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四季折々の食材が集結。警固の和食店で“最高の旬”と出逢う

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どんなに近代化した都市部でも、必ず季節の訪れを実感できる場所があります。それが日本料理店。津々浦々から集まった四季の食材が、風雅な和音を奏でる空間です。その響きには、この国に生まれた幸せを呼び起こす力さえあるような……。だからこそ、食材と真摯に向き合う「田しま」という店に、僕は“心のふるさと”的な安らぎを覚えるのかもしれません。

田しま外観

2012年に開業した「田しま」は、「いまこの瞬間だけの美味」を求める人々のための和食店です。ここの16,500円のコースには、常に季節の滋味が満ちあふれ、食文化の原点に触れる楽しみまで与えてくれます。そんなわけで3月某夜、春の旬との出逢いを求める僕は、警固の一画に掛かる暖簾をくぐるのでした。

田しま店内

店内の主役は8席のカウンター。控えめな音量でジャズが流れていますが、どこかオーセンティックバー的な静けさ・秘めやかさもあり、それがとても心地よく感じます。
着席すると、田島直さんが「いらっしゃいませ」と穏やかな笑みで迎えてくれました。優しげで泰然とした店主であり、と同時に一本芯の通った信念を持つ49歳の料理人です。
「私の信条の一つは、肉を使わず、魚と野菜だけで料理を作ること」と田島さん。「そして事前にメニューを決めず、その日仕入れた食材を見てから内容を組み立てることです」。そう、この自由さこそが「田しま」の強み。従来の常識や固定観念にとらわれず、“その日一番の旬”を自身で確かめ、最高の形で演出することが、田島さんを突き動かすモチベーションなのです。

田しま料理1 田しま料理2

何よりも食材の力を信じる田島さんの料理は、この夜、セリとつくしの卵とじから始まりました。甘みが強い根っこ周りを一緒に刻んだセリと、つくしのコラボは心にほっこり染みる温かさ。「根まで付いたセリって、あまり手に入らないんですよね」と田島さんも嬉しそうです。
この後も、2~3種の食材を生かした小ポーションの料理が登場。どれもが素朴で淡い味つけですが、その奥から立ち昇る確かな旨味には、まぎれもない和食の醍醐味があります。
そんななかで破顔したのがこの盛り合わせ。芽生姜を挟んだサバ、歯触りの良い数の子、前年に仕込んだ自家製カラスミ、真珠貝の燻製など極上の珍味ばかりです。「春は食材が豊富なので、少々豪華版にしています」と田島さん。思わず春に感謝したくなる一皿でした。

田しま料理3 田しま料理4

津屋崎産のタコは、あえて塩でぬめりを取らず、火入れの際もタコから出る出汁を柱に絶妙な柔らかさで炊きあげます。「純粋にタコの旨味を楽しんでいただきたくて」と田島さんはこともなげに言いますが、この優れた食味に達するには相当な試行錯誤を要したとか。
いろは島のカキを具材にした椀物にも素材の魅惑がたっぷり。「カキは茹でずにお湯に浸して仕込むと、身が縮まず、ふっくらしたまま美味しい出汁が得られます」。食材を慈しむそんな言葉の端々に、先述の“信念”を感じ取るのは僕だけではないでしょう。

田しま料理5 田しま料理6

佐賀のホワイトアスパラガスは、田島さんいわく「本日のメインディッシュ」。むいた皮を底に敷き、しっとりと蒸し焼きにした、これまた素朴な一品ですが、包容力に富んだ深い甘みが見事です。これこそ大地の恵み!
料理の最後を飾ったクエも、「余分な風味が付かないように」と酒蒸しにせずに茹でたもの。菜の花や小カブなどを茹でたお湯を用いることで、ホクホクした白身には野菜の柔らかな風味が染み込んでいました。

田しま寿司1 田しま寿司2 田しま店主

過剰な加工をせず、食材の“ありのまま”を引き出すだけで、料理はここまでうまくなるのかと、そんな感慨が広がる今宵の料理は全8品。それが終わると、次はシメの定番=江戸前寿司の出番です。
その幕開けは、田島さんも好きだというサヨリ。長めに切ったネタの真ん中を軽くねじり、立体的な造形美を与えた一貫です。口に入れると、見た目に劣らぬ輝きを放ってくれました。
さらに、舌の上で瞬時にとろけたアナゴも格別。対馬産のなかでも特に上質なものを卸してもらうそうです。これを含めて計6貫が出され、寿司好きとしては大満足ですが、料理や寿司の品数・割合は当日の仕入れで変わるのでご注意を。「今日はどんな旬に逢えるかな?」と田島さんに一任し、おおらかに構えるのがここでの正しい過ごし方なのですから。

ともあれ、田島さんが生みだす「今日しか出逢えない旬」は、ゆえに儚く美しく、かすかな郷愁もはらむ快い体験でした。こんな風流を欲する客がいる限り、これからも「田しま」は“真の贅沢”を振る舞う場所であり続けます。

この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。

店舗名:田しま
ジャンル:日本料理
住所:福岡市中央区警固2-12-12警固丸ビル1F
電話番号:092-724-7852 要予約
営業時間:18:00~入店21:00
定休日:日曜、祝日の月曜
席数:カウンター8席
個室:なし
メニュー:おまかせコース16,500円

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この記事を書いたひと

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