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雑多な空間、ソリッドな無化調。アンバランスが調和する麺酒場。

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場所、空間、味、三つで一つ。どれか一つが突き出てもダメ。

無化調麺を自分なりのペースで追い求める本コラム。前回はうきは市の「鳥志商店」を紹介した。今回は“福岡の出口”という異名を持つ麺酒場「つどい」を取り上げたい。
2010年、福岡市中央区長浜で産声を上げた同店だが、その歩みは波乱に満ちている。建物の取り壊しによる立ち退きで2015年に薬院へ。しかし、ようやく街に馴染んだ頃、今度はマンション開発の煽りを受けて再度の移転を余儀なくされた。二度の不運を経て、2021年からは博多区住吉で営業を続けている。住吉と聞くと博多寄りの立地を想像するが、地域でいえば美野島エリアといったほうが福岡住民にはわかりやすいかもしれない。
ぼくにとって「つどい」は、長浜時代から通い続ける大切な場所だ。その場所がどこに変わっても、魅力は色褪せないし、定期的にあの麺が啜りたくなる。
なんだかんだと15年近い付き合いとなった「ギュウさん」こと店主・葉山さんに、改めて話を伺った。

「つどい」は“止まり木”のような存在だ。編集プロダクションから独立し、フリーランスのライターとして事務所を構えたのが福岡市中央区舞鶴だった。
ありがたいことに独立早々から多忙を極め、日々、県内外の取材と執筆に追われていた。空いた時間は街を徘徊し、買い物や飲食に充てる。充実はしていたが、頻繁に整骨院やマッサージへ通い、移動はすべてタクシー。何かに追い立てられるように、せわしなく生きていた。
そんな中で出会ったのが、事務所から歩いて10分ほどの距離にあった長浜時代の「つどい」だ。向かいに大好きなアパレルショップがあった縁で、自然と足を運ぶようになった。
麺と、ちょっとしたつまみ。現在の住吉でも変わらないその営業スタイルは、一貫している。鍛え抜かれたアスリートのように無駄のないアテ、そして“ヤバさ”の最大公約数ともいえるディープな空間。これらが両輪となって、訪れる客を心地よく“沼らせる”のだ。

店へ一歩足を踏み入れれば、ギュウさんが収集したポスターやフライヤー、アート作品の数々に圧倒される。昭和レトロなものから年代不詳のものまで、出自も国籍も不明な品々が集まっている。アダルトな怪しげなもの、さらには芸術作品までが渾然一体となっていて、ただ、不思議なことに、そのどれもが空間にピタリと馴染んでいるのは、店主・ギュウさんの卓越したセンスと審美眼の賜物だろう。
福岡にいることを一瞬忘れてしまうような独特の空気感。だからこそ、ここでは肩の力を抜き、素の自分に戻れるのかもしれない。

ギュウさんとの何気ない世間話を楽しみ、時に流れる音楽や酒について教わる。掌からこぼれ落ちそうなほどのささやかで愛おしい幸せを噛み締めながら、酒と肴を嗜み、締めに麺を啜る。これ以上、何もいらない、心から思うのだ。

改めて「つどい」のお品書きを眺めてみる。初見では到底、正体が掴めないメニューが並ぶ。「牛そば」「あさりそば」あたりは想像がつくが、「汁なしのアレ」「ソレ」「バリピ」「夜の匂い」「ボディシャワー」に至っては、食べ物か飲み物かすら判別不能だ。
これらは一種の隠語のようになっているが、ギュウさんに尋ねれば快く教えてくれる。だから初来店でも気負う必要はない。

検索すれば何でもすぐに正解が見つかる現代。そんな時代に、聞かなければわからない、通った者だけが知っているという不自由なシステム。それでも、ぼくのように「それが良いんだよ」という人も一定数いるわけで。そもそもの飲食の楽しさって、そういうところにあったんじゃないかとさえ思えてくる。

「場所は移ってきたけど、やっていること自体は全然変わらないんよね。うちは昔から2軒目、3軒目の店。福岡には美味しいお店がいっぱいあるでしょ。1軒目からしっかり使ってもらえるようなお店にすると、そんなお店とバッティングしてしまうしね。料理の幅も広げて、営業時間も長くして、という感じで、こっちもそういう店にしないといけなくなるから。あくまで締めの店として使ってもらえるように、決めてやってきたんよね」

二軒目以降に特化しているからこそ、メニューも徹底的に絞ることができる。メニューの核となる麺料理はスープなしが3種、スープ有りが3種の合計6種類。そこにギュウさんの気まぐれで、1~3種ほど麺料理が追加される日もあるそうだ。

たとえば「汁なし」系を見てみると、「ソレ」は、某居酒屋が流行らせた、中華麺をそうめんやざるそばのように食べるスタイルに着想を得たもの。そして「汁なしのアレ」は、あの大手メーカーのカップ焼きそばをオマージュし、手作りで再現した一皿だ。
特に「アレ」には、初めて食べたときに脳天を撃ち抜かれた。完璧に“あの味”がするのに、麺からソース、具材に至るまで、すべてが完全なる手作りなんだから。もちろん、カップ麺を買ってしまえば今なら300円出せばお釣りがくるだろう。それを飲食店で、倍以上の価格で食べる。その体験は痛快でしかなく、まさに遊び心とロマンの塊といえる一杯だ。

四次元そば

スープありの三種のうち、「牛そば」と「あさりそば」は長浜時代から愛される同店のシグネチャー。市場の近くという立地から生まれた海鮮系の「あさりそば」と、それに対比させる形で、店主のニックネームにちなんだ牛バラ肉を盛り付けて誕生した「牛そば」。この二つが「つどい」の双璧をなしている。

個人的にどハマりしているのが「四次元そば」だ。ベースの「鶏」ガラスープに、酒蒸しで抽出した「アサリ」の出汁、奥行きをもたらす「エビ」、そしてパンチを加える「牛」ミンチ。これら四つの食材が織りなす重層的な味わいは、唯一無二。担々麺のようでも、トムヤムクンのようでも、あるいは酸辣湯のようでもあるが、そのどれとも違う不思議な美味だ。

まずはミンチを混ぜずに、すっきりとした和風スープを味わう。次第に特製ラー油やスパイスで味付けされたミンチが溶け出し、スープが赤く染まっていく。その味の変化は、まさに「四次元」的な奥深さを持っていてクセになる。

店のどこにも謳っていないが、実はこれらすべての麺料理は無化調。
「レシピを監修してくれたのは『麺道はなもこし』の廣畑さん。実は中学の同級生で、その縁で力を貸してもらったんです」とギュウさんはいう。
原材料が手に入らなくなって量を変更するといった微調整はあるもの、そのレシピを大切に守り続けるギュウさん。最初の一杯である「あさりそば」から、その出汁を活かして派生した「牛そば」へ。その歩みを見れば、彼がいかに出汁という「根っこ」を大切にしてきたかが明白だ。

「昔は出汁に貝柱とか入れていた時期もあるんよね。出汁への思い入れはかなりあったほうだと思うんです。そうなってくると、うま味調味料に頼るのも、なんだかなという感じでしょ」

理由もなく、不要なものは入れない。そんな真っ直ぐな信念は、店づくりそのものにも表れている。
ギュウさんにとって、「ただ美味しい店」や「ただお洒落な店」は、全く興味をそそられない存在なのだという。
「場所、空間、そして味。どれか一つだけが突出していてもダメなんよね。自分が店を始めようと考えたとき、その発想も選択肢も全くなかった。三つで一つという、トータルな考えが根底にあって」
空間は雑多な印象なのに、提供される料理は極めてソリッドで、しかも無化調。このアンバランスさが不協和音とならず、むしろ崇高なアンビエントのように心地よく響く。これだから“つどい通い”をやめられない。

また、その卓越したバランス感覚はドリンクにも発揮されている。「夜の匂い」「残り香」といった店の顔ともいえるオリジナルドリンクは、どれも価格が抑えめだ。
「ちょっとつまんで、軽く飲んで、締めに麺を食べて2000円くらいでサクッといけたら、自分だったら嬉しい。そんな値付けができるメニューを作っているんよね」
そう語るギュウさんの笑顔には、根っからの酒場好きとしての優しさが滲んでいた。

開店は夜の21時。その時を待ちわびていたかのように、客たちが次々と吸い込まれていく。
いつからか、ファサードのシャッターは上まで完全に開かなくなった。一見さんには極めて入りにくい店構えかもしれない。だが、勇気を持って踏み込んだその先には、ここにしかない世界が待っている。

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この記事を書いたひと

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