唐津のテーマ「食と器の縁結び」を五感で受け取る一夜限りのディナー
毎年ゴールデンウィークに開催されている「唐津やきもん祭り」。唐津市中心市街地を会場にさまざまなイベントが開催され、個性豊かな陶芸作家たちの作品に出会えます。そのプレイベントとして4月27日に中里太郎右衛門陶房にある「御茶碗窯記念館」でスペシャルディナーが開催されました。
料理を手掛けたのは、2年に一度パリで開催される世界最高峰の料理コンクール「ボキューズ・ドール」に、今年日本代表として出場した東京・銀座「アルジェント」の石井友之シェフ(人物_右)。福岡からは同じひらまつグループのイタリアン「リストランテ Kubotsu」の窪津朋生シェフ(人物_左)がスタッフとともに現地入りするという豪華な座組みでした。
「地方のイベントに参加するというのは自分にとって初めての試みでしたが、唐津の食材は本当に素晴らしいですね。特に魚介類は味が濃く、輸送のタイムロスがない分、新鮮そのもの」と石井シェフ。今回のコースは石井シェフがこの日のためだけに組み立てたもの。その一部をご紹介します。
まず登場したのは「唐津産桜鯛のマリネ ホワイトアスパラガスのチーズケーキ キャビアを添えて」。なんと器は400年以上前の古唐津。美術館クラスの器で料理を楽しめるなんて感動です。参加者全員からも感嘆の声があがりました。
このイベントを企画したのが、地元で長年、唐津焼を紹介・プロデュースしてきた「GALLERY一番館」オーナーであり、唐津観光協会会長の坂本直樹さん。「唐津焼は料理が引き立つ器。唐津やきもん祭りを立ち上げた頃から、その魅力を伝えたいと強く思っていました。今回は十四代中里太郎右衛門先生と〈ボキューズ・ドール〉のプロデューサーを務めたクリエイティブディレクターの鈴木啓太さん、石井シェフの力で素晴らしいイベントが実現しました」と坂本さん。
次に登場したのが「西洋蕪のフォンダン 胡瓜のスープ 様々なハーブの香り」。別添えのキュウリのスープをかけると、ハーブオイルの香りがたち、鼻孔をくすぐります。「器は3週間ほど前に東京に送ってもらい、そこから献立を組み立てました。この器は高さがあったので、内側のカーブに沿った盛り付けが叶ったというわけです。和の器にインスパイアされ、料理を考えるというのも新鮮な体験でしたね」と石井シェフ。
また「唐津の貝類を使ったシャルトルーズ」も料理と器のマリアージュを実感した一皿。絵唐津の器の上に、ホタテ生地で包んだアワビやハマグリ、ムール貝がのり、まるで虹の松原に浮かぶ月のようです。和の器がこんなにフレンチと合うなんて、新鮮な感覚でした。
メインは「ヒラメの青海波 サザエのエスカルゴバター」。ヒラメの身でヴェルヴェーヌ(ハーブ)を包み、極細の黒大根で唐津の海の波模様を表現しています。アスパラガスにはエスカルゴバターで和えたサザエが添えられ、潮の香とともに濃厚な旨みが広がります。
器はなんと、今回のイベントのために十四代中里太郎右衛門氏が焼き上げたもの。釉薬を勢いよく柄杓でかけて焼成したもので、一枚一枚表情が異なります。400年前の古唐津から、今つくられたばかりの器まで、コースともに唐津焼の歴史が感じられるのも見事な演出です。
ペアリングは「リストランテKubotsu」のソムリエ・重松冬樹さんが担当しました。乾杯は佐賀の日本酒「七田」のスパークリングでしたが、ほんのりと甘みを感じる爽やかな味わいが鯛と相性抜群。その後もイタリアやフランスの白が続きましたが、どれも料理と最高のマリアージュでした。
デセールの「ココナッツのメレンゲ 南瓜のシブーストソース パッションアングレーズ」は石井シェフが「ボキューズ・ドール」出場時、“子供のための料理”という初の課題で最高位を受賞したものを、今回のイベント用に進化させたもの。審査員しか食べることができなかったデセールを今回特別に披露してくれました。中身はカボチャとバナナとリンゴのコンポートにキューブ状のカボチャアイス、ココナッツのメレンゲ、カボチャのムースなど。上にはエディブルフラワーに焼き菓子の蝶が飾られています。見た目の美しさはもちろん、カボチャとフルーツの香りが絡み合う幸福感溢れる味わいに感動~。
最後の小菓子の「抹茶とライチのボンボンショコラ」は湯呑で提供。茶葉を土に見立て、クロモチの枝の下にライチ風味の抹茶のチョコレートが現れます。抹茶とライチがこんなに合うなんて! 最後の一品まで唸らせてくれます。
料理の美味しさは筆舌を尽くしがたいほどでしたが、さらに贅沢だったのが、シェフの仕事を間近で見ることができたことです。いつしか参加者は盛り付け台の周囲に集まり、石井シェフと窪津シェフの息の合ったプロの技に釘付けに。ふたりの真剣かつ楽しそうな仕事ぶりに、会場も和やかな雰囲気に包まれました。
「唐津焼の色、質感、形、すべてが刺激となり、自分自身が新しい料理の世界に出会うことができました。唐津は本当にポテンシャルが高い土地です」と石井シェフ。
唐津焼の器と料理の素晴らしい相性を実感できた夢の饗宴。今回のイベントは一夜限りでしたが、唐津の街を訪れるとさまざまな飲食店で、その素敵なマリアージュに出会えます。また、唐津焼に盛り付けると家庭料理がぐっと美味しそうに見えるというマジックも。美器・美食を求めて、今度の休日、唐津を訪れてみてはいかがでしょう?
GALLERY一番館
佐賀県唐津市呉服町1807
0955-73-0007
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