1~2年先まで予約の取れない超人気店が、ここ福岡にも存在します。「奈良屋町 青」もそうした狭き門の一軒で、はるばる遠方からフーディーや熱心なリピーターが訪れる孤高のレストランです。限られた客だけに開く扉の向こうには、一体どんな愉しみが待っているのでしょう?
「青」が博多区奈良屋町の細い路地に暖簾を掛けたのは2019年のこと。周りにも路地はいくつかありますが、ここだけは時計が止まったように、昭和の懐かしい空気が薫ります。入居した物件も築80年余の古民家で、特別な店にふさわしい、なんとも絵になる風景です。
その趣に負けない内装もまた秀逸。存在感ある9席のカウンターは古今の洗練が溶け合った“舞台”を思わせ、客の気分を静かに盛り立てます。奥には6名収容の個室もありました。
風雅なこの空間を司るのは店主の金田英之さん。福岡のフレンチ店を皮切りに、バンコクの「ガガン」など国内外の修業先で技術と見識を会得した料理人です。なかでもミシュラン三つ星の「日本料理 龍吟」で受けた薫陶──すなわち、最高の食材で日本の豊かさを表現する姿勢には強く影響されたといいます。
以来、その精神をいかに自分流に昇華させるかが金田さんのテーマ。そのために重ねた努力の正しさは、前述した予約状況にも明らかでしょう。とにかく「青」の料理は独創的で、退屈や平凡とは無縁の逸品が13品・27,500円のコースに詰まっているのです。
厳しく吟味した九州産主体の食材は、どれも生産者の顔が見える極上品。その醍醐味を120%引き出すべく、金田さんは毎朝9時から仕込みに入り、18時の開店にようやく間に合う仕事量をこなします。
「準備には全精力を注ぎますが、料理自体はシンプルに見えると思います」と金田さん。「しっかり旬の風味が伝わるよう、一皿に多くの素材を使わないからです。だからこそ13品も必要なんですけどね」と笑みを浮かべました。
そんな創意と精緻さの結晶は、早速1品目から開花します。魯山人の皿に乗った「黒」と呼ばれる謎めいた球体は、モダンジャパニーズのようで実は洋テイスト。個別に下ごしらえしたトリュフ、フォアグラ、豚足を、竹炭をまぶして練った小麦粉に包んで焼いたスペシャリテです。小品ながらも新感覚の味わいは、瞬時に客を虜にするのに十分な衝撃でした。
歯応え弾む鱈の白子のおじやも、食してみれば高級リゾット。和と洋が巧みに描くグラデーションが見事ですが、これは米をコンソメで炊くことで生まれるのだそう。
「僕は一番出汁より、丁寧にひいたコンソメをベースに調理することが多いんです」と金田さん。どの料理も食べ応えはありつつ、綺麗な余韻が長引くのはそのためでしょう。
北海道産のウニも同様に、極めて“綺麗”な味を秘めた一品。上に伊勢海老の頭で取った出汁のジュレを乗せ、下にはカリフラワーのムースを敷いた一品です。たおやかに広がる旬の旨味に思わず味蕾が震えました。
締めくくりのデザートも印象的で、1品目の「黒」に劣らぬインパクトが満載! 金粉を塗った洋梨に見えますが、なんと金田さんが1個ずつ手作りした飴細工でした。これをスプーンで割ると、洋梨とヨーグルトのムースが現れ、さらにスタッフが洋梨の果肉とブルーチーズのアイスを乗せてくれます。こうした楽しいミスリードこそ、「青」の真骨頂でありエンターテインメントなんですよね。
四季の食材と生産者に敬意を払いつつ、驚きの発想でジャンルを超越する料理は、まさに感嘆と感動の連続でした。極限まで高めた集中力で、温度や味付けの“ジャスト”を探りながら金田さんが紡ぐ料理たち。その連なりが生む世界観にはアーティスティックな快楽さえ感じます。
創業当初、デンマークの伝説的レストラン「NOMA」のように「旅の目的となるレストラン」を作るのが目標と語っていた金田さん。「食事を楽しむためだけに、日本のみならず世界中から人々が訪れるような店になれたら」と。それが可能だと信じたくなる力が「青」にはあります。少なくとも、ここでの食事は長く忘れえぬ体験になる──それだけはお約束します。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
ジャンル:その他レストラン
住所:福岡市博多区奈良屋町4-11-3
電話番号:092-272-2400 ※予約は公式サイトからのみ
営業時間:18:00~ ※一斉スタート
定休日:日曜
席数:カウンター9席
個室:2~6名
メニュー:季節のおまかせコース27,500、アルコールペアリング11,000円 サービス料10%(個室はサービス料15%)
URL:https://narayamachiao.com/
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