国慶節で来日する中国人観光客に示したい日本が誇るコンテンツとは?
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中国は10月6日まで国慶節(建国記念日)の大型連休だ。今年は新型コロナ禍が一段落して初めての国慶節休み。これから増えるであろう訪日外国人客(インバウンド)の中でも、中国人は特に多くなりそうだが、彼らは日本をどう見ているのだろうか? 東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、10月5日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でコメントした。
処理水放出に政府が反発するも旅行先としては人気
中国の秋の大型連休は、10月6日までの8連休。これは国の定めた休みだが、今年は土・日曜まで入れると10連休になる。富裕層の中には、もっと続けて休暇を取る者もいるようだ。中国人にとって、春節(旧正月)は故郷への帰省が中心だが、国慶節の連休はレジャーの旅行が多い。
中国政府も8月、日本への団体旅行を解禁した。日本へ来る団体旅行は3年半ぶりだ。新型コロナ流行前の2019年の1年間、中国からの訪日客は国・地域別で最多の959万人に上っており、インバウンド全体の約3割を占めた。
今年は東京電力福島第一原発からの処理水放出に中国政府が反発してきた。その影響が、この大型連休に出るのかどうかと注目されたが、日本は人気があるようだ。中国の大手インターネット検索サイトによると、国や地域別の人気旅行先ランキングで、日本が1位だった。
果たして本当に、中国人は日本観光が好きなのだろうか? さらに言うと、日本をどう見ているのだろうか? 私の個人的な体験から考えてみたい。
豊かな自然に加え「過去の教訓」を持つ九州
先週の土日、私は中国人の家族3人を阿蘇や別府に案内した。私の友人である男性は、東京の研究機関に半年間在籍している。彼は妻と小学生の息子を上海に残しての単身赴任だが、その妻子の強い希望で、今回の大型連休を利用して来日し、家族旅行を計画した。九州へ来るのは皆、初めてだ。
福岡に住む私のところには計画段階から相談があり、その流れの中で、一緒に行くことになった。ただ、私自身は日本に住む中国人ではなく「中国からやって来た中国人」に接したかった。処理水問題もあって、彼らが日本に対して抱くイメージの悪化が指摘されているがどうなのか。メディアによる情報だけではなく、自分で感じてみたかった。
福岡からは私が運転するレンタカーで出発。つまり私は「通訳兼観光ガイド兼運転手」を務めたことになる。九州道で、まず阿蘇へ。初日は草千里、大観峰、阿蘇神社、そして湯布院などを回った。夫人と小学生の息子は初対面だったが、わいわい喋っているうちに打ち解けた。
彼らが繰り返していた感想は「空気がいい!」ということ。私は「日本のどこも空気がいいというわけではない。阿蘇や湯布院は自然に囲まれているからだ。都会は違う」と説明した。それでも彼らは「中国ではリゾート地でも空気がいい所ばかりではない。ましてや上海など都市部の大気汚染は、今も問題が多い」。そんな答えが返ってきた。
私はさらに、水俣病の話もした。「阿蘇と同じ熊本県に、水俣という海辺のまちがある。かつて、大きな工場が流す排水によって、海の環境が侵された。汚染した海の魚を食べた多くの住民が亡くなったり、健康被害を受けたりした。今も苦しむ人がたくさんいる。日本の社会には、そのような過去の反省がある。だから、自然や環境を大切に守ろうという思いが我々にはある」
日本を訪れる中国人旅行客のお目当ては、グルメや買い物のように言われる。確かにそうだろうが、やはり「自分の国にはあまりないもの」というと、「自然」も大きな要素なのだろう。九州はその意味で、大きな財産、それに過去の教訓を持っている。
「約束事」を実践してきた日本
友人と息子、それに私の3人で、別府の街の公衆浴場へ行った。旅館のお風呂もいいが、私は敢えてこういう浴場へ連れて行きたかった。脱衣場で、彼らがしげしげと見ていたのが、中国語、英語、ハングルで書かれていた注意書き=「入浴時の注意」だ。「浴槽に入る前に、身体に湯をかける」また「浴槽内ではタオルを湯に浸けない」といったことが書かれている、おなじみの掲示だ。
2人は「確かに、みんなで使う浴槽だから、『掛け湯をする』『タオルを湯に浸さない』というルールは大切」、また「このルールを知らないと、お互いに誤解が生まれる可能性がある」と納得した様子だった。地元の人は「よそ者がルールを破る、荒らす」と考えるだろうが、外国人はそもそもそのルールを知らない。
先ほどの「空気がきれい」という感想、それにこの入浴時の「ルール」。この二つに共通しているのは「みんなが、自分たちの社会を守るための、また、よくするための約束事」ではないか。それを実践してきた国として、日本社会の良いイメージづくりになっているのではないかと思う。
「規律」は日本が誇るコンテンツ
外国人は、自分たちの社会と違うシステムをよく観察している。例えば、日本人にとっては当たり前の「車道ではきちんと横断歩道を渡る」「混み合っているファストフード店では列をつくる」、「小さなゴミでも捨てない」といったことだ。
コロナ禍で、旅行客の往来がずっと制限されてきた。それがほぼなくなった。そして、ちょうど観光シーズンを迎えた。海外からのインバウンドというと、どうしても「お金を落としてもらう相手」ということに、考えが行ってしまうような気がするが、「規律」という、日本が誇るコンテンツを示すいい機会ととらえたい。
もちろん、中国にも規律はある。しかし、多くが「強制された規律」「創られた規律」だ。ルール、約束事を自然に果たすことができる日本社会は、お手本でもある。
悪意のない「マナー違反」にはお手本となる振る舞いを
インバウンドが日本に来てくれるのはいいが、一方で、殺到する観光客が環境を乱す「オーバーツーリズム(観光公害)」を懸念する声もある。ただ、別府の温泉で見たように、外国人たちは私たち日本に住む者の振る舞いをウオッチしながら「じゃあ、ここではどうしたらいいの?」と参考にしている。
文化・習慣は国によって異なる。インバウンドの訪日は、それを理解し合える場ととらえられないだろうか。旅行から帰ってきた翌日(10月2日)、朝日新聞の社説が、オーバーツーリズムを取り上げ、こんな提言をしていた。
訪日客の「マナー違反」には、文化や習慣の違いに基づく悪意のない行為もある。京都市などは挿絵(さしえ)入りの看板や、多言語のデジタル掲示板を使った対策に取り組む。国も空港での呼びかけや観光業者を通じた周知など知恵を絞ってほしい。
「文化や習慣の違いに基づく悪意のない行為」。私もそう信じたい。中国での日本パッシングの報道も徐々にだが、鎮静化している。中国の庶民は、冷静なのだろう。だからこそ、私たちは「見られている」ことに敏感でいたい。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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