先日、大濠公園内にオープンした「天酒堂 大濠公園」はわずか6坪のギャラリー。〈酒碗〉という酒器を商う小さな空間ですが、そこに待っていたのは今年最大級の驚きでした。日本酒シーンに鮮烈な一石を投じる、愛好家必見のアイテムを紹介します。
9月18日、大濠公園の池を望む一画に、モダンな佇まいの「天酒堂」はデビューしました。昨年9月には東京・南青山に1号店を構えており、ここは西日本初上陸の2号店となります。
店内には十碗十色の作品がズラリ。唐津をはじめ、伊賀、信楽など18の窯元から集まった趣深い〈酒碗〉たちです。これは日本酒から最高の味わいを引きだすために、「住吉酒販」代表の庄島健泰さんが考案・命名したもの。長年追求してきた酒・食・器の関わりの中で、ついに手にした美しい解答でもあります。
抹茶碗の技法を用い、ぐい呑みより大きめに焼かれた〈酒碗〉は、形状からサイズまであらゆる要素を計算したもの。意外にもありそうでなかった酒器とのことで、さっそく興味津々で開発秘話を伺いました。
「きっかけは、現在のシーンを牽引する30~40代の造り手たちの登場でした。農業・伝統・地域性も含めた日本酒文化の再構築に挑む人々で、彼らが台頭し始めた2010年頃から繊細な味の酒が増えたんですね」と庄島さん。アルコール度数14%前後の飲みやすい銘柄が並び、ユーザー層も広がりますが、一方で、その魅力を引きだせる酒器がないことに庄島さんは気づきます。
「こういう酒は、ぐい呑みや猪口だと小さすぎて味わいが感じづらい。そもそも小さな器は、テキーラやウィスキーのショット、エスプレッソコーヒーなど濃厚なものを飲むのに適してますからね。となると、サイズ感として理想に近いのはワイングラスですが、これだとアルコール臭などが立ち過ぎ、日本酒の繊細な香味のバランスが損なわれる。そうした条件を熟慮の上で、昨年4月、唐津の陶芸作家・村山健太郎さんに試作品を焼いてもらったんです」。そう言うと、庄島さんは〈酒碗〉とワイングラスの両方に日本酒を注いでくれました。
まずはワイングラスで一口、次に〈酒碗〉で一口……。呑み干した瞬間、「あぁ」と感嘆が漏れます。濃さと深みを一気に増した〈酒碗〉の酒は、花火のように旨味が拡散。突如現れた高貴で華やかな芳醇に、しばし二の句が告げません。〈酒碗〉の形が違えば、同じ酒でも微かに表情が変わるのもユニーク。飲まなければ分からない、まさに革命的体験でした。
そう感じるのには根拠があるそうで、たとえば適度に香りがこもるフォルムやサイズであること。焼物特有の、表面のゆらぎ・ざらつき・凹凸が液体粒子の対流を促し、味を柔らかくまとめること等々。「酒は音源、〈酒碗〉は高級スピーカー」という庄島さんの比喩も秀逸です。飲んだ後に際立つミネラル感も、グラスでは得られぬものだとか。
これだけの逸品ですから、東京でセンセーションが起きないわけがありません。すでに飲食店や高級ホテル、愛飲家からの問い合わせが急増してますし、福岡でもハイクラスな名店が続々導入を開始。さらに酒蔵に与えたインパクトも絶大で、自分の蔵の酒を〈酒碗〉で飲み、「こんなうまい酒だったのか」と涙を流した杜氏もいたそうです。「あの姿を見て、“これを作って良かった”と心から思いました」と庄島さんも目を細めます。
ひとたび〈酒碗〉を使ったら、きっと前の自分には戻れないと思います。かくいう僕も「全ての銘柄をこれで飲み尽くしたい!」と、すっかり〈酒碗〉の虜ですから。そこまで酒との距離を激変させる〈酒碗〉は、日本酒史上の重要なブレイクスルーになるはず。価格は22,000~20万円ほどで、プレミアムなギフトにも良さそうですね。
「日本酒にずっと欠けていたのは、最高の器で最高の酒を飲むという“憧れ”とも言える特別な体験でした。〈酒碗〉ならそれを叶えられますし、いずれは醸造・陶芸・飲食店をつなぐハブ的な存在に育ってくれたら嬉しいですね」と庄島さんの言葉も熱を帯びます。そんな未来も楽しみな、要注目の画期的大発明ですよ。
なお「天酒堂」では、飲食店関係者限定で〈酒碗〉の飲み比べを行っています(要予約)。ぜひ一度、この美味しい衝撃をお試しあれ。
天酒堂 大濠公園
福岡市中央区大濠公園1-9
092-791-6201
ジャンル:物販店
住所:福岡市中央区大濠公園1-9
電話番号:092-791-6201
営業時間:11:00~19:00
定休日:月曜
URL:https://www.instagram.com/tenshudo/
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう