これまで数々の焼鳥屋に行きましたが、先日伺った「焼鳥 玉わ」には、他のどこにもない個性を感じました。食材の魅惑を突き詰めたメニューに加え、ビル5階という焼鳥屋には珍しい立地が独特の高揚感を醸しているからです。今年1月に現れた、そんな“天空の穴場”を紹介しましょう。
目印は、城南線の「桜坂駅前」の信号。その脇に立つビルのエレベーターで5階に向かうと、そこはゆったりと心地良い空間でした。客席は21席と少なめですが、実寸以上に広そうなのは高い吹き抜け天井のおかげ。ホワイト主体の明るい雰囲気は、ビジネスから女子会、家族の集いまで色々使えそうですね。
また城南線側の壁には大きなガラスがはめ込まれ、行き交うヘッドライトや夜空を一望。めったにない焼鳥体験をするのに、これほど最適な舞台はありません。
「店のテーマはシンプル・イズ・ベスト。その日一番美味しい鶏と、美味しい酒をお楽しみ下さい」と言うのは店主の塚里孝亮さん。以前は東京のウェブ系企業の社員でしたが、たまたま訪れた福岡で食べた焼鳥に衝撃を受け、自身も昔から大好きだった焼鳥で身を立てようと決めました。
その後は舞鶴の「焼鳥 高田」などで腕を磨き、晴れて今年独立開業。メニューも前言通りシンプルで、前菜が付く「焼鳥おまかせ6本セット」(3,300円)と、「焼鳥おまかせコース」(5,500円)のいさぎよい構成です。「お客様の選ぶ手間を減らし、同時に食事に盛りあがりを演出できる“おまかせ”は利点の大きいスタイルだと思います」と塚里さん。焼鳥だけでなく、過ごす時間のすべてが「ご馳走」というわけです。
その意気に応え、今宵は僕もコースを注文。日替わり前菜の後に、順次7本の焼鳥が出るという流れです。豚バラも野菜も使わず、ネタは厳選した九州産の鶏の部位のみ。当日届いた食材の状態を確かめ、それに応じた下ごしらえを行い、1本ずつ提供するあたりは寿司屋に通じるものがあります。
今日の焼鳥は、ささみ、レバー、砂肝の順にスタート。ささみはスジがきちんと取られ、高級土佐備長炭でふっくら焼かれていました。刺身でもいける極上食感のレバーは、酒の味を邪魔しない軽やかなタレと相性抜群。砂肝は事前に鶏油を塗り、水分を保持しながら焼くのでジューシーな仕上がりです。どれも仕事が丁寧で、1本ごとにネタへの慈しみが伝わるようでした。
これに続く、もも肉ネギ巻き、だんご、細ネギを添えたぼんじり、手羽先も期待以上のうまさです。特に10種以上の部位をミンチにしただんご(写真左)は印象的で、1本で鶏一羽を丸々味わえるという秀作。奥行きある風味と、複雑な歯応えの競演がなんともたまりません。「焼鳥 高田」で学んだこの1本は、今や「玉わ」にも欠かせぬスペシャリテです。
ネタのボリュームも適度にありますが、希望すれば1本だけ無料追加できるのも嬉しい配慮。各種単品(1本400円~)もあるので、「まだまだ行ける」という方はぜひ!
4本目と5本目の後に挟まれた、黒さつま鶏の炭火焼もかなりの存在感でした。塚里さんの故郷・鹿児島が誇る食材で、「串焼きにすると味が強すぎるから」と、あえて塊をレアで炙った一品です。強靭で濃い味わいの身に、自家製ニラ醤油がよく合います。
また7本目の串が終わると、さらに箸休めと土瓶蒸しが登場。5時間炊いた鶏ガラスープで旬の具材を食す土瓶蒸しは、会席のお椀のように、出汁で胃を落ち着かせる効果もありそうです。そして最後はボリューミーなそぼろ丼か、鶏がらスープの素麺を選んでフィニッシュ。
親しみの中にも気品の漂う11品は文句なしの満足度でした。大衆店もいいけれど、こんなちょっぴり“非日常”の焼鳥屋も良いものですね。
加えて、ソムリエの資格を持つ従兄弟さんが選んでくれたワインや、純米酒中心の日本酒も豊富。酒にうるさい愛好家も納得のラインナップが揃っていますよ。
焼鳥 玉わ
福岡市中央区桜坂1-3-2第一信和ビル5F
092-707-1178
ジャンル:焼鳥
住所:福岡市中央区桜坂1-3-2第一信和ビル5F
電話番号:092-707-1178
営業時間:17:00~22:00
定休日:不定
席数:カウンター9席、テーブル12席
個室:なし
メニュー:焼鳥おまかせ6本セット3,300円、焼鳥おまかせコース5,500円 、日本酒900円~、グラスワイン800円~、ボトルワイン4,500円~
URL:https://www.instagram.com/yakitori_tamawa/
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