「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉が示すように、自然災害は予期せぬタイミングで我々の生活に脅威をもたらします。この格言は、科学者であり随筆家でもある寺田寅彦が残した言葉とされています。
しかし、最近では忘れる間もなく、年ごとに大型の自然災害が発生するようになってきました。日本人は古来より、自然災害と共に生きてきた歴史があります。自然災害には、地震災害、火山災害、風水害、斜面災害、雪氷災害の5種類があります。
福岡県は、自然災害のリスクが比較的低い地域と言われています。しかし、それは地理的な条件が大きく影響しています。例えば、福岡県には活火山が存在しません。
災害に負けない家づくりは、万が一の時に頼りになるパートナーです。新築の家を建てる際には、万が一の災害にも耐えうる「災害に負けない家」を目指すことが、私たちの生命と財産を守る上で非常に重要です。残念ながら、新築の家が災害によって大きなダメージを受けることは、決して他人事ではありません。
本記事では、福岡県特有の気候と自然災害のリスクについて詳しく解説し、新築を検討する際に役立つ、災害に強い家づくりの知識をご紹介します。すこし難しい記事と思われるかもしれませんが、安全で安心な住環境を手に入れるための第一歩として、ぜひこの記事を最後までお読みください。
福岡県の気候と自然災害の特性
福岡県の独特な気候と自然災害へのリスクを深く理解するには、まず県内の地形、気候、そしてそれに伴う自然災害の特性を把握することが不可欠です。福岡県は地理的に次の四つの主要地域に分かれています。
- 北九州地域
- 筑豊地域
- 福岡地域
- 筑後地域
これらの地域は、それぞれ独自の地形を持ち、さまざまな気候条件を示します。
● 北九州地域
山が多く、海岸線に面しているのが特徴です。北九州市を流れる川の河口付近には扇状地や海岸平野が広がりますが、実際に住むことができる土地は市全体の約20%に限られています。
● 筑豊地域
西側から南東にかけて丘陵地帯が広がり、その平坦な部分は主に水田として利用されています。
● 福岡地域
北に玄界灘、南には福岡平野が広がり、その周囲を脊振山地や三郡山地が取り囲むように位置しています。この地域の山々は比較的なだらかで、標高はほとんどが1,000メートル以下です。福岡平野は、かつての潟湖(せきこ)が陸地化した地形に由来します。潟湖とは、外海と切り離されてできた湖や潟のことです。
● 筑後地域
筑後川の川沿いに平坦な沖積平野が広がっています。筑後平野は九州最大の軟弱地盤を形成しています。
福岡県内の地域ごとに異なる気候条件と自然災害の特性を正確に把握することで、より安全な生活環境の構築につながります。ここでは、福岡県の地形、気候、自然災害の特性について、詳細に説明していきます。
福岡県に特有の気候条件
福岡県は、地理的な要因により、日本海側の気候と内陸型の気候の両方の特性を持ち合わせています。具体的には、玄界灘や響灘に面した北部は日本海型気候区に属し、一方で南部は内陸型気候区に分類されます。
日本海型気候区の特徴は、冬期に、曇りや雨の天気が多く、北西の季節風が直撃するので風の強い日が多いことなどです。内陸型気候区の特徴は夏の暑さや冬の寒さはともに厳しく、一日の気温変化も大きいことが挙げられます。また風は、ほかの地域に比べると弱いという特徴を持ちます。
地域によって異なる気候条件は、福岡県内の各地域の気象パターンに大きな影響を及ぼしています。例えば、福岡地域と北九州地域は、南に山地があるため、冬にはシベリア高気圧からの寒気が直接影響を及ぼし、寒冷な天候となります。
筑後地域は三方を山で囲まれており、冬の季節風の影響を受けにくい一方で、夏には東シナ海からの暖かく湿った空気が流入しやすくなり、福岡地域に比べて降水量が増加する傾向にあります。
内陸に位置する筑豊地域では、日中と夜間の気温差が大きくなりがちであり、北九州地域の京築地域は降水量が少なく、瀬戸内海側の温暖な気候に似た特徴を持っています。
過去に起こった主な自然災害の紹介
福岡県で過去20年の間に起こった主な自然災害を紹介します。
福岡県は、その地理的な要因から、特に風水害と斜面災害に対するリスクが高い地域です。福岡県は、台風の通り道に位置しており、また梅雨前線が停滞することによる豪雨によって、風水害の発生頻度が高くなっています。
さらに、北九州地域に顕著にみられる山がちな地形は斜面災害の発生にもつながりやすい状況を生み出しています。こうした自然の条件は、福岡県における風水害や斜面災害のリスクを常に高めています。
また、地震によるリスクも無視できません。福岡地域、筑後地域の地盤は地理的要因から比較的軟弱であるため、強い地震の際には大きな揺れに見舞われやすいという特性があります。福岡県内では、海溝型地震の震源地が直接存在するわけではありませんが、南海トラフで発生する巨大地震による影響を受けるリスクが指摘されています。
住宅の耐災害性の重要性
自然災害が年々増加する傾向にある今、住宅の耐災害性を高めることは、生命と財産を守る上で非常に重要です。特に、災害リスクが高い地域では、耐震・耐風・耐水害など、様々な自然災害に対応した住宅に注目が集まっています。ここでは、耐災害住宅の必要性とそのメリット・デメリットについて紹介します。
自然災害から生命と財産を守るための耐災害住宅の必要性
近年、自然災害の増加に伴い、住宅の耐災害性を高めることは、単に生命や財産を守るためだけでなく、住宅の資産価値を維持、さらには向上させるためにも非常に重要です。
耐災害住宅とは、地震、台風、洪水などの自然災害による損害から住宅を守るために設計・建築された家のことを指します。この種の住宅は、構造的にも材料選択においても、通常の建築基準を超える強度と耐久性を有しています。
耐災害住宅は、地震や洪水、台風などの自然災害から家族を守るだけではなく、災害後の復旧コストを抑え、長期的に住宅価値を保つことにも寄与します。
耐災害住宅のメリット
耐災害住宅のメリットは次の通りです。
- 安全性の向上:最大のメリットは、住民の安全を守ることができる点です。自然災害時でも住宅の損傷が少なく、避難所生活を避けることができます。
- 経済的な損失の軽減:建物や家財道具の損害が少なく、修復コストも低く抑えることができます。
- 資産価値の維持:耐災害性が高い住宅は、将来的にもその価値が維持されやすく、不動産市場においても高く評価されます。
- 心理的な安心感:自然災害への不安が軽減され、日常生活においても安心して過ごすことができます。
耐災害住宅のデメリット
耐災害住宅のデメリットは次の通りです。
- 初期コストの増加:耐震性、耐風性、耐水性などの機能を備えた住宅は、通常の住宅に比べて建設コストが高くなりがちです。
- 設計や建設の制約:耐災害性を高めるためには、特定の設計基準や建築方法を遵守する必要があり、デザインや間取りにおいて制約を受ける場合があります。
耐災害住宅への具体的な取り組み
耐災害住宅は、自然災害に強い住まいを実現するための重要なステップです。耐災害住宅の具体的な取り組みを紹介します。取り組みを通じて、安全で安心な生活空間を確保しましょう。
耐震性能の向上
日本のように地震が頻繁に発生する地域においては、住宅の耐震性能向上が非常に重要です。耐震性の判定には、耐震等級という指標が用いられており、これは地震への耐性を示す重要な基準です。
耐震等級は、建物の構造的な強さ、すなわち建物の重さや耐力壁などの数、配置、床の強度などに基づいて評価されます。
具体的には、建物が地震による倒壊や損傷にどれだけ耐えられるかを示し、耐震等級1、耐震等級2、耐震等級3という3つのレベルに分類されています。これらの等級は、地震の揺れに対する建物の耐性を、「耐震基準」と呼ばれる基準値の1倍、1.25倍、1.5倍の地震の力に耐えられるよう定められており、等級が高いほど、耐震性能が優れていることを示しています。地震時の建物の安全性を高めるためには、適切な耐震構造と補強が必要です。
強風に耐えられる屋根材を利用する
台風や強風の際に屋根が大きな被害を受けることを防ぐため、強度の高い屋根材の選定が重要です。耐久性に優れた材料を使用することで、風害によるダメージを最小化します。また、屋根の形状も強風に強い屋根の条件となります。
窓ガラスにシャッターを設ける
窓は災害時にその脆弱性を露呈することがありますが、技術の進歩により、現代の窓は過去のものと比較して大幅に強度が向上しています。しかしながら、地震や台風のような自然災害の際には、窓ガラスが割れてしまうリスクは依然として存在します。窓ガラスの弱点を補うため、シャッターを設置することで、窓ガラスを飛来物や強風から守り、風や雨水、さらには割れたガラスによる室内への損害を効果的に防ぎます。
性能が高い外壁材を利用する
豪雨や洪水による水害から建物を守るためには、外壁の防水性能が非常に大切です。高い防水性を誇る外壁材を使用することにより、水害に際しての建物へのダメージを大幅に減少させることが可能となります。
また、軽量な外壁材の採用は、地震発生時の建物の振動を和らげる効果も期待でき、二重の安全対策につながります。
電気設備を高所に設置する
電気設備は水害や風害などの自然災害に対して脆弱であるため、安全性を最優先に考慮した設置が必要です。特に洪水時における安全確保を目的として、電気設備は建物内の浸水リスクのない高い位置に設置するよう検討しましょう。電気設備の設置高さの参考として、洪水ハザードマップで表示される最大浸水深を使うとよいでしょう。この措置により、感電や火災のリスクを大幅に低減させることができます。
浸水ハザードマップは、地方自治体が提供する、地域の水害リスクと水害発生時の避難情報を掲載したツールです。これらのハザードマップは、ほとんどの場合、各自治体の公式ホームページで入手することができます。
太陽光発電・蓄電システム
太陽光発電と蓄電システムを併用し設置することにより、停電が発生しても日常生活に必要な電力を確実に供給することが可能です。
太陽光発電は、太陽の光がある間にのみ発電するため、夜間や天候が悪い時は発電効率が下がります。しかし、蓄電池を設置しておくことで、発電した電力を保存し、必要な時に使用することができます。
これにより、夜間のエアコン利用や冷暖房設備、冷蔵庫、湯沸かし器、スマートフォンの充電など、停電時でも電気を使用することができ、ライフラインを守る上で非常に重要な役割を果たします。
まとめ
災害に強い未来型新築戸建てを実現するための様々な取り組みをご紹介しました。耐震性の強化、強風に耐える屋根材の選定、窓ガラスシャッターの設置など、それぞれが安全で安心な住環境づくりに貢献します。
これらの取り組みについてさらに詳しく知りたい場合や、自分の住む地域の具体的なリスクについてより深く理解したいときは、ハウスメーカーの営業担当や建築士に遠慮なく相談しましょう。彼らは、家が直面するかもしれない自然災害のリスクに対して、最適な対策やアドバイスを提供できます。
耐災害住宅への取り組みは、単に個々の家庭を守るだけでなく、地域社会全体の自然災害が起こった場合における復興力向上にも寄与します。住む地域の特性を活かし、安全で快適な未来型新築戸建ての普及を目指しましょう。安心して生活できる住まい選びを、今から始めてみてはいかがでしょうか。
WRITER
平井 祐佳里 宅地建物取引士
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大学在学中より不動産の道に進み、建売会社にて用地仕入れを担当。結婚・育児を経験した後にハウスメーカーの不動産課に勤務し家族を持つ人々のニーズを深く理解し、顧客に寄り添った不動産サービスを提供。本格的な宅地開発を学ぶため、宅地開発専門の不動産会社に従事後、地域に根付いた土地活用の提案をするため総合不動産会社にて現在勤務中。
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