福岡出身の2人のアーティストが、「日本の伝統工芸を世界の人々に知ってほしい」と、作品を持ってニューヨークへ。400年以上の歴史を持つ博多人形と、華やかな陶磁器が大反響を巻き起こした様子に密着しました。
◆世界に「日本の伝統工芸の素晴らしさ」を!
陶芸家・古賀崇洋さん「いやぁ、来ましたね」
人形師・中村弘峰さん「すごいよね。路面や壁にグラフィティがものすごくたくさんあるし、情報が多い」
古賀崇洋さん「ソーホー、かっこいいなぁ」
中村弘峰さん「おしゃれですよね」
古賀崇洋さん「15年くらいの集大成を、今このニューヨークでぶつけたいなと」
中村弘峰さん「僕たちの世代が、日本の伝統工芸を世界の人たちに“素晴らしいものだ”って認めてもらう」
福岡の若き才能がつなぐ伝統。その熱い思いを追った。
◆アートの街ソーホーに「見たことのないものを」
多様性と刺激に満ちた街・ニューヨーク。その中心街・マンハッタンにあるアートの街が「ソーホー」だ。小さなギャラリーやブティック、レストランが集中、観光客も集まる注目の街の一角にあるギャラリーで、1か月に渡り開かれた展覧会。
人形師・中村弘峰さんと陶芸家・古賀崇洋さんが、1つの空間をシェアする2人展だ。人形師と陶芸家の異色のコラボ 、新しい感性を持つ2人の作品が肩を並べた。
陶芸家・古賀崇洋さん「全然違う雰囲気でいいなぁ。(中村さんと)対戦みたいな感じ。本当によきライバル。お互いの良いところが出ているかな」
Q.ニューヨークの作品展なので、色合いなど意識したところはある?
人形師・中村弘峰さん「むしろ、日本そのままでどういう反応がくるか見てみたいなと。アートって、“見たことないもの”が大事だから、見たことある範ちゅうに収まっていないかどうかが気になる。収まっていたら、自分がつまらないだろうし、収まってないとよいなと」
◆博多人形のイメージをくつがえす斬新なデザイン
福岡市で100年以上続く「中村人形」の4代目・中村弘峰さん。2023年の博多祇園山笠の一番山笠を制作した、土居流の人形師だ。その世界観は面白い。
中村弘峰さん「もしも江戸時代の人形師が現代にタイムスリップしてきたら一体どんなものを作るだろう? というのが僕の中の設定であり、テーマなんですよ」
中村弘峰さんは、博多人形の今までのイメージをくつがえす、自由で斬新なデザインが持ち味。一見華やかに見えるが、伝統の技法を使っている。
そんな中村さんに、「博多人形を披露してほしい」とニューヨークからラブコールが届いた。
中村弘峰さん「分かりやすく、“浮世絵っぽい感じ”にしています。洋風にする、とはいかないかもしれないですね。日本を感じてもらうように強化している所が多いかもしれないです。日本の伝統工芸を世界に知ってもらうチャンスだと思うし」
◆「借金してでも、世界へ行け」と父は
弘峰さんの父・中村信喬さんは、工芸展で数々の賞を受賞。ローマ教皇に作品を献上した、世界的に活躍する人形師だ。
だが、先代とは同じものは作らない。「変化すること」こそが中村人形の伝統だ。1980年代前半、博多人形師は150人以上いたが、今では半数に減少した。先細りが懸念される業界で、中村人形は子から孫へその伝統を受け継いでいる。
父・中村信喬さん「『お前は世界へ行け』『借金してでも行ってこい』と言った。その通りになってくれている。行ったら人と会って縁が生まれる。よい縁をずっとつないでもらえるような人間になるということ。どんどんプレッシャーをかけてやる。経験すると、世界が近くなるからね」
中村弘峰さん「『弘峰が頑張れ』みたいな。息子に託してくれているタイミングなので、僕たちの世代が日本の伝統工芸を、世界の人たちに『素晴らしいものだ』って認めてもらい、文化交流していかなければいけない」
◆「反わびさび」が面白い
もう1人のアーティストが、福岡県那珂川市に拠点を置く陶芸家・古賀崇洋さん。弘峰さんにとってよきライバルで同志だ。
作品の印象を決定づけるのは、無数のスタッズ。縁起物の招き猫やダルマと、力強い作品が持ち味。戦国武将が顔を守るためにかぶった防具“頬鎧”はお酒をいただく器に。この斬新な焼き物もニューヨークにやってきた。
古賀崇洋さん「不安というか……誰も僕のこと知らないので、まずは名刺代わりの」
作品は一見華やかだが、伝統の技法で作られたものだ。そのものが持つ力を可視化したものが「スタッズ」。とがった感性だが、「リスペクトするのは千利休だ」という。
古賀崇洋さん「日本はわびさび文化があって、静寂・削ぎ落とされたものが好まれる文化があるけど、逆に走ることもすごく面白いんじゃないか。真逆の“反わびさび”」
◆「現代アートの中枢でどこまで通用するか」
釉薬をつける作業中の古賀崇洋さん「一瞬ですませないといけない作業なんですよ。長く漬けておくと、釉薬が分厚すぎて、焼いたときに割れてしまうので」
ニューヨークに向けての制作だ。
古賀崇洋さん「むちゃくちゃいい感じにあがってるんじゃないですか、これ?」
お披露目する作品に、新作を準備した。今回の展覧会にかける強い思いがある。
古賀崇洋さん「めっちゃ良いあがりです。色もすごくいい。現代アートの中枢にどこまで力が通用するのか。僕自身も挑戦です。針の穴でもいいので何か一つ風穴を開けられたら。それが一番の役目かなと」
◆「今までやってきたことを全部出す」
ニューヨークでの展覧会は1か月。2人にとって初めての経験だ。
中村弘峰さん「よいギャラリーだね」
古賀崇洋さん「さすが、素晴らしい」
中村弘峰さん「独自の“ガラパゴス化させたもの”を出していくと面白がられるから」
古賀崇洋さん「ほんと楽しみだけですね。今までやってきたことを全部出す。本当、どういう反応かわからない」
中村弘峰さん「“その町の特色”みたいなのがあるじゃないですか。僕らの作品は全然違うと思いましたね。いい意味で“浮いてる”って感じ。要は、ないものの方が面白いから。(街に)染まってない、めちゃくちゃ違和感があると思いました」
古賀崇洋さん「福岡(の伝統工芸)をほぼみんな知らないので、広めていきたいですね」
2人のアーティストの思いをつなげたのは、アメリカ在住のアートディレクター・戸塚憲太郎さん。ニューヨークで数々のアーティストを発掘してきた。
アートディレクター 戸塚憲太郎さん「とにかく“見たことがない”というのが一番の感想。作りもすごく丁寧だし、いろいろなものを見慣れている人が見ても、十分に楽しんでいただけけるだけのクオリティと、コンセプトの深さ・複雑さが、うまく接続するポイントを見つければ、十分にニューヨークの中でも認めてもらえるのではないかと。何よりも、2人とも『自らが外に出たい』『日本以外のところで見せたい』という気持ちがあるのが一番大事」
二人展を主催・企画したB-OWNDプロデューサー 石上賢さん「工芸の産業ってこの30年で市場規模も従事者数も80%減しているんですよね。そういう意味では、そういった産業自体を背負える覚悟や責任みたいなものを持っていて、なのであえて自分がとがった表現で今の時代に合ったかっこよさを追求して、日本だけじゃなくて世界全体でスターになってほしいなと思っています」
◆「世界にはない日本的なもの」大反響呼ぶ
2023年12月14日、展覧会の初日が来た。
中村弘峰さん「なんかあまり実感わいてないのが正直なところで、なんか不思議な感じ。でも、博多祇園山笠よりは緊張してない。この後緊張してくるのかもしれないですね」
開店と同時に、ニューヨーカーが続々と訪れた。中村さんと古賀さんは、英語で説明した。
来場客「伝統的なものと近代的なものとで、新しいものができている。やっぱり世界にはない日本的なもの」
「私はこの作品が好き! 反対から見ると、違う作品に見える。本当に美しい」
「日本文化とアートの良いところをとっているわね。最高!」
2人の若きアーティストの挑戦は、ニューヨークの街に新しい風を吹かせたようだ。
古賀崇洋さん「まさかこんなに反応するとは。ちょっと説明すると、『Wow!』『Amazing!』みたいな。日本にあまりないリアクションや感性なのですごくうれしかったし、手応えも感じました」
中村弘峰さん「『このままでいいんだよ、あなたは』『このまま突き進んでいいんだ』と背中を押された感じで、うれしかったです。反省は『もっと英語しゃべれたらな』と」
◆世界に「日本の伝統工芸の素晴らしさ」を!
陶芸家・古賀崇洋さん「いやぁ、来ましたね」
人形師・中村弘峰さん「すごいよね。路面や壁にグラフィティがものすごくたくさんあるし、情報が多い」
古賀崇洋さん「ソーホー、かっこいいなぁ」
中村弘峰さん「おしゃれですよね」
古賀崇洋さん「15年くらいの集大成を、今このニューヨークでぶつけたいなと」
中村弘峰さん「僕たちの世代が、日本の伝統工芸を世界の人たちに“素晴らしいものだ”って認めてもらう」
福岡の若き才能がつなぐ伝統。その熱い思いを追った。
◆アートの街ソーホーに「見たことのないものを」
多様性と刺激に満ちた街・ニューヨーク。その中心街・マンハッタンにあるアートの街が「ソーホー」だ。小さなギャラリーやブティック、レストランが集中、観光客も集まる注目の街の一角にあるギャラリーで、1か月に渡り開かれた展覧会。
人形師・中村弘峰さんと陶芸家・古賀崇洋さんが、1つの空間をシェアする2人展だ。人形師と陶芸家の異色のコラボ 、新しい感性を持つ2人の作品が肩を並べた。
陶芸家・古賀崇洋さん「全然違う雰囲気でいいなぁ。(中村さんと)対戦みたいな感じ。本当によきライバル。お互いの良いところが出ているかな」
Q.ニューヨークの作品展なので、色合いなど意識したところはある?
人形師・中村弘峰さん「むしろ、日本そのままでどういう反応がくるか見てみたいなと。アートって、“見たことないもの”が大事だから、見たことある範ちゅうに収まっていないかどうかが気になる。収まっていたら、自分がつまらないだろうし、収まってないとよいなと」
◆博多人形のイメージをくつがえす斬新なデザイン
福岡市で100年以上続く「中村人形」の4代目・中村弘峰さん。2023年の博多祇園山笠の一番山笠を制作した、土居流の人形師だ。その世界観は面白い。
中村弘峰さん「もしも江戸時代の人形師が現代にタイムスリップしてきたら一体どんなものを作るだろう? というのが僕の中の設定であり、テーマなんですよ」
中村弘峰さんは、博多人形の今までのイメージをくつがえす、自由で斬新なデザインが持ち味。一見華やかに見えるが、伝統の技法を使っている。
そんな中村さんに、「博多人形を披露してほしい」とニューヨークからラブコールが届いた。
中村弘峰さん「分かりやすく、“浮世絵っぽい感じ”にしています。洋風にする、とはいかないかもしれないですね。日本を感じてもらうように強化している所が多いかもしれないです。日本の伝統工芸を世界に知ってもらうチャンスだと思うし」
◆「借金してでも、世界へ行け」と父は
弘峰さんの父・中村信喬さんは、工芸展で数々の賞を受賞。ローマ教皇に作品を献上した、世界的に活躍する人形師だ。
だが、先代とは同じものは作らない。「変化すること」こそが中村人形の伝統だ。1980年代前半、博多人形師は150人以上いたが、今では半数に減少した。先細りが懸念される業界で、中村人形は子から孫へその伝統を受け継いでいる。
父・中村信喬さん「『お前は世界へ行け』『借金してでも行ってこい』と言った。その通りになってくれている。行ったら人と会って縁が生まれる。よい縁をずっとつないでもらえるような人間になるということ。どんどんプレッシャーをかけてやる。経験すると、世界が近くなるからね」
中村弘峰さん「『弘峰が頑張れ』みたいな。息子に託してくれているタイミングなので、僕たちの世代が日本の伝統工芸を、世界の人たちに『素晴らしいものだ』って認めてもらい、文化交流していかなければいけない」
◆「反わびさび」が面白い
もう1人のアーティストが、福岡県那珂川市に拠点を置く陶芸家・古賀崇洋さん。弘峰さんにとってよきライバルで同志だ。
作品の印象を決定づけるのは、無数のスタッズ。縁起物の招き猫やダルマと、力強い作品が持ち味。戦国武将が顔を守るためにかぶった防具“頬鎧”はお酒をいただく器に。この斬新な焼き物もニューヨークにやってきた。
古賀崇洋さん「不安というか……誰も僕のこと知らないので、まずは名刺代わりの」
作品は一見華やかだが、伝統の技法で作られたものだ。そのものが持つ力を可視化したものが「スタッズ」。とがった感性だが、「リスペクトするのは千利休だ」という。
古賀崇洋さん「日本はわびさび文化があって、静寂・削ぎ落とされたものが好まれる文化があるけど、逆に走ることもすごく面白いんじゃないか。真逆の“反わびさび”」
◆「現代アートの中枢でどこまで通用するか」
釉薬をつける作業中の古賀崇洋さん「一瞬ですませないといけない作業なんですよ。長く漬けておくと、釉薬が分厚すぎて、焼いたときに割れてしまうので」
ニューヨークに向けての制作だ。
古賀崇洋さん「むちゃくちゃいい感じにあがってるんじゃないですか、これ?」
お披露目する作品に、新作を準備した。今回の展覧会にかける強い思いがある。
古賀崇洋さん「めっちゃ良いあがりです。色もすごくいい。現代アートの中枢にどこまで力が通用するのか。僕自身も挑戦です。針の穴でもいいので何か一つ風穴を開けられたら。それが一番の役目かなと」
◆「今までやってきたことを全部出す」
ニューヨークでの展覧会は1か月。2人にとって初めての経験だ。
中村弘峰さん「よいギャラリーだね」
古賀崇洋さん「さすが、素晴らしい」
中村弘峰さん「独自の“ガラパゴス化させたもの”を出していくと面白がられるから」
古賀崇洋さん「ほんと楽しみだけですね。今までやってきたことを全部出す。本当、どういう反応かわからない」
中村弘峰さん「“その町の特色”みたいなのがあるじゃないですか。僕らの作品は全然違うと思いましたね。いい意味で“浮いてる”って感じ。要は、ないものの方が面白いから。(街に)染まってない、めちゃくちゃ違和感があると思いました」
古賀崇洋さん「福岡(の伝統工芸)をほぼみんな知らないので、広めていきたいですね」
2人のアーティストの思いをつなげたのは、アメリカ在住のアートディレクター・戸塚憲太郎さん。ニューヨークで数々のアーティストを発掘してきた。
アートディレクター 戸塚憲太郎さん「とにかく“見たことがない”というのが一番の感想。作りもすごく丁寧だし、いろいろなものを見慣れている人が見ても、十分に楽しんでいただけけるだけのクオリティと、コンセプトの深さ・複雑さが、うまく接続するポイントを見つければ、十分にニューヨークの中でも認めてもらえるのではないかと。何よりも、2人とも『自らが外に出たい』『日本以外のところで見せたい』という気持ちがあるのが一番大事」
二人展を主催・企画したB-OWNDプロデューサー 石上賢さん「工芸の産業ってこの30年で市場規模も従事者数も80%減しているんですよね。そういう意味では、そういった産業自体を背負える覚悟や責任みたいなものを持っていて、なのであえて自分がとがった表現で今の時代に合ったかっこよさを追求して、日本だけじゃなくて世界全体でスターになってほしいなと思っています」
◆「世界にはない日本的なもの」大反響呼ぶ
2023年12月14日、展覧会の初日が来た。
中村弘峰さん「なんかあまり実感わいてないのが正直なところで、なんか不思議な感じ。でも、博多祇園山笠よりは緊張してない。この後緊張してくるのかもしれないですね」
開店と同時に、ニューヨーカーが続々と訪れた。中村さんと古賀さんは、英語で説明した。
来場客「伝統的なものと近代的なものとで、新しいものができている。やっぱり世界にはない日本的なもの」
「私はこの作品が好き! 反対から見ると、違う作品に見える。本当に美しい」
「日本文化とアートの良いところをとっているわね。最高!」
2人の若きアーティストの挑戦は、ニューヨークの街に新しい風を吹かせたようだ。
古賀崇洋さん「まさかこんなに反応するとは。ちょっと説明すると、『Wow!』『Amazing!』みたいな。日本にあまりないリアクションや感性なのですごくうれしかったし、手応えも感じました」
中村弘峰さん「『このままでいいんだよ、あなたは』『このまま突き進んでいいんだ』と背中を押された感じで、うれしかったです。反省は『もっと英語しゃべれたらな』と」
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