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かっこの中に何を感じる?不思議で素敵な薬院のカフェ「 it( )te 」

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いわゆる“イマドキなおしゃれカフェ”とは何か違うと思いました。店主のセレクトが冴え、空間やインテリアもハイセンス。大切に選ばれた“良いモノ”がアレコレと揃っていて、訪れる度に嬉しい出合いがある……。そう、まるでセレクトショップのようなお店だと感じたんです。それもとびきりセンスのいい――。

エコール薬院 薬院 カフェ it( )te “イッテ”

とある晴れた日の午後、私は薬院大通り沿いにあるレトロなビル「エコール薬院」へとやって来ました。フランス語で「学校」を意味する名が付いたこのビルには、飲食店からヨガサロン、教室を行うお菓子工房までさまざまなテナントが入居しています。お目当ては昨年11月、この個性的なビルの2階に仲間入りしたカフェ「 it( )te “イッテ”」。早速、正面左手にある階段を上ります。

薬院 カフェ it( )te “イッテ” 店内

突き当たりまで歩みを進めると、大きなガラス戸越しに店内が見え、その瞬間に心がピョンッと跳ね上がりました。不思議な形の照明に緑や柔らかなオレンジ色の椅子、天板がツヤっと反射しているテーブル、壁や床の風合いも素敵。モダンながらレトロさもあるし、無機質なようで温かみを感じる、独特の雰囲気をまとっています。

店に立つのは、長らくカフェ業界でバリスタとして経験を積んできたオーナーの大八木正夫さん。大八木さんは京都生まれですが、東京・蔵前に日本1号店を構える「ダンデライオン・チョコレート」の伊勢店で働いていた頃、催事で滞在した福岡に惹かれるものがあったと話します。その後さまざまなタイミングが重なり、縁あって約4年前に福岡へ移住。『REC COFFEE』の浄水テラス店を経て、「いよいよ自分でやろう」と独立を決意したそうです。

薬院 カフェ it( )te “イッテ” オーナー

「自分の店を造る上で、例えば“コーヒー専門で!”というような明確な狙いはありませんでした。自分が今まで触れてきた“良いなぁ”と思うものを集めて、この場所があることで良い循環を生んでいけたらなぁと……。
この物件に出合えたのは大名のアパレルショップ『chalt(チャルト)』や、平尾の『MANLY COFFEE』『floatan』といった個人的に通っていた大好きなお店の方々が、不動産の仲介・提案などを行う『NEWVILLAGE & PROJECTS』を紹介してくださったおかげです。さらにはそこの代表である新村朝和さんが、平尾のギャラリー『二本木』を手掛ける作家・松尾慎二さんと、WEB系のデザインや音楽、農業など多彩な経験を経て大工になったという異色の職人・ハマスさんを繋いでくれて。お2人に施工をお願いすることになりました」

薬院 カフェ it( )te “イッテ” 店内

「現代美術家のジェームズ・タレル氏の作品のように、天井から自然光を感じるような空間にしたい……といった僕の無茶な要望にも応えてくださり、とても感謝しています。店内の右端にある座席や奥にある土間のようなスペース(写真)を仕上げてくれたのは左官職人の藤井さんで、スツールや天板、右端のテーブルの土台を作ってくれたのは春吉のギャラリー『Oha/ioo(オハ トキドキ アイオーオー) 』のご主人。中心に置いているオレンジ色の椅子や珍しい3人がけのテーブルなどは、古道具や家具の販売、リースを行う『鋤田収集事務所』のものです」。大八木さんはそう穏やかに丁寧に、一つ一つ言葉を続けます。

薬院 カフェ it( )te “イッテ” コーヒー

「お出ししているスペシャルティコーヒーの豆は、縁あって出合えた長崎県諫早のコーヒー豆店『nai』のものです。後輩やお客様に教えてもらい諫早のロースタリーへ伺ったところ、焙煎を手掛ける方も味わいも素敵で大好きになり、取り扱わせてもらえないかとお願いしました」。
大八木さんがそういって淹れてくれた「ドリップコーヒー(ニカラグア)」(600円)は、雑味がなく実にきれいな口当たり。柑橘のような爽快感と柔らかな酸味がありながら、少し温度が下がると丸みのある甘味も広がって、後に残る余韻までも美しい一杯でした。

薬院 カフェ it( )te “イッテ” 薬院 カフェ it( )te “イッテ”

写真左は「ダンデライオン・チョコレート」のクラフトチョコレートを使った「カフェモカ」(700円)で、華やかで複雑味のある香りと味わいが秀逸。「Farm to Table」と題されたメニューには、福岡県嘉穂郡のハーブをふんだんに使った「モクテル」(900円)や、たくさんの農家さんと繋がり、旬の果物やハーブを使ってシロップを作る「凪ぐ」の季節替わりのシロップが並んでいました。シロップはお湯割り、ソーダ割り、ミルク割りなどで楽しむことができ、飲み比べできる3種セット(900円・写真左)もおすすめです。

ちぐら カヌレ

焼き菓子はご縁があって出会った3人の作り手さんにお願いしているそうで、メインに置いているのは実店舗のない焼き菓子店「ちぐら」と、エコール薬院の5階に工房を構える「KUKKA pienet kaupat」のお菓子です。熊本県産の米粉や阿蘇の牛乳、沖縄の黒糖で作られた「ちぐら」の「カヌレ」(450円)は定番メニューの一つだそう。外はガリッ中はむっちり、それでいて香りと口溶けがよく、“カヌレ界”屈指の美味しさだと感じました。

KUKKA pienet kaupat タルト

「季節や日によって内容が変わるお菓子もありますよ。今日は紅玉を使った『KUKKA』のタルトがあります」。大八木さんがそう言っておすすめしてくれた「アップルタルト」(550円)も、心ときめく美味しさでした。アールグレイを混ぜ込んだ生地が紅玉の甘味や酸味と豊かに調和して、幸せな気持ちがぐんぐんと膨らんでいきます。

薬院 カフェ it( )te “イッテ” 薬院 カフェ it( )te “イッテ”

フランス・リヨンに本店を構える紅茶専門店「CHA YUAN」のフレーバーティーや、沖縄・今帰仁村で作られているコーディアルシロップ、千葉の薬草園蒸留所「MITOSAYA BOTANICAL DISTILLERY」のクラフトジンなど、その他のメニューも気になるものばかり。「nai」の焙煎豆や「CHA YUAN」の茶葉は購入もでき、高知県発のナッツバター専門店「DADA NUTS BUTTER」のオリジナルナッツや「オリエンタルナッツ?」なる調味料も販売されていましたよ。

薬院 カフェ it( )te “イッテ”

最後に、真ん中の「かっこ( )」が気になる「 it( )te 」という店名についても伺ってみました。

「他人の手を交えず自分一人でやることを『一手/いって・ひとて』と言いますが、実際は何事も一人ではできないことばかり。この店も、不動産屋さんに物件オーナーさん、内装施工さん、業者さん、税理士さん、お客さん、友人や家族……と、数え切れないほどの方々が助けてくれたことで生まれ、成り立っています。( )の中に、僕の独立への意志や想い、たくさんの方々の工夫、かかった時間や手数を連想してもらえるかもしれないし、もっと別のものが浮かぶこともあると思います。寛容に、余白や豊かさを感じられる場所にしていきたいと考えてこの名を付けました』。

大八木さんの言葉がすっと染み込んで、私は一層心地よい気持ちに。お店を出ると、庭師・ヒタキさんが手掛けたという可愛らしい沈丁花が目に止まりました。――(もう、春がきたんだなぁ)。

さて、皆さんは( )の中に何を感じるでしょうか?

《it( )te “イッテ”》
福岡市中央区薬院2-3-5 エコール薬院203
営業時間/12:00~OS19:00(土・日8:00~10:00/12:00~OS17:00)※変動の場合あり
定休日/木・金曜

店舗名:it( )te “イッテ”
ジャンル:カフェ
住所:福岡市中央区薬院2-3-5 エコール薬院203
電話番号:なし
営業時間:12:00~OS19:00(土・日8:00~10:00/12:00~OS17:00)※変動の場合あり
定休日:木・金曜
席数:テーブル18席
メニュー:ドリップコーヒー600円、チャイラテ600円、“凪ぐ”Seasonal syrup700円~、モクテル900円、ちぐらのカヌレ450円、バナナブレッド500円
URL:https://www.instagram.com/it.sns.te

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この記事を書いたひと

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