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ぼくは、ウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた

斎藤幸平、現場で学ぶ。

斎藤幸平は、スターである。
専門は、経済思想、社会思想。マルクスとエンゲルスの新全集を刊行する国際プロジェクト「MEGA」に参加し、その膨大な資料(特にマルクス晩年の膨大なノート)の中から、資本主義システムがもたらすであろう深刻な環境危機についてのマルクス晩年の洞察に注目し、現在深刻な難題への解決策とマルクス研究の可能性を広げる斎藤幸平の仕事は様々なジャンルを横断している。その柔らかで明晰な頭脳と軽やかな行動力。「論破」などという幼稚な戯れに身を置くことなく、他者とのコミュニケーションを経ていかによりよき社会を創るための地図を描くかを執拗に試みる人、それが斉藤幸平だ。

経歴も鮮やかだ。東京大学に軽く?合格したかと思うと3カ月でアメリカのウェズリアン大学に移りアメリカで暮らすも、当時アメリカ南東部を襲った大型ハリケーン・カトリーナの被災地での先進国アメリカの格差社会を目の当たりにしたことにより、資本主義への懐疑を究明すべくマルクス学を求めドイツのベルリン自由大学哲学科、フンボルト大学哲学科に渡り、史上最年少でマルクス研究の権威、「ドイッチャー賞」を受賞する。(その論文は、のちに『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』に結実する)
2020年に出版された新書『人新世の「資本論」』は、瞬く間にベストセラーに。
つい先頃まで大阪大学の准教授だったと思っていたら、いつのまにか東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授を務めている。

そんな華麗な経歴を持つ斎藤幸平だが、彼は地球の気候変動問題について啓蒙するスマートで耳障りの良いただの伝道師ではない。東京オリンピックも、COP(国連気候変動枠組条約(UNFCCC)における締約国会議)も全てが失敗であると一刀両断し、環境問題として世にはびこるグリーンウォッシュ、スポーツウォッシュを痛烈に批判する。
現代の気候変動に対して今必要なのは、小手先の「良き市民」の意識改革ではなく、われわれが暮らしているこの世界の巨大なシステム、つまりは、資本主義の根本的な変換を遂げることこそが唯一残された人類の未来であると訴える。

斎藤幸平はスターだから、いろいろな人がやっかむ。例えば先日、こちらも桁違いの頭脳の持ち主だと称され売り出し中の経済学者、起業家の成田悠輔は、斎藤幸平との対談前に自身のTwitterで「脱成長というキャッチコピーで年収を急成長させた斎藤幸平さんに金持ち批判で金持ちになる方法を教えていただきます」などと揶揄される。それでも彼は挑発に動じない。なぜなら斎藤幸平の怒りは、今時の軽さでちょっかいを掛けてくる派手好きの秀才ごときにではなく、巨大な資本主義システムとそれを当然に受け入れている人類に向いているのだから。

そんな斎藤幸平の新著『ぼくは、ウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』(KADOKAWA)が発売された。
そこには、アカデミックな研究者としての彼は存在せず、「体験する斎藤幸平」があらわれている。

では、本書で斎藤幸平はなにを体験するのか?
ウーバーイーツを
アツモリを
男性メイクを
昆虫食と培養肉を
脱プラ生活を
そして、水俣を体験する。

この本には、世界が(特に先進国で暮らす人々が)早急に取り組まなければいけないにもかかわらず、一向に先に進まない大きな問題が日常生活の細部にあり、目を凝らすことによって得られる「気づき」が示される。世界経済の暴走、社会の混乱、国家という巨大なモンスターへの小さな闘争の数々が描かれている。無力への嘆きとともに。

世の中の一部の人にとっては、斎藤幸平とは「言っていることはわかるけど、そんなの無理よ」と嘲笑されるドン・キホーテに映るかもしれない。
しかし、もしかしたら、読む人によってこの本は、行動へのスタートホイッスルになるかもしれない。

そもそも現代世界における私たちの絶望と希望はどこにあるのか?
その探求と解決策への思案を斎藤幸平にだけ押し付けていていいのか?
傍観者とは私自身のことではないのか?

『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』は、現代のアクティビストの闘争の書だ。
あくまでも軽く爽快に斎藤幸平の闘争は続く。
シュプレヒコールをいくら叫んでも1mmも動く気配すらないこの世界で。

ぼくは、ウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた 斎藤幸平

『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』
【目次】
第一章 社会の変化や違和感に向き合う
 ウーバーイーツで配達してみた
 どうなのテレワーク
 京大タテカン文化考
 メガヒット、あつ森をやってみた
 5人で林業 ワーカーズコープに学ぶ
 五輪の陰
 男性メイクを考える
 何をどう伝える? 子どもの性教育

第二章 気候変動の地球で
 電力を考える
 世界を救う? 昆虫食
 未来の「切り札」? 培養肉
 若者が起業 ジビエ業の現場
 エコファッションを考える
 レッツ! 脱プラ生活
 「気候不正義」に異議 若者のスト

第三章 偏見を見直し公正な社会へ
 差別にあえぐ外国人労働者たち
 ミャンマーのためにできること
 釡ケ崎で考える野宿者への差別
 今も進行形、水俣病問題
 水平社創立100年
 石巻で考える持続可能な復興
 福島・いわきで自分を見つめる

特別回 アイヌの今 感情に言葉を
学び、変わる 未来のために あとがきに代えて

Information

書籍名: 『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』
著者: 斎藤幸平
著者プロフィール: 1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx‘s Ecosocialism(邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞。同書は世界六カ国で翻訳刊行されている。日本国内では、晩期マルクスをめぐる先駆的な研究によって「学術振興会賞」受賞。45万部を超えるベストセラー『人新世の「資本論」』で「新書大賞2021」を受賞。
出版社: KADOKAWA
価格: 1,650(税込)
発売日: 2022年11月02日
判型: 四六判
ISBN: 9784044007157
KADOKAWA HP: https://www.kadokawa.co.jp/product/322203002325/

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