ここ数年、福岡グルメ界で注目を集める高級寿司店の台頭。東京でも評価される店々が、このジャンルをネクストステージに導いたのは間違いないでしょう。
が、庶民に寄り添う昔ながらの町寿司も頑張っています。とくに2020年1月に暖簾を掲げた「すし土井」は、どんなシーンにも対応する自由度の高さが魅力。僕もご贔屓の一軒です。
「すし土井」が入居するビルは地下鉄祇園駅と呉服駅のほぼ中間。大通りから離れ、冷泉公園も近いせいか、穏やかな空気を感じるロケーションです。
階段を上ってドアを開けると、まずはカウンター席、その奥にテーブル席が見えました。続いて「いらしゃいませ!」の快活な第一声。つけ場に目をやると、店主の土井公司さんが人好きのする笑顔を浮かべていました。
フランクな人柄に職人の凛々しさを秘めた土井さんは、32年に及ぶ「佐々庄」(中央区荒戸)での職人生活を経て独立。「佐々庄」が西中洲「河庄」の流れを汲む寿司割烹の店だったことや、自身も元は和食志望だったことから、寿司も料理も同等に力を入れているそうです。
「時間がなければ寿司2~3貫の注文でも結構ですし、逆に焼物や刺身だけという使い方でも構いません」と土井さん。「どんな要望にも応えることが、私の目指す“古き良き寿司屋”の矜持だと思うので」。そう、この大らかさこそ僕が「すし土井」に魅せられる一番の理由なのです。
さて、メニューにコースはないものの、2名以上の事前予約で「おまかせ」(1人前8,000~)が注文可能。今宵は小鉢・刺身・料理・にぎり7貫+αの8,000円を頼みました。
刺身はマグロ、ヤリイカ、タイ、地ダコ、そして夏の味覚=ハモの5点盛り。近海の天然ものにこだわり、信頼の置ける柳橋の魚屋から仕入れるという鮮魚はどれも出色のうまさでした。
これに続く料理は、ボリュームある白身をふっくら焼きあげた太刀魚です。前日に塩を振って水分を抜き、自家ブレンドの若狭地を塗って焼きあげる──という手間をかけたプロセスが盤石の美味を生んでいます。アテとしても秀逸で、進みすぎる酒杯に気が抜けません(笑)。
その後はいよいよ握りが登場。1貫目の対馬産のアラは、4日間寝かせて十分に甘みを引き出した逸品です。ねっとりした中にも快い繊維質を残す食感には思わず唸ってしまいました。
が、食感の良さという点ではこの中トロも譲りません。空気をたっぷり含んだ微粒子のように、口の中でスッと消える舌触りはまさに夢心地です。
サービス精神旺盛な土井さんらしく、ウニも上質な唐津産をふんだんに。軍艦巻とは一味違うスタイルですが、これだと海苔が前面に出過ぎることなく、ウニと海苔それぞれがバランスよく風味を高め合うのです。
軽く締めた長崎・五島産のアジは、小ネギ、白ネギ生姜、ゴマとともにいただきます。それぞれの要素が青魚の臭みを抑え、複雑で奥行きある香りを醸成。見た目からは想像のつかない膨らみある一貫でした。
シャキッとした歯触りと、独特の風味がクセになる玄海産シャコも絶品です。土井さん自身も好きなネタで「これほど厚みのあるシャコは希少ですね」と満足げ。運が良ければ子持ちシャコが入る日もあるとか。
さらに、豊かなうまさにうっとりする穴子が終盤を盛りあげます。鮮度と仕込みが完成度を左右する繊細な素材ですが、これは本当に見事な仕上がり。また穴子の身を上に、皮を下に握る店が多いなか、「すし土井」では香ばしい皮を上面に持ってくるのも特徴です。この後は細巻が“オマケ”に出され、天然魚介の至福が詰まった「おまかせ」は幕を閉じました。
「今日は良い青魚入ってますよ」「じゃあそれ握ってもらおうかな」──そんな昭和のドラマで見たような、人間くさい“古き良き寿司屋”の伝統を継ぐ「すし土井」。短時間の滞在に寛容な懐深さも含め、僕はこの店を“店屋町のオアシス”と呼びたいと思います。寿司屋に不慣れな若い皆さんもぜひ!
ジャンル:寿司
住所:福岡市博多区店屋町3-1店屋ビル2F
電話番号:092-402-1184
営業時間:17:30~OS21:00 ※事前予約で昼営業も可
定休日:水曜
席数:カウンター5席、テーブル4席
個室:なし
メニュー:おまかせ8,000円~(前日まで2名以上で要予約)、にぎり特上5,500円・ 上4,400円・並3,300円、お好み1貫500円~、細巻400円~、茶碗蒸し600円
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