古い名曲を聴くと、それを聴いていた当時のがフッと甦えりますよね。それは飲食店でも同じこと。たとえば「味味」と口にするだけで、僕は25年くらい前(!)の若かった自分を甘酸っぱく思い返せます。今回訪ねたのは、そんな記憶の風景に残り続けるもつ鍋界の老舗です。
39年前に大名でオープンした「味味」は、その美味しさはもちろん、もつ鍋ブームの波にも乗って人気に沸いた専門店。僕もかつては足繁く通ったものです……が、不覚にも、5年前に今泉の隠れ家的商業施設「季離宮(ときりきゅう)」内に移転していたのを最近まで知りませんでした。さっそく足を運ぶと、品の良い空気が流れる一角に「味味」の看板を発見。敷石と木立が囲む佇まいは、どこか庵の趣きを感じさせます。
落ち着いた内装もなかなかアダルト。カウンターと掘りごたつの計16席は大名時代の半分ほどですが、いまは店主の首藤政博さんと女将さんの2人で切り盛りしているので最適な広さだそうです。
「味味」は、その女将さんの父親が興した店。二代目が営む現在もずっと同じ味を守っており、僕のようなオールドファンには嬉しい限りです。「“まだ味は変わっていないよね?”と、たまにチェックに来る常連さんもおられますね」と首藤さんが微笑みます。分かるなぁ、その気持ち。それくらい博多っ子の心をガッチリ掴むもつ鍋だったのですから。
と、その前に、まずは一品料理で胃袋を温めましょう。「牛酢もつ」(660円)は肉料理かと思うほど弾む歯応えが楽しめる一品。他店では豚モツを使うことが多いのですが、ここではネクタイと呼ばれる牛の食道を採用し、これが独特の食感につながっています。
もつ鍋屋らしい王道メニューの「にらとじ」(550円)も、シャキッとしたニラが多めで高得点。自家製ポン酢の風味も良く、このシンプルな料理にひとサジの深みを与えています。ポン酢はそれぞれ2種類の醤油と酢をブレンドし、和出汁を加えて寝かせたもの。「牛酢もつ」にも、これに柚子胡椒を入れたバージョンが使われていました。
そして、甘い香りが立ちこめる定番鍋と久々の再会! この「味鍋“もつ鍋”」(1人前1,650円、写真は2人前)のスープも、福岡産の醤油2種類をベースに、鰹と昆布の出汁を加えて作るのだそうです。煮詰まりやすいものの、そこはご夫婦が細かく目配りし、すぐに濃度を調整してくれます。
それにしても本当に素朴で、思い出補正を抜きにジンワリと響く味。鍋が空になるまでほとんど箸が止まりませんでした。ちなみにメニューを見ると、本来の正式名はもつ鍋ではなく「味鍋」。首藤さんいわく「店名も味味で“味”の3乗。美味しい味だよって、初代が強調したかったんでしょうね」。はい、まったく名前負けしてない逸品です!
さらに、「味鍋」の魅力はモツの種類の豊富さにもあります。小腸、ミノ、センマイ、ハチノスなどその数総勢7種類。一口ごとに異なる食感と風味が顔を出し、純粋に噛むのが楽しいのです。「いまは小腸のみの店が主流ですが、昔はミックスホルモンが多かったですよね」と女将さん。そうそう、だからここのもつ鍋は、今でもどこかノスタルジックなのです。
信頼できる専門業者から仕入れる、九州産黒毛和牛のホルモンも品質上質。ひとまとめではなく部位ごとに届き、鮮度が古めのものは仕込みで取り除くため、つねに安定した味で提供されます。「センマイとミノを多めに」なんて要望にも応えてくれますよ。
進化し続けるモダンなもつ鍋も好きですが、変わらぬ味もホッとできて良いものです。これからも“心の懐メロ”として僕らを長く楽しませて欲しいと思いました。なお2~3日前までに予約すれば、冷凍もつ鍋の持ち帰りや地方発送も受けてもらえます。
ジャンル:もつ鍋
住所:福岡市中央区今泉1-18-24季離宮1F
電話番号:092-741-1856
営業時間:17:30~OS23:30
定休日:水曜
席数:カウンター6席、掘りごたつ12席
個室:なし
メニュー:味鍋「もつ鍋」1人前1,650円、牛酢もつ660円、にらとじ550円、大手羽先唐揚げ2本770円、なんこつ塩焼き660円、黒毛和牛タン刺し3,630円
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