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変わりながら歩んだ10年の軌跡。料理とワインが紡ぐ活気に満ちたビストロ

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国体道路沿いにある「餃子のラスベガス」の奥。その扉を抜けると、カウンターを囲む熱気と笑い声に包まれる空間が広がります。

2014年、警固で夫婦ふたりではじめたビストロは、2018年に現在の場所へ移り、昨年10周年を迎えました。通りからは様子のわからない奥まったロケーションながら、店内には活気と温もりが同居し、人と料理のエネルギーが満ちています。

Yorgo外観 画像は店舗より提供

スタッフが増えるにつれ、店主・川瀬一馬さんの関心は、“料理をつくること”はもちろん、“スタッフが心地よく働ける環境をつくること”へと広がっていきました。

会社を大きくした理由も、より多くの店舗を持ちたかったからではありません。個人店では難しい週休2日制や福利厚生を整え、スタッフが安心して暮らせるようにすること。それこそが、川瀬さんにとっての「成長」でした。

Yorgoハンバーグ

結婚や出産を経ても働ける環境を整えようと、不定期で昼営業を行う「Hirgo」を立ち上げたのも、その一歩でした。

営業日は月に8日ほどで、instagramで告知しています。子育て中の女性スタッフを中心に、旬の食材を自由な発想で構成する7品のおまかせコース(3900円)を提供。

夜の人気メニューではなく、その季節の食材から生まれる料理が並びます。定番メインの「ハンバーグ」(写真)は、牛肉の割合を多くして肉の旨みを引き出し、チーズを使ったホワイトソースと赤ワインソースを合わせた一皿です。

Yorgoモンブラン

若手のスタッフにはデザートの開発やレシピづくりを任せるなど、考え、表現する力を育てる場を設けています。

焼き芋のペーストを使った「焼き芋のモンブラン~ミルクアイス~」(写真)は、その代表例。香ばしい香りとやさしい甘みが広がり、食後の余韻を豊かに彩ります。

「やりたいという気持ちがあれば、年齢やキャリアは関係ない」。そんな川瀬さんの言葉どおり、厨房では20代からベテランまでが、それぞれの持場で息を合わせながら一皿を仕上げています。

Yorgo内観 画像は店舗より提供

店の中央にはオープンキチンが据えられ、そのまわりをコの字にカウンター席が囲みます。切り場・仕上げ場・揚げ場の3つの持ち場が連動し、次々と皿が仕上がっていくライブ感も、この店の大きな魅力です。

Yorgoウニとじゃがいも Yorgoハトシ

創業当初から変わらぬ人気を誇る「ウニとじゃがいも」は、シャキシャキとした細切りのじゃがいもに、濃厚でクリーミーなウニのソースをあわせた、店を象徴する料理のひとつ。近年の定番となった「Yorgoのハトシ~エビのソース~」は、エビのムースをパンで巻いて揚げ、香り豊かなオマール海老のソースで味わう一皿。長崎の郷土料理をベースに、ビストロらしい感性で仕上げています。

さらに、その時期に入荷する旬の食材を使った「本日のおすすめ」をはじめ、前菜やメイン、パスタ・米、デザートまで、「Yorgo」らしい“継続と変化”を感じるメニューが並びます。

Yorgoワインセラー Yorgo日本ワイン

Yorgo」のもう一つの主役は、食とともに楽しむワインです。とはいえ、開業当初、川瀬さん夫妻はワインに詳しいわけではありませんでした。けれど、福岡のいくつかのワインショップを巡り、「とどろき酒店」の店主・轟木渡さんとの出会いをきっかけに、その世界が広がっていきます。轟木さんとともに各地の造り手を訪ね、ワインが生まれる土地や人の想いに触れていくうちに、その魅力にのめりこんでいきました。

扱う銘柄も自然と増え、いまでは日本ワインを中心に、フランス、イタリア、ドイツ、オーストラリアなど、世界各国のボトルが揃います。ボトルは「餃子のラスベガス」と共有するセラーにずらりと並び、客が自ら手に取って選ぶことも。グラスワインの種類も充実しており、常時10種類以上を用意。料理との相性を考えた銘柄を提案するほか、最近ではワイン初心者にも親しみやすいよう、ドリンクメニューに「少し甘めのワイン」という項目も設けています。

画像は「High焼酎Fukuoka」主催者より提供

そんなお酒への関心の広がりは、ワインだけにとどまりません。

2025年夏には、「Yorgo」と「餃子のラスベガス」を会場に「High焼酎Fukuoka」が開催され、川瀬さんも主催者の一人として名を連ねました。テーマは“焼酎をもっと自由に、もっと楽しく”。飲食店と酒販店、そして生産者が一体となったこのイベントは、焼酎をワインのように多様な角度から楽しむ新しい提案となりました。

そうした発想の延長にあるのが、2025年冬に登場予定の「コニャックハイボール」です。コニャックはブドウを原料とするワインの蒸留酒で、造り手の個性や土地の表情がワインと同じように反映されます。川瀬さんにとっては、ワインや焼酎から自然に広がった関心のひとつでした。料理との相性を探りながら、温度や炭酸の強さ、香りのバランスを細かく調整。お酒のジャンルにとらわらず、味覚や気分に寄り添う一杯を提案する姿勢が、「Yorgo」らしさをいっそう際立たせています。

Yorgo集合写真

10周年を迎えた今も、「Yorgo」は変化を続けています。料理やお酒の提案だけでなく、スタッフが安心して働ける環境づくりや、世代を超えて受け継がれる店づくりを大切にしてきました。

その歩みは、福岡の枠を超えて広がっています。昨冬には長野・白馬のスキー場近くに冬限定の「餃子のラスベガス」を開き、今年はニセコに「Yorgo」、そして再び白馬へ。スキーリゾート地での期間限定営業では、地元の食材とワインを中心に、旅先ならではの出会いが生まれています。福岡を拠点にしながら、料理人たちはこうした経験を通じて新しい感性を育んでいます。

川瀬さんが見据えるのは、「次の10年」をどう過ごすかということ。新しい挑戦を恐れず、季節の食材やお酒の魅力を多面的に伝えながら、食を通じて人が集い、語り合える場所であり続けたいと語ります。

「おいしい料理をつくるのはもちろんですが、店も人も、少しずつ成長していけたらと思っています。完璧を目指すより、変わりながら続けていくことが大事かなと」。その言葉のとおり、厨房では今日も湯気と笑い声が立ちのぼり、カウンターにはそれぞれの時間が流れています。静かに、しかし確かに――「Yorgo」の日々は、これからも続いていきます。

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この記事を書いたひと

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