卸店から塊で仕入れるなど、常に最善を尽くしています。
まずいただいたのは「おつまみ寿司盛り合わせ」(1人前6種・2,800円)。寿司の提供をはじめたのは創業12年目の頃で、こちらも今ではすっかり名物に。
波多江さんは東京の江戸前寿司店で2年ほど修業経験があり、握りも堂に入っています。魚は水分やくさみ抜きを丁寧に行い、魚種によっては寝かせるなど、旨味や食感を高める手間を惜しみません。
とはいえ、「信NOBU」はお寿司屋さんではありませんので、これはあくまで「おつまみ」。シャリは小ぶりで、日本酒をはじめとしたお酒にピタリと合うように波多江さん流の仕事が施されているのがニクイ! ねっとりとしたヤリイカには梅わさび、マグロの赤身には醤油で軽く炊いた岩海苔、石垣鯛には柚子おろしポン酢を。マグロの中落ちはもちろん、赤身とトロを混ぜて仕込むという自家製のツナのおいしさにも驚きました。
さらには、雲丹を2段に重ねた見た目からその名が付いた「雲丹ライスバーガー」も登場。この日は濃いオレンジ色に輝く北海道産の赤雲丹で、濃密で豊かな味わいにお酒がスイスイ進みます。
加えて、旬食材を使った季節のおすすめ料理も見逃せません。今年の11月から冬にかけては、10年以上ぶりに復活した人気メニュー「たらばがにの竜田揚げ」(2,800円)がお目見え。「生、焼き、しゃぶしゃぶもありきたり……」と考えた末に生まれたというこの逸品、厨房で揚げている時からとにかく香りがすごいんです。香りだけで飲めます!
殻付きのタラバガニは特製の漬け地に10日間ほど漬け込んでから揚げているので、しっとりふっくら。表面は香ばしいのに蟹の汁が滴るほどジューシーで、焼きとも天ぷらとも違う鮮烈な味わいです。常連さんの「あの味が忘れられない」という声から復活を果たしたそうなのですが、その言葉に納得。確かにこの「肴」は、左党の心に深く刻まれる名品だと思います。
木~日曜限定の海鮮丼ランチも別格!
そして、復活といえばもう一つ朗報が。寿司の登場によって約12年もの間封印されていた「信の海鮮丼」も帰ってきました。今年6月より、創業以来初の昼営業をスタートした「信 NOBU」。木~日曜限定で、8種類の海鮮丼ランチ(1,600円~)を楽しめます。
この日いただいたのは、約9種類のネタを盛る「海鮮丼」(2,900円)。味噌汁、自家製の大根皮の漬け物、特製のコーヒーゼリーまでセットになっていました。
お寿司にも使っているひと手間、ひと仕事加えたネタをこれでもかと盛り付けてあり、そのおいしさはいうまでもありません。でも、ただおいしいだけじゃないんです。隅々まで、波多江さんならではの工夫と心が行き届いているんです。
ネタとご飯の間にはほんのりと味を付けたとろろが仕込まれており、これがすごい。ご飯の熱によってネタが変化するのを防ぐと同時に、双方の一体感を高める役割に。とろろのトゲトゲとした舌触りを感じさせないよう、卵黄を混ぜている点にも唸りました。
タレももちろん自家製。「ごま醤油だれ」と、今回新たに登場した「ごま塩だれ」から選べ、私は塩だれを選びました。石垣島の塩を使い、くず粉で緩くとろみをつけているそうですが、これがまたうまい! マグロの赤身とトロはそれぞれ生と漬けの計4種類で、皮目を炙ったサバや石垣鯛の香ばしさ、ヒラスのハラミとヤリイカの甘味も上々。くさみをとった後、仮漬け、本漬けと段階を分けて丁寧に仕込んだ自家製いくらの醤油漬けも絶品です。
今回はご紹介できませんでしたが、「たいわたチーズ」や「うにの塩辛」をはじめとした左党垂涎の酒肴から、「海老ののりマヨ」などの小技が効いた逸品、定番の唐揚げも他とは一線を画すほどパリッとジューシーなおいしさ。一度食べると忘れられない逸品揃いの「信 NOBU」で、ぜひお気に入りの「肴」を見つけてくださいね。
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう












