「この人には敵わない」作詞家・松井五郎を松尾潔が絶賛
名前にピンとこなくても、その曲は絶対に聴いている。“詠み人知らず”の名作詞家・松井五郎さん。同じ作詞家でもある音楽プロデューサー・松尾潔さんは、松井さんの誕生日、12月11日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、「この人には敵わない」とその仕事を絶賛した。
“詠み人知らず”の名作詞家
きょうは僕たちの世代にはよく知られている名作詞家、松井五郎さんの66歳のお誕生日を祝いたいと思います。名前を意識したことがなくても、かれこれ30年以上、彼の紡いだ言葉がテレビやラジオで聴かない日はなかったと言っていいでしょう。
安全地帯やCHAGE&ASKA、氷室京介さんといった、松井さんの同世代のアーティストたちとのコラボレーションもさることながら、実はジャニーズ系アーティストの作詞も多い方なんです。
僕は松井さんと仕事でご一緒したことが何度かあるんですが、そのとき「いわゆるヒット曲、昔で言えばオリコンチャートに入ったとかではなく、長く愛されているものとしてはどんな作品がありますか?」って聞いたら「光GENJIの『勇気100%』、これがずいぶん長く、いろんな方が歌ってくださっているんですよ」っておっしゃったのがすごく印象的でした。
光GENJIのバージョンが出たのが1993年で、ちょうど30年前なんですね。30年間ずっと同じ事務所のいろんな人たちによって歌い継がれてきています。NHKのアニメ『忍たま乱太郎』で流れていたというのもあって、日常に織り込まれている歌詞世界です。これこそ松井五郎さんの仕事の真骨頂だと思います。
松井さんとほぼ同世代で、ライバルと言ってもいい秋元康さんも、もちろん優れた作詞家で、僕も何度かお仕事させていただいていて、彼の才能をこの番組で紹介したこともありますが、やっぱり秋元康っていう「人となり」がセットでついて回ります。面立ちも含めて。
ですが松井さんの場合は、匿名性が高いというか、アーティストを立てるために自身が表に出ないということを自らに課しているようなところがあります。これは作曲家の筒美京平さんや馬飼野康二さんもそうで、皆さん字面では見たことはあっても、ぱっとその人の顔や声が浮かばないという、そういう系譜に位置する方とも言えるんですね。
つまり本当に影の実力者っていう感じなんです。とはいえ、松井さんもいろいろと思うところはあるようで、この数年はメディアで発言する機会も増えてきましたし、今、作詞家協会の要職にも就いていて、業界や後身の育成を考えているようです。
「この人には敵わない」
何しろ松井さん、ジャンルが広いです。「また君に恋してる」は坂本冬美さんで有名になりましたが、元々はビリー・バンバンの曲ですね。
誰が歌っても様になるというか、それぞれの画が描けるような普遍性の高い言葉をピックアップしています。でも「松井節」とは言われないのが、かえって松井さんの凄みだと思います。「え? これも松井さんが書いてたの?」って言われるような。
ある種「無印良品」的な美学というか、ブランド名が刺繍されていないんだけど「言われてみれば無印っぽいね」っていう。他のメインとなるものにきちっと寄り添って、邪魔をしない。だから歌い手の個性を引き出すという、職業作家に求められる仕事を全うしている感じがします。
松井さんは僕にとって「言葉が尽きることがない、未来永劫活躍する方」という思いを抱かせる人です。僕が出会った職業作詞家の中で、現役で活躍中の方でいえば、松井さんほど「この人には敵わない」と思わせる人はいません。同業者もみんなそう思ってるでしょう。
松井さんが書けないジャンルはないんじゃないかな。シティポップも本当に上手だし。ぜひ彼のディスコグラフィー見てみてください。
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