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人民大会堂

露呈する習近平「一強」体制:全人代が映し出す独裁の光景

飯田和郎

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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、3月9日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。北京で開催中の全国人民代表大会(全人代)を現地取材の経験から紐解き、盤石に見える「習近平一極体制」の裏側に潜む緊張感と、日本に向けられた新たな「歴史戦」の火種について解説しました。

30年で3人、中国の「不動のトップ」

北京が位置するのは緯度でいうと、北緯40度。日本なら東北の秋田県、岩手県と同じ緯度にあります。内陸にある北京では、あまり雪は降らないだけに、冬は「凍り付く」という表現ができる寒さです。それでも、全人代が開かれる毎年3月上旬・中旬になると、春の訪れを感じさせます。

私が新聞社の北京特派員として、全人代を初めて現地取材したのがちょうど30年前の1996年。当時のトップは江沢民氏でした。その後、胡錦濤時代を経て、今は習近平時代です。つまり、この30年間で、3人しかトップが交代していません。一方、日本の総理は1996年当時は橋本龍太郎氏。現在の高市早苗総理までのべ15人が総理になりました。

今年の全人代からは、その「習近平一極体制」がより強固に、そして異様な形で浮き彫りになりました。

李強首相の「緊張」とトランプ氏への「忖度」

全人代初日のもようは、インターネットで同時配信され、私も見ることができました。舞台のひな壇の中央で無表情を貫く習近平氏。その前方で約1時間の政府活動報告を読み上げたのが、序列2位の李強首相です。

李首相の様子は、まるで背中に習氏の鋭い視線を感じながら「優秀な能吏」を演じているかのようでした。その緊張感からか、のちに発表された政府活動報告全文の内容と読み比べると、李首相はいくつかの重要なフレーズを読み飛ばしていました。そのひとつが、以下の箇所です。

「覇権主義や強権政治に断固反対する」

3週間後にトランプ大統領の訪中を控えているため、刺激を避けたかったという解説もあります。ただ、この「覇権主義や強権政治に断固反対する」という部分は、公式発表されています。「読み飛ばし」を、中国指導部のどのレベルが決めたかはわかりませんが、部下が上司の顔色を窺い、独断か忖度によって公式文書を読み飛ばす。この一幕こそ、現在の中国には「トップはいても、それ以下はいない」という実態を象徴しています。

「誰も信用しない」独裁者の猜疑心

全人代の開幕直前、中国軍では激震が走っていました。習主席の盟友であったはずの張又侠(ちょう・ゆうきょう)・中央軍事委員会副主席までもが、規律違反で調査対象となり、失脚したのです。

中国研究者のオーヴィル・シェル氏は、3月1日の読売新聞に掲載されたロングインタビューで「現代はさながら独裁者の時代」として、習近平氏、トランプ、プーチン両大統領の名前を挙げ「独裁者は、自らに対抗し得る存在を脅威とみなすものです」と語っています。

さらに習氏については「猜疑心を抱き、不安に駆られ、弱みを隠し、誰も信用しない」と評しました。盟友すら切り捨てるその手法は、全人代に集まった約2800人の代表、そして国民に対しても「逆らう者は容認しない」という無言の威圧として伝わっています。

GDP目標の引き下げと「4期目」への布石

海外メディアが全人代で注目したのが、GDP成長率目標の引き下げです。昨年までは3年連続で「5%前後」だったGDP(国内総生産)の成長率目標を今年は「4.5%から5.0%」にしました。

「4.5%」という数字は、私が取材を始めた1990年代以降で最低水準です。景気減速を現実的に認めた形ですが、周囲をイエスマンで固め、あえて低めの目標を設定する姿勢からは、2027年の党大会での「4期目続投」も視野に入れている、と考えるのは、うがった見方でしょうか。

東京裁判80周年:対日「歴史戦」の新たな舞台

ところで、3月8日は王毅外相が、全人代に合わせて記者会見を開きました。注目すべきは台湾有事に関する高市総理発言に関連して言及したことです。

「日本の軍国主義はかつて、『存立危機事態』を口実に、対外侵略したことを想起すると、強い警戒感と懸念を抱かずにはいられません」

「今年はもう一つの80周年があります。東京裁判の開廷から80周年の節目の年です。今や強大な力を有した中国と、その14億の国民は、いかなる者にも、植民地主義を容認したり、侵略に対する判決を覆したりすることを決して容認しません」

昨年は「戦勝80年」、そして今年は1946年5月3日に始まった「東京裁判」から80年。中国は今年も歴史問題を外交カードとして使い、日本への圧力を強める構えです。

今年も日本に対する中国の、いわば歴史戦が展開されそうです。この歴史戦も、習近平一極体制を支えているといえるでしょう。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。