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痩せ細り糞便だらけ、奇形、多頭飼育崩壊…小学校のウサギ小屋のおぞましい現実、そもそも飼うのが難しい→相次ぐ「保護」→学校単位の飼育は限界なのか?【R調査班】

室内で飼うのが基本のウサギ、ネコを上回る強い“繁殖力”

ウサギは草食動物だ。栄養成分を混ぜ込んだウサギ用のフード(ペレットなど)を補助的に与えることも推奨されているが、主食はあくまでも「牧草」とされている。「学校は適切な餌を与えていない」と嘆くのは先出の保護団体の江頭さんだ。

 

保護団体・江頭さん「ペレットとキャベツとニンジンだけの学校があります。主食の牧草は絶対にあげないといけないんですけど…。子供たちが間違った飼育方法を覚えて大人になり、また繰り返されるのではないでしょうか」

ウサギは、温度を20度前後に保つなどの細やかな管理が求められる。繊細な分、世話する手間もかかる。また、繁殖力が強く、環境省によると一年中いつでも交尾・出産ができるという。妊娠期間はわずか1か月。ネコよりも繁殖力が強いため、雌雄は分けて飼わなければならない。さもなければ無秩序に増え続けてしまう。

 

なぎ犬猫ワクチン往診所・黄前鮎美院長「ウサギを診察できる動物病院が近くにあることに加え、適正な温度管理ができる室内での飼育が望ましいです。温度管理は室内でも難しいことがあるので、外だとより一層、難しいでしょう」

教育委員会「お世話している間にまぎれてしまったのものです」

私たちは今年9月に同じ久留米市内にある別の小学校を訪ねた。外に設置された小屋にいたのは10匹のウサギ。近くには愛くるしい子ウサギも4匹いた。いつしか増えていったという。小屋に囲いはなく、吹きさらしだった。温度管理ができているようには見えなかった。市教育委員会に取材を申し込んだところ、書面で回答された。

 

久留米市教育委員会「(繁殖は)お世話をしている間に雌雄がまぎれてしまったものです。(飼育環境は)風除けを設置するなど改善を行っております。またウサギの健康状態の確認や治療のため、獣医師による定期的な訪問指導をしていただいているところです」

ウサギの雌雄は、生後3か月ごろまでは慣れた人でも区別できないという。6か月を過ぎるころには見た目で判別できるようになるものの、それより前に生殖できるようになる。何かのはずみで子ウサギが「まぎれる」ことがあれば、繁殖につながる。別の市教育委員会(福岡県春日市)は「小学校で多頭飼育崩壊が去年起きてしまい、譲渡するのに苦労しました」と明かした。

飼うのが難しいウサギがなぜ学校飼育の「定番」に?

ウサギがなぜ学校で飼育される動物の“定番”になったのかは諸説ある。保護団体の藤田さんは、給食の残飯を与えれば餌代が少なくてすむという“誤解”や、犬やネコよりも飼いやすいという“イメージ”も影響していると考えている。

 

飼いやすくはないはずだが…多くの学校で飼われるウサギ

一方、小学校の学習指導要領(解説)には「どのような動物を飼うべき」という指針はない。動物の選定は「各学校が地域の実態に応じて」(1989年)→「各学校が地域や児童の実態に応じて、児童の身近にあり、継続的に世話をすることができるもの」(1999年)→「各学校が地域や児童の実態に応じて適切なものを取り上げる」(2008年~)と多少の変遷はあるものの、具体的な動物名は挙げられていない。

ただ、文部科学省の委嘱研究「学校における望ましい動物飼育のあり方」(日本初等理科教育研究会)には、ウサギ、モルモット、ハムスター、ニワトリ・チャボの飼い方がイラスト付きで説明されており、これらが「定番」化していることをうかがわせる。福岡県教育委員会の担当者は、はっきりとした理由はわからないと断った上で「子供たちに人気があるのは事実です。ウサギはすぐ増えて飼いやすい。学校間で譲ったり、引き受けたりなどの交流もあるようです。そのため、多くの学校で飼われているのではないでしょうか」と説明した。

学校単位の飼育は果たして現実的なのか?

ウサギの譲渡会

「お顔を見せて!かわいいね」と訪問者の顔がほころんでいたのは「ウサギ譲渡会」。今年11月26日、久留米市でネコの譲渡会会場の一角を借りて開かれたものだ。新しい飼い主を待つのは、多頭飼育崩壊の起きた小学校から預かったウサギたちだ。

保護団体・江頭さん「足を負傷しています。学校でけがをして、そのまま関節が固まってしまったのだと思います」

ウサギの飼育相談を受ける愛護団体「リバティ」の代表は、現在の学校の環境では「適切な飼育は難しい」と感じている。

藤田敦子代表「ウサギは弱みを隠す生き物なので、体調が悪いと思った時は手遅れのこともあります。ちゃんと生態を勉強して飼育しなければなりません。死んだ時は寿命と片づけるのではなく、“なぜ死んだか”を子供たちが勉強しなければ、そこにウサギがいる意味はないと思います」

生命の尊さを学ぶための動物飼育。ことウサギについては、きめ細かな温度管理のための予算、休日の餌やりや長期休みの世話のための人員も欠かせない。果たして、多くの学校でそれができているのだろうか、と江頭さんは懸念する。実態として満足に飼育できないのであれば、希望する飼い主に譲渡することも提案している。

 

傷ついたウサギ(リバティ提供)

痩せ細り糞便だらけ、奇形、飼育崩壊…。『児童の夢が広がり、多様な活動が生まれる(学習指導要領解説)』はずだったウサギ。そのような理想とはかけ離れた劣悪な環境に置かれ、悲惨な姿で保護されたウサギたちは、今のように学校単位でウサギを飼い続けるべきなのか一石を投じている。

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この記事を書いたひと

植高貴寛

1984年生まれ 福岡県出身。福岡県警とRKB調査班担当。野球とゴルフと調査報道をこよなく愛している。プライベートでは娘の言いなり。

R調査班

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