「水でしかミルクをあげられなかった…」赤ちゃんと避難する時に直面する課題
「災害への備え」を考えます。授乳、オムツ替え、夜泣きと多くの心配事が伴う小さなお子さんと一緒に被災した場合、家族は自分で自分と子供の身を守る「自助」の必要性がありそうです。
目次
「避難所に行けば……」無理だった
渡邉恵里香さん「息子を抱っこして、はいながら廊下へ避難をしました」
福岡県内に住む渡邉恵里香さん。2011年の東日本大震災の時、茨城県に住んでいた渡邉さんは、生後11か月の長男と2人で自宅にいました。
渡邉恵里香さん「ガス台も反対の方向に向いてしまって、ガラス類も全部割れている、足の踏み場もない状態でした。『家にいることはできない』『避難所に行けばどうにかしてもらえるだろう』と思って、避難所に行きました」
しかし最大震度6弱の揺れを観測した茨城県の避難所は、天井が崩れ落ち、使えなくなっていました。仕方なく自宅に戻ったものの、子供の離乳食やミルクを作るためのお湯は備えていませんでした。
渡邉恵里香さん「水でしか(ミルクを)あげられなかったんですね。いつも飲んでいる温かさと違うから、赤ちゃんは泣くんですよね。罪悪感と後悔でいっぱいで、『行政に頼っていたら』『何とかしてもらえるだろう』ではだめだな』って」
「安全が確保できるなら自宅にとどまって」
「同じ経験をしてほしくない」と渡邉さんは防災士の資格を取り、現在、被災時に役立つ安全な抱っこの方法などを広める活動をしています。子供の防災に詳しい専門家は、安全が確保できる状況であれば自宅にとどまる「在宅避難」を勧めています。
危機管理教育研究所 国崎信江代表「赤ちゃん抱っこして小さいお子さん手を引いて、さらに荷物、自分の必要なものもとなりますと、かなり大量の持ち出し品が出てくる。環境の変化に適応するのが大変な赤ちゃんや小さなお子さんに関しては、何と言っても自宅で過ごすことが一番な訳ですね」
粉ミルクと湯の備蓄が「ある」避難所は6割
また、避難所は自宅からの物資の持ち込みを前提としているため、すべての避難所が粉ミルクやお湯などを備蓄しているとは限りません。RKBが福岡県内の市町村を調べたところ、避難所に粉ミルクとお湯の備蓄をしているのは、回答のあったうち6割ほどの市町村で、授乳スペースを備えているのは7割ほどにとどまっています(全60市町村のうち20市町村が回答)。
北九州市は「乳幼児専用」避難所を2カ所に
北九州市は、4年前、乳児を連れた家族などが専用で使える避難所として市内2か所の施設を指定しました。
RKB大北瑞季「こちらの施設、普段は子供が遊べるスペースがあり、育児相談もできるんですが、災害時には避難所として活用されることになっています」
避難生活が長期化した際や市民から要望があった場合などに、この施設を避難所として開設する計画です。
北九州市子ども家庭部 田津真一・総務企画課庶務係長「ここにマットを広げて避難していただく。複数の世帯がいる場合にはパーテーションを置くなりしてプライベートを作る。そういう運用になるかと思います。周囲に迷惑をかけると肩身の狭い思いをされると思うので、過去の災害を教訓にこういう施設を設けています」
避難時に、遊具のエリアを開放するかは「状況に応じて検討する」ということですが、授乳室やオムツを替える台が利用できます。
不安……「家族で必要な分は自分たちで用意する」
市民「飲食できるかどうかと寝るかどうかとか……騒がしく泣いたりするので不安」「ほかの人に迷惑をかけたらとか騒ぐので気になります。周りの方も同じ状況なら来やすいかもしれないです」
ただ、こうした対応が取れている自治体は、まだ多いとは言えないのが現状です。そのため、専門家は小さな子供がいる場合、家族が自分で自分の身を守る「自助」の重要性を訴えています。
危機管理教育研究所 国崎信江代表「“要配慮者”と言った時、高齢者、障害者、外国人、その後に妊婦さんだったり乳幼児だったりといった順番で支援策がとられていることが多い。“自助”という視点から、自分たちの家族で必要な分は自分たちで用意する。避難する必要があったら自分たちで避難先を見つける。そういった意識で備えをしていただきたいと思います」
災害が起きた時に大切な子供の命を守れるのか。今一度、備えについて考える必要がありそうです。
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この記事を書いたひと
大北瑞季
1994年生まれ 愛知県出身 主に福岡・佐賀での裁判についてのニュース記事を担当。 プライベートでは1児の母であり、出産や育児の話題についても精力的に取材を行う。