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“当たり前”の真逆をいく無化調即席ラーメンの先駆者。

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麺とスープが両輪となり、それだけで完成するのが理想。

無化調麺をぼくなりのペースで追い求めていく本コラム。前回は春日市の「創作白湯 かなで食堂」を紹介した。
今回は福岡県の東、筑後エリアに目を向ける。同エリアといえば、稲作とともに小麦の栽培も盛んな地域として全国的にも知られる。とりわけ「うきは市」は、福岡の小麦需要を支える一大産地だ。小麦の生産が多いと、必然的に小麦を使った食文化においても深く根付く。
今回、訪れたのが、この地で製麺所を営む「鳥志(とりし)商店」。実は30年以上前から無化調の袋麺づくりにいち早く着手したパイオニアだ。
4代目にあたる鳥越久義さんにその歴史を伝えてもらう。

うきは市の北側を流れる一級河川・筑後川は、なんと全長143km。熊本県の阿蘇が源流で、その流れは大分、福岡、佐賀を巡り、有明海へと続く。うきは市はそんな筑後川がもたらす豊潤な水を生かし、古くから小麦の栽培が営まれてきた。
そういった背景から、うきは市では近隣で採れる豊富な小麦を使った麺づくりも盛んで、昔から製麺所が数多く存在した地域としても全国に知られていた。1918年(大正7年)に創業した「鳥志商店」もその一つ。「鳥志商店」では、初代の頃から乾麺のそうめんを作り続けてきた。

初代から2代目、3代目へと代替わりをしていく中で、そうめんのみならず、中華麺も製造するようになる。「鳥志商店」の大きな転機になったのが、3代目・鳥越邦夫さんが考案した無添加、それでいて素材の魅力も生かした、健康をテーマにした袋ラーメン「博多中華そばシリーズ」の誕生だった。

「即席ラーメンといえば、うま味調味料や酸化防止剤が入っているのが当たり前という時代だったので、その真逆をいく、健康的なラーメンを作ろうと試行錯誤して生まれた商品なんです。普通に袋ラーメンを作っていても、例えば大手が参入してくると、途端に価格競争に巻き込まれ、こちらは薄利多売で勝負するしかありません。でも、肝心な“多売”ができず、いわゆるジリ貧状態になってしまっていた。その活路として他にない商品を作りたいという考えもあったようですね」と久義さんは教えてくれた。

こうして世に送り出された「博多中華そばシリーズ」だったが、時代が早すぎたのか、すぐに大ヒットとはいかなかった。
その当時、久義さんはまだ「鳥志商店」には籍をおかず、全く別の業種の仕事に就いていた。「それこそ小学生くらいの頃から家業の手伝いに駆り出されていたので、大変な記憶しかなくって。実家を継ごうとは思っていなかったんですよ」と教えてくれた久義さん。ただ、満を持してリリースされた「博多中華そばシリーズ」が思うように売れず、事業の先行きも不透明な中、先代は1年かけて「仕事を手伝ってほしい」と久義さんを説得。ついには久義さんも根負けし、家業を手伝うことになっていく。

営業職としてこの無添加即席ラーメンを売り込んでいく中で、久義さんが並行して着手したのが商品のブラッシュアップだった。
「実際に家業を手伝うようになり、改めて自社の無添加シリーズを徹底的に食べてみたんです。ところが、これが全然、おいしくない。体にやさしいことは分かるんですが、これを日々、食べたいかというと、そうはならないと思ったんです」
こうして、原材料を根本的に見直していくことにした久義さん。あくまで「鳥志商店」は製麺所のため、スープづくりは外部委託となる。それからスープメーカーと膝を突き合わせ、対話を重ねていった。

「食べる、感じる、詳しく調べる。このサイクルを徹底しました。まずは食べてみて美味しいことが第一。納得のいく美味しさであれば、次のステップとして、何が原料に使われているのかを調べ上げます。例えば美味しいスープだったとしても、主原料が無化調だったとしても、副原料のほうにわずかでもこちらが望まない添加物が入ってしまっていることもあるんです」

こうして商品を改良し続けていった久義さん。看板商品である「とんこつ味」においては、実に4度もマイナーチェンジしているのだという。
「本当に美味しいものはついつい箸が進むものです。体は正直なんですよね。そうでないものには、二口目、三口目と続かない。最後の一口まで美味しい商品を、やっぱり追求していきたいんです」

もちろん、無化調のスープだけではラーメンにはならない。麺があってこその一杯だ。ただ、その麺においては、長年積み上げてきた実績と、独自の手法がある。「鳥志商店」では、そうめんづくりに端を発する乾麺づくりが土台。まずその日の天候に合わせ、職人たちが乾麺づくりの要となる乾燥室で温度と湿度を確認する。この乾燥室で実に3日かけて熟成と乾燥を同時に進めていく。特筆すべきはその干し方。麺を干す際、アルファベットの「M」の形にして干すのだ。

「これは弊社のほうで意匠登録した『鳥志掛け』という干し方なんですよ。一箇所にテンションが掛かるとその部分が折れやすくなってしまいます。その負荷を分散させるため、このような掛け方をするようになりました。全国的にも他にない、うちだけのやり方ですね」

こうしてできた麺は、無添加を謳うゆえ、食品添加物に該当するかんすいも使わない。実際に食べてみると、しなやかなコシがあり、つるりと滑らかな口当たりが痛快。手間暇をかけた麺だからこそ、心にグッとくるものがある。

「ラーメンはスープだけでも、麺だけでもダメ。どちらも美味しく、引き立て合う関係がないと成り立ちません。極端な話、具を載せなくても、麺とスープが両輪となり、それだけで完成するのが理想だと思うんです。そういう商品づくりを続けていきたいですね」

袋ラーメン「博多中華そばシリーズ」は、とんこつ、味噌、醤油の3つから始まり、現在は塩味、鶏味、九州醤油味なども展開し、レモン味、カボス味などの冷やし中華シリーズまで含めると12種にまで増えている。
目下、注目を集めているのが新シリーズの「たいゆうめん」。 “体(たい)”に“優(ゆう)”しい“麺(めん)”という意味が込められた商品で、麺からスープに至るまで、100%植物性の原料だけで製造されている。現在、「たいゆうめん」には「塩×ゆず」「醤油×生姜」「味噌×ごま」の3種をラインナップ。麺においても福岡県産小麦のラー麦にこんにゃく粉を合わせた特製仕様となっている。
ビーガンの人はもちろん、「ちょっとヘルシーなラーメンが食べたいな」というライトユーザーの心も虜にする一品だ。

「ラーメンという括りなので、やっぱり一口目のインパクトがほしくなると思うんですが、私はインパクトよりもバランスが重要だと思っているんです」とやさしい笑顔を見せる久義さん。「まだ商品化できていないアイデアもありますから、少しずつ、着実に形にしていきたいですね」と語ったその目は未来を見据えていた。

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この記事を書いたひと

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