オープン1年半でミシュラン1つ星に輝いたこの店の名は、オーナーシェフ・森英昭さんの師匠の一人にして、フランスを代表する巨匠ミシェル・ブラス氏の言葉から取ったそうです──いわく「料理人とは、幸せの商人(=ル・マルシャン・ド・ボヌール)である」
すなわち、生産者を含む関係者の努力が結集し、客たちに“幸せ”を運ぶレストラン。その想いは確実に届いているようで、多くの客がここを大切な記念日に選ぶという事実が、何よりもそれを証明しています。
一足先にその“幸せ”を享受した友人の勧めで、僕もこちらを初訪問しました。警固小学校向かいのビルに、森さんが「Le marchand de bonheur」を構えたのは2018年のこと。2階にあるためか往来の喧騒は感じられず、ほんのり隠れ家感さえ漂うロケーションです。
ウラジロギンバの枝が躍動感を加える店内にはテーブルを3卓完備。少人数で貸切にするにもちょうど良いスペースです。奥の壁には、前述したブラス氏の言葉が手書きされていました。
古書を模したメニューに書かれたのは、この日予約したディナーコース12,100円の内容(他に16,500円あり)。東京「ラ・ターブル・ド・コンマ」、北海道「ミシェル・ブラス・トーヤジャポン」、仏の3つ星レストラン「ラシェット・シャンプノワーズ」など、錚々たる店舗で森さんが磨きあげた技術の成果です。その豊かな経験に導かれた最適解は、旬の食材からいかなる美味を引き出すのでしょうか?
まず驚いたのは、アミューズ後に出されたこのピンチョス。なんと有明産イソギンチャクを使ったフリットで、常連人気も高いスペシャリテです。「福岡で店をやる以上、何か一つは福岡ならではの料理を出してみたい。そう考えて、柳川地区で親しまれるこの希少食材を選んだのです」と森さん。
コリっとしたイソギンチャクは、噛み締めるごとに潮の香りがフワリと立ち、そこへアーモンド風味の衣やニンニク入りのチーズなどが花柳を加えます。シェフの視点の面白さを窺わせる小粋な一品でした。
糸島産菊芋のポタージュを挟み、続いて供されたのは国内でも珍しいステムレタスのグリエ。その特徴でもある太い棒状の茎(=ステム)をボイルし、バターやハーブを加えたパン粉をまぶして焼きあげたものです。表面のカリカリ感と、その奥に潜むみずみずしいレタスの対比がなんとも爽快。その旨味を強める役割の北海道産ホタテの存在も実に効果的です。
魚料理に続くメイン料理は、冬限定・牛ほほ肉のブレゼでした。こちらは風格漂う古典フレンチで、前日から赤ワインと香味野菜に漬けたほほ肉の味わいも、赤ワインやバターなどで仕上げた濃厚なソースの味も完璧。胃の腑の奥から温もりや活力が沸きあがる、滋養たっぷりの食味を堪能できました。
ほうじ茶のアイスクリームを添えたデザートは、ハーブ類を練り込んだタルトに、プリン状の生地と青森産リンゴをコンポート風に焼き上げたもの。最上部のシブーストクリームとの相性も良く、心安らぐ甘みが舌を優しく包みます。
どの皿も洗練とアイデアが刻まれた料理揃いですが、テーブルに置かれる前から鼻腔をくすぐる香りの良さも印象的でした。
「そこは“ライブ感”として特に意識している部分です」と落ち着いた声音で語る森さん。「フレンチのコースはよくオーケストラに例えられますが、僕の場合は物語性あるショートフィルムの連作集でしょうか。そうして食事の終わりに、1つの“幸せ”な物語を感じていただけたら嬉しいですね」
そんなシェフ渾身のスペシャリテ、「七谷鴨のトゥルト」(写真は2人前)も紹介しておきましょう。16,500円コースだけで味わえる、京都・亀岡産の激ウマな鴨を使ったパイ包みです。ぎっしり詰まった具材は手切りとミンチを使い分けたモモや胸身で、つなぎにはフォアグラやトリュフを使用。骨もコクのある出汁を取ってソースにしており、ほぼ1羽の鴨を丸々味わえる仕様になっています。一度食べればリピート確実の極上品。これもまた、最高に“幸せ”な物語に違いありません。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:フランス料理
住所:福岡市中央区警固2-2-23 ウイングコート警固2F
電話番号:092-406-6982 前日までに要予約
営業時間:12:00~OS13:30/18:00~OS20:00
定休日:水曜、第3火曜
席数:テーブル12席
個室:なし
メニュー:ディナーコース12,100円・16,500円、ランチコース4,950円・7,700円 ※昼夜ともサービス料8%
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