リリアンの揺りかご
番組概要
歴史の女神は、いつも愚かで不寛容な私たちを見つめている―。
「私の子も殺すのですか?」
津久井やまゆり園障害者殺傷事件(2016年)の犯人に、障害児の父である記者は聞く。
ヘイトデモや歴史改ざんの現場でも、共通するのは一方的な不寛容だ。
1916年公開の映画『イントレランス』は、様々な時代の不寛容(イントレランス)を同時並行で描き、「無声映画の最高傑作」と評される。物語が別の時代の不寛容へと飛ぶ時、リリアン・ギッシュが揺らす揺りかごのシーンがはさみ込まれる。
100年前の映画からテーマと構成を借用し、現代日本の様々な不寛容を同時並行で描く長編報道ドキュメンタリー。本編80分。
制作者から
私が大学時代に観たサイレント映画『イントレランス』は、古代バビロンから現代アメリカまで、4つの時代で不寛容がもたらす悲劇を「同時並行で描く」という画期的な構成で、生まれたばかりの映画に巨大な影響を及ぼしました。
映画には、揺りかごを揺らす女性(リリアン・ギッシュ)が何度も登場します。揺りかごのシーンには「いつの時代も、憎悪と不寛容は人間愛と慈愛をさまたげる」という英語の字幕がかぶせられていました。
日本史学を専攻していた私には、揺りかごを見つめているリリアンが「歴史の女神」のように見えました。
2014年に福岡市でのヘイトスピーチを撮影した後、あの名画を踏まえてドキュメンタリーを制作する、というアイデアが浮かびました。現代日本の様々な「不寛容の現場」を同時並行で描き、場面が変わるたびに揺りかごを揺らすリリアンが登場するのです。揺りかごの中にいるのは、いつの時代も不寛容な私たちです。このアイデアは、やまゆり園障害者殺傷事件、ヘイトスピーチなどを取材した『イントレランスの時代』(2020年)で実現しました。 この番組は、JNNネットワーク大賞と日本民放連盟賞の優秀賞などをいただきました。
しかし、その後も不寛容は広がるばかりです。歴史学とジャーナリズムはともに「ファクトを積み重ねて、真実に迫ろう」とするもので、だからこそ今、ともに「歴史修正主義」からの激しい攻撃を受けています。『イントレランスの時代』を80分サイズにリメークするのを機に、歴史が改ざんされていく現場などを追加取材し、『リリアンの揺りかご』と改題しました。(ディレクター:神戸金史)