先日、僕の「もう一度食べたいリスト」に新たな料理が加わりました。それが「Spice Table」で食べた「カンジャンケジャン」。数日を経た今も舌の上に感動が残る、素敵な逸品との出合いをレポートします。
薬院六ツ角にほど近い「Spice Table」は今年でオープン10年目。店名の響きからインド料理店などを連想しがちですが、実は女性に人気の高い韓国料理専門店です。キャリア20年以上の店主が、本場のレシピと吟味された九州産食材で作る料理のうまさにはかねてより定評がありました。
店内は古材を多用したカントリー調。80年前のアメリカ製家具も置かれ、懐かしさや温かさで談笑する客たちを包みます。テーブルのメニューを見ると、すべてに説明コメントがあり、なかなか親切。短いながらも言葉選びが丁寧で、この食文化に向き合う店主の真摯さすら伝わるようです。
さて着席すると、早くも数々の美食家を陥落してきた「カンジャンケジャン」(500g/6,600円~。写真は約200g)が登場! 不漁の日もあるため2日前までに予約が必要ですが、待つ価値はあると評判の絶品スペシャリテです。つい最近も、噂を聞いて山口や名古屋から食い道楽が訪れたとか。
ちなみにケジャンとはカニの塩辛のことで、醤油ベースのタレに漬け込むとカンジャンケジャン、甘辛いタレに漬け込めばヤンニョムケジャン。「もちろんヤンニョムでもご提供できますよ」と店主の西山史朗さんが教えてくれました。
さっそくカニの脚を指でつかみ、チュルッと口に吸い込むと──途端に「おぉ!」と感嘆の声が漏れます。エロティックとしか呼べない、妖艶にとろける身の舌触り。そこに絶妙の塩梅で染み込ませたタレ=醤(ジャン)。高級和食にも似た純度を感じる、過去に食べたケジャンとは完全に別次元の美味だったのです。
西山さんいわく「うまさのカギは鮮度です」。カニは活きたまま甲羅を外し、中身を掃除し、酒で消毒してから醤に20時間ほど漬け込むと完成。「韓国では甲羅のまま数日漬け込み、完売するまで醤に漬けっぱなしという店も多いんです。でも、それだと衛生的に良くないので独自の仕込みを考えました。これなら素材の鮮度をギリギリまで保てますからね」。
長浜で仕入れる素材は、なるべく西山さんご贔屓の竹崎カニをセレクト。毎日水槽の海水を入れ替えるといった品質管理も欠かせません。「準備は大変ですが、これを楽しみに来られる方のことを思えば頑張れますよ」。客や食材に注ぐ熱意が、無類のケジャンを生む原動力なのでしょう。
なお完食後はごはんを甲羅に乗せ、醤や海苔をからめて食すお楽しみも。これまた後ろ髪ひく美味しさで、なるほど、ケジャンの別名を「ごはん泥棒」とはよく言ったものですね。
ケジャンと一緒に予約する客が多いと聞き、あわせて頼んだのが「カンジャンセウ」(1尾528円~)。ケジャン同様、大ぶりの赤エビを前日から醤に漬けたものです。「ケジャンと同じ醤なのに、これほど印象が変わるのか……」と面白い食べ比べができる一品。韓国の醤油に多彩な野菜と生薬を加えた、自慢の自家製醤にもうまさの秘訣がありそうです。
最後にウマ辛なものが欲しくなり、ソウルには専門店も多いという人気料理「オサムプルコギ」(1人前1,430円。注文は2人前~)をオーダー。弾むような歯応えがある霧島黒豚と対馬産のヤリイカ、自家製辛味噌、ニンニク、青唐辛子をサンチュに巻いて豪快にガブリ。すると直後に、辛・甘・酸・苦などが渦巻く大花火が口中で炸裂しました。韓国は「混ぜて食べる文化」と言いますが、やはりこの“極彩色の混沌”が韓国料理の醍醐味ですよね。
韓国の伝統に、丹念な仕込みと食材でアップデートを加えた料理たち。なんだか食べるほどに活力が湧きますが、西山さんが韓国料理に魅せられる理由もまさにそこだと言います。「医食同源がよく考えられているから、美味しく食べて元気になれる。シンプルだけど、実はそれって凄いことだと思いません?」。
ジャンル:韓国料理
住所:福岡市中央区薬院1-14-13-1F
電話番号:092-726-7201
営業時間:18:00~OS21:00
定休日:日曜
席数:テーブル31席
個室:なし
メニュー:カンジャンケジャン500g6,600円~、カンジャンセウ(1尾)528円~、対馬産ヤリイカと霧島黒豚のオサムプルコギ(1人前)1,430円、謹製スンドゥブチゲ1,430円、桜島どりのチーズタッカルビ1,430円、馬鈴薯とチーズのチヂミ1,078円、葛のビビン冷麺968円、ナムルと前菜の盛り合せ968円 ※コースは応相談
URL:https://www.instagram.com/spicetable.jp/
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