皆さんは、精進料理と聞いて何を思い浮かべますか? もしも「質素、物足りない」という先入観を持っているなら、迷わず訪れていただきたいです。そのイメージを軽々と覆し、今まで知らなかった美味しさを教えてくれる、そんな素敵なお店が2025年12月8日に誕生しました。
場所は大手門の一角、那津通りに面した寺院「正覚寺」の敷地内に位置します。精進料理は、仏教の教えに基づいた修行僧の食事として伝来・発展した菜食料理。思わず「寺院の親族の方がお店を開いたのかな?」と早合点してしまうも、さにあらず。物件とは偶然の出合いだったそうですが、不思議な巡り合わせを感じずにはいられません。
店名は、春の七草の一つで「神様を呼ぶ鈴」との意味を持つ「すずな」に由来するそう。「お客様に福をもたらす場所に」との思いが込められています。
落ち着いた佇まいの店内は8席のカウンターが中心で、奥には最大8名までくつろげる個室のテーブル席も用意。凛とした静けさのなかにもどこか温かみがあり、訪れる人を優しく包みます。
店主の木﨑雄紀さんが笑顔で迎えてくれました。木﨑さんは34歳という若さながら、京都の日本料理店「八条口 燕(えん)」や「和食晴ル」で約5年、アメリカ・ニューヨークの精進料理店「Kajitsu(嘉日)」※で5年半に亘り経験を積んだ実力派。2022年「Kajitsu(嘉日)」の幕引きとともに帰国した後は、「八条口 燕」にてランチ限定の精進コースを担当するなど経験を重ね、今年遂に念願の独立を果たしました。
※「Kajitsu(嘉日)」=江戸時代後期から続く京都の生麩専門店「麩嘉(ふうか)」による精進料理店。ミシュランガイドの星を獲得し、NYセレブや坂本龍一氏にも愛された店として有名
料理は全8品からなる「おまかせ精進懐石」(8,000円)一本で、内容は月替わり。肉類や魚類は使わず、野菜や果物、豆、穀物、海藻類で旬の美味を表現します。
いただいたのは1月のコース。精進料理は季節感と「五味=5つの味覚」「五色=陰陽五行説に由来する彩り」、「五法=5つの調理法」の組み合わせやバランスが重要とされています。新年にちなみ、まず「先付」として供されたのは、そんな「五味・五色・五法」を五感で楽しめるおせち料理でした。
あまおうと丹波の黒豆の白和え、糸島産の菜の花の辛子漬け、柚子が豊かに香る紅白なます、アーモンドペーストとローストアーモンドの香ばしさが香るたたきごぼうも美味。自家製の田楽味噌を塗った粟麩と梅麩に使用している生麩は「麩嘉」から取り寄せているそうです。“派手好きな織田信長がこんにゃくを赤く染めさせた”という逸話も残る、滋賀県近江の特産品「赤こんにゃく」や、長寿を願う縁起物のチョロギなども添えられており、晴れやかな気持ちが膨らみます。
続く「お椀」は、とろり滑らかな白味噌仕立ての京雑煮。北海道の昆布商「中村衞商事」から届く3年ものの熟成利尻昆布でとった出汁は味が濃く、それでいてクセのない清澄な風味が自慢です。溶き辛子をのせた丸餅、雑煮大根、金時人参、あえて加えられた博多雑煮の定番・カツオ菜も名脇役。ふくよかな甘味と旨味の後に広がる、カツオ菜のほのかな苦味が絶妙でした。
3品目の「口どり」には、「Kajitsu(嘉日)」のスペシャリテ「菊最中・胡麻豆腐」が登場。製法を受け継ぎ、「麩嘉」に許可を得て提供しているというこの逸品、ひと口で美味しさの虜になりました。提供の直前にサッと炙った最中は軽やかで香ばしく、もっちり滑らかな胡麻豆腐とおろしたての山葵、オリジナルのたまり醤油のコクも後を引きます。
さらに5品目の「揚げ物」、「カリフラワーのクリームコロッケ」も絶品です。カリフラワーとオーツミルクで作られたベシャメルソースは、動物性食材不使用とは思えないほど、まろやかで濃厚。中心に見えるのはカリカリに揚げたカリフラワーで、ひき肉と錯覚するような食感にも驚きました。
伝統的な精進料理の哲学や技法はそのままに、スパイスやオーツミルク等の食材も自在に用いる「すずな」の精進料理。これはニューヨークで経験を積んだ木﨑さんならではの強みかもしれません。
コースは聖護院蕪と柚子麩を使った「柚子窯蕪蒸し」へと続き、締めには土鍋ご飯がお目見え。この日は海老芋と芽キャベツの炊き込みご飯で、蓋を開けた瞬間に立ち上る香りがたまりません。
昆布出汁で炊いたお米と予め出汁で炊いたホクホクの海老芋が合わさり、あえて焦がした芽キャベツの香味と食感も格別。一緒に出されたけんちん汁と自家製の漬物の美味しさも相まって、ついついおかわりが進んでしまいます。
やがて、旬の果物や素材を使った「甘味」と、創業300余年の京都の老舗「一保堂茶舗」のほうじ茶が供されてコースは終幕です。
「制約があるからこそ、より一層手間を惜しまず、工夫を重ねて想像を超える味を引き出す。そんな奥深さと面白みが精進料理にはあります。とはいえ、あくまで1つの食ジャンルとして美味しさを追求したいという思いが強いので、当店ではネギやニンニクといった『五葷(ごくん)』は使いますし、料理に合わせたお酒も提供しています。精進料理にあまり馴染みがないという方にも気軽に楽しんでいただき、魅力を伝えていきたいです」と木﨑さん。
ヴィーガンの方、海外の方を案内するにも重宝する「精進料理すずな」。季節が変わるごとに訪れたい、そんなお店がまた一つ増えました。
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