身の回りにあるものを災害時に活用する「フェーズフリー」という新たな考え方が広がっています。キーワードは「日常に溶け込んだ防災」です。
被災地へ派遣できるホテル
去年オープンした「HOTEL R9 The Yard豊前」。コンテナ型の客室が36部屋並んでいます。客室の内部はベッドに風呂、トイレが設置された「普通」のビジネスホテルですが、客室の外部は「普通」ではありません。
アールナインホテルズグループ 若本光平マネージャー「それぞれの客室にタイヤと車両ナンバーがついてて、有事の際にはいつでも被災地へ派遣できるホテルとなっている」
「レスキューホテル」とも
よく見てみると、コンテナ型の客室はタイヤがついたトレーラーで、入り口の反対側にはナンバープレートも付いています。トレーラーヘッドと呼ばれる車両でけん引すれば、すぐに移動することができるのです。このようなホテルは「レスキューホテル」とも呼ばれていて、災害時に仮設住宅などとして活用することができます。開発のきっかけは、東日本大震災でした。
若本マネージャー「避難所で多くの方が生活に苦しんでいる状況を目の当たりにして、移動できるコンテナであれば、災害時でも迅速に安心安全な空間を提供できると思った」
非常時にも役立つ
運営会社によると、これらコンテナ型の客室は、水道や電気などのライフラインが確保されている場所に移動後、最短3日で使用可能です。災害時のほか、新型コロナのPCR検査所などの医療施設としても活用されたということです。このホテルのように身の回りにある物やサービスを、日常時はもちろん非常時にも役立てる「フェーズフリー」という新しい考え方が広がっています。
広がる「フェーズフリー」
フェーズフリー協会 佐藤唯行代表理事「普段の私たちの暮らしを豊かにしているものが、もしもの時、いざというときの私たちの生活や命を支えるようにデザインされていることが、フェーズフリーの定義。まだまだ始まったばかりの考え方だが、急速に広まっていると実感」
これまで、災害への備えは、非常用の品などを別に準備することが主流でした。普段使わない「非常用品」にどれだけの費用をかけるのかが課題でしたが、日常的に使える「フェーズフリー用品」だと費用に対する見方も変わってきます。
フェーズフリー協会 佐藤唯行代表理事「防災はするべきだという思いと、備えることは難しいと思っていることが同時に存在している。すごく生活が豊かになると思って使っていたら、ついでに非常時のことも守れてしまったら、備えられないと思っている多くの人たちを守ることができるんじゃないか」
「かまど」にもなるベンチ
去年4月に開業した福岡市博多区の大型商業施設でも「フェーズフリー」が取り入れられています。
RKB永牟田龍太「私が座っているベンチ、多くの人が休憩に利用しますが、災害時にはかまどとして利用できます」
「ベンチ」の座面をはずして、複数のパネルを組み立てると・・・。数分で、災害時などに調理ができる「かまど」が完成します。
三井不動産商業マネジメント 浅苧尚摩さん「地震災害や食品が供給できない局面において、かまどベンチが火を使用した鍋や炊き出しなど避難時においても利用いただけるようなベンチ。フェーズフリーという考え方は大事だと思っていて、それが普段使ってもらうお客様の安心安全につながっているという点では、これからもどんどん検討していきたい」
「日常に溶け込んだ防災」
身の回りにあるものを災害時に活用する「フェーズフリー」。「日常に溶け込んだ防災」が今、全国に広がっています。
フェーズフリー協会 佐藤唯行代表理事「備えあれば憂いなしという言葉があるけど、フェーズフリーは備わっているから憂いなしみたいなことなのかなと思う。有史以前から繰り返し起きてきた災害が、フェーズフリーという新しいコンセプトで解決できる日が来るんじゃないか」
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