新スタイル青果店「美味伊都」

新スタイル青果店「美味伊都」

2021年2月、薬院にオープンした青果店「美味伊都(うまいと)」。「美味い」と「伊都」を合わせた屋号です。福岡県民であればすぐ想像できると思いますが、「伊都」は「糸島市」のこと。自然豊かな糸島で育ったおいしい野菜を販売するお店です。
糸島産野菜といえば、福岡市内の飲食店でも提供する店が多く、店頭でも「糸島産野菜を使用」と書かれているのをよく見かける一種のブランド野菜。僕たち消費者にとっては、いいことばかりが目につきますが、産地や小売する青果店にとっては悩みもあるようです。

産地の悩み/規格外品(B品)が出てしまうこと
青果店の悩み/野菜が売れ残ってしまうこと

これは僕たちが普段の生活では見過ごしやすいことですが、「食の裏側」では食品ロスという問題になっているのです。
産地では、サイズが小さい、逆に大きすぎる、または形が悪いなどの野菜は「規格外」とされ流通させることができないため廃棄せざるを得ません。
一方、青果店では、売れ残りそうな野菜は、価格を下げて投げ売りするか廃棄するしかありません。その問題を解決したいと立ち上がったのが「美味伊都」のオーナー・前川健太さんです。

食品ロス問題の解決に向けた前川さんのアイデアとは何でしょう?

キッチン併設の青果店

「美味伊都」の奥にはキッチンがあり、売れ残ってしまいそうな野菜(もちろんまだ十分食べられるお野菜ですよ!)や農家さんから仕入れたB品の野菜は、そこで弁当や惣菜、スムージーに生まれ変わるのです。
これは、前川さんが開業前に視察で訪れた際、薬院エリアはオフィスが多い場所柄、昼になると弁当を販売するキッチンカーがたくさん並ぶのを目にして思いついたというアイデア。その読みは当たり、売れ行きは上々だそうです。

僕もおかずのセットを購入していただいたのですが、とても美味しかったです。規格外野菜であろうと売れ残りそうな野菜であろうと、美味しい野菜は美味しいということを改めて実感しました。
さらにビーツのスムージーも飲んでみたのですが、おかわりしたくなる美味しさでした!作り方を聞くと、前川さんはオレンジジュースとビーツをブレンドしていると教えてくれました。僕は以前、るるるガーデンで育てたビーツを小松菜、バナナ、ヨーグルトと合わせたスムージーを社員食堂で提供したことがあるのですが、ヨーグルトを入れすぎたのか若干重めだったので、今栽培しているビーツが育ったらオレンジジュースとのブレンドを試してみたいと思います。

必要な分だけ買うことができるスタイル

もうひとつ、食品ロスを解決するためのアイデアがあります。すべての野菜に当てはまるわけではありませんが、プチトマトなどは「必要な分だけ買う」ことができます。
僕の家の冷蔵庫では、残念ながら使いきれず腐ったり、カビが生えてしまったりしている野菜を目にすることがあります。その代表格はキュウリとプチトマトです。「美味伊都」のスタイルが浸透すれば、少なくともうちの冷蔵庫で腐ったプチトマトを見ることはなくなるはずです。

農業と青果店での問題点

前川さんはB品や規格外という言葉を好みませんし、使っていません。「規格を設けない」ことを決め、出来る限り農家さんが作った野菜を受け入れるようにしているのです。
野菜のロスについては、近年、農家さんに目を向けた問題解決への取り組みは見聞きすることが増えてきました。しかし、青果店で起こる問題は見過ごされがちです。その点を考えると、前川さんが確立しようとしている「美味伊都」のスタイルに需要があるのは間違いないはずです。この方法を広めることが僕たちメディアの役目だと感じています。

取材させて頂いていると「明日は長崎の五島からメロンが40玉届きます」と前川さんが教えてくれました。出荷するメロン農家さんでは400玉ものメロンが余って困っているそうです。その原因は新型コロナによる観光客の激減です。
五島は、海に囲まれた自然豊かな観光スポットでもあります。そのため観光客が減るとお土産ものだけでなく、これまで現地の旅館やホテルで提供されてきた果物や野菜も行き場を失ってしまうのです。
これは五島だけではなく日本全国、さらに世界中で起きている問題でしょう。そう考えると、自分が買い物をする時に、どの店で何を考えて物を選ぶのか、改めて見つめ直す必要性も感じます。

また前川さんの試みは、かつての“古き良き地域のつながり”をも生んでいるようです。規格外の野菜は良質なのに安く買うことができるというメリットがあるため、飲食店の方が多く買われる傾向があるそうです。例えば、近所のうどん屋さんが通りかかった時にこちらから「おばちゃん、ネギいらん?」と声をかけ、声をかけられたおばちゃんが「いいと?」と言って買っていかれることもあるとか。
確かに、スーパーマーケットにはすべての買い物が一度で済むというメリットがあります。しかし、目に見えないためなかなか実感しづらいことではありますが、個人商店にも大きなメリットがあるように思います。

買い物は人間が日々の生活を送るうえで絶対に必要な行動です。だからこそ、そこを改めることで地球環境にもきっといい影響があるはずだと思うのです。

前川健太さん(43)

「美味伊都」をオープンする前は、糸島市のハンドボール実業団「フレッサ福岡」の球団代表を務めていました。そこでも持ち前の手腕を発揮し、実業団の新しい形として「昼は農業・夜はハンドボール」というシステムを作り、選手の収入確保やセカンドキャリアの場づくりに取り組んでいました。その経験から、生産物の出荷までは農家さんにもできるけれど、その先にある販路の拡大や交渉は難しい問題だということに気づき、「いつか青果店をやりたい」と思いはじめたそうです。

THE WRITER

松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
松井聡史 / RKBテレビ制作部ディレクター
カメラやパソコンよりも土を触ってる時間の方が圧倒的に長いRKB農園部(自称)。最近の仕事は、生ごみのコンポスト、畑の水やり、除草作業、野菜の販売、そして時々、番組企画書の作成。RKBラジオよなおし堂ではレギュラーでコーナーを持ち、SDGsを発信している。

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