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松尾潔・東京都知事選は「‟ひとり街宣“の分水嶺となるかも」と期待

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過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙の投開票が7月7日に行われ、現職の小池百合子氏が広島県安芸高田市の元市長・石丸伸二氏、元参議院議員の蓮舫氏らを抑え3選を決めた。音楽プロデューサー・松尾潔さんは7月8日に出演したRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で、今回の都知事選で広がった“ひとり街宣”について注目した。

現職の“13戦全勝”選挙戦での交代は難しい

東京都知事選挙の投開票が7月7日行われました。そのことについて僕からはストリートレベルのお話をします。まず、投票率が60.62%というのは平成以降で2番目に高いということで、近年の中では選挙に行く人が多かった、政治意識がやや高まったのかなという感じがします。

結果はご存知の通り、現職の小池知事が42.8%という圧倒的な得票率で、前回の得票数360万票には及びませんでしたが、それでも300万近い得票で、「やっぱり現職強いな」と感じました。

現職が知事選挙に出た13戦、全勝になるらしいですね。こうなると、不祥事とかで辞めた、任期の途中で健康上の理由で辞めたということじゃない限り、交代は難しいということです。僕はそのために、いろんな人の気持ちが削がれるのも良くないと思っていて、やっぱり1期4年の2期までというのが一つの節目じゃないかなと思っています。

無党派が多い東京で広がった「ひとり街宣」

今回の選挙、都民は街中で目の当たりにした「ひとり街宣」というムーブメントに注目してお話します。街宣というのは街頭宣伝の略称で、「街宣」という言葉自体は政治とか選挙に限ったことではないですが、今回はいわゆる選挙戦における街頭演説のことです。

この「ひとり街宣」というのは、候補者が街に立つのではなくて、ある特定候補の支援を呼びかけたり、「選挙自体に皆さん目を向けましょうよ」と訴えたりするものです。実際、6割が投票したと言っても、まだ4割は投票所に向かわないという現実があるわけです。

投票率が変わると投票結果もかなり変わるというのは、政治科学的にも証明されていることで実例もあります。組織票とは、雨が降ろうが風が吹こうが、忠実な投票行動をするので、その票の数は大体変わらないと言われています。

一方で東京は特に無党派の人が多く「生まれ育って終の棲家までずっと東京」という方ばかりではないので、そういった人たちをどう取り込むかという一つの方策がこの「ひとり街宣」です。

「ひとり街宣」は究極の個と個の向き合い

2022年の杉並区長選で、長らくヨーロッパで暮らして、現地の市民運動などに従事していた岸本聡子さんが、たった2か月の選挙戦で当選したことが当時話題になりました。その時に原動力になったのが「ひとり街宣」だと言われています。

当時の岸本候補に心打たれた、芹沢悦子さんが「ひとり街宣」を始めました。投票を呼びかける行動を駅前や商店街の入口でダンボールの切れ端にちょっと手書きのポスターを描いて始めたもので、だれか特定の候補者にというわけではなく「選挙自体に行こう」と呼びかけたのです。

今回の都知事選では、僕も実際「ひとり街宣」をしている人に直接会いました。比較的、蓮舫氏を応援する方が多かったです。ただし「(候補者名)さんをよろしく」と口頭で言うのはよくても、直接投票を促してはいけないとか、マイクを使って音量を増幅させるのは駄目だとか、手に持てる大きさの紙で出来たものは持っていいが、その紙に候補者の名前を書くのはダメなど、細かいルールがあります。

ビジネスの世界でC to Cという言葉もありますが、「究極の個と個の向き合い」ですよね。「ひとり街宣」を行った方によると、「民主主義という社会に生きていることが体感できる」「社会に向かっての自分の気持ちも表明できるし、自分自身もこの世の中に対して抱えているモヤモヤが払拭できたり、より可視化されたりして、自分の人生のためにも良い」と皆さん口を揃えて言っています。

「ひとり街宣」が急拡大した理由

「ひとり街宣」が今年の都知事選で急拡大した理由の一つに、「ひとり街宣MAP」という地図アプリが7月頃に出来たこともあります。「今日、私はここで街宣しましたよ」とスマホで投稿すると、ほかの人も含めて街宣が行われた場所が地図上にピンクのロゴで表示されるというもので、最終的には東京中が「ひとり街宣」を行ったことを示すピンクのロゴで埋まった状態になっていました。

これは、「国政だろうが地方政治だろうが、主役は政治家ではなく、有権者であるあなたや私が、希望する社会の実現のために動くということだ」ということを表明するもので「立候補している人たちは、実際その政治の場に立つ」と思われがちだけれども、「投票行動をしている人たちもまた政治の当事者である」という、非常に真っ当な話です。

「United Individuals」日本語に訳せば「連帯する個人」でしょうか。僕が「ひとり街宣」を面白いなと感じるのは、あくまで1人1人が自発的に、自主的に、自律的な行動をするんだけれども、そのことがあるときは緩やかに、またあるときはタイトな結びつきを見せて、そのコミュニティを活性化していくという点です。

今回の都知事選がのちに「分水嶺だった」と言われるかもしれない

「ひとり街宣」をした人たちの間で、圧倒的に支持されていていた蓮舫さんは、当初、小池さんの対抗馬とされていましたが、結果は「ん?」という数字になりました。果たして「ひとり街宣」の効果がなかったのでしょうか?

逆に僕は「あんなに街中でひとり街宣を見かけたのに、それでも3位ということは、今の政治を動かしているものは何なのか?」というものを可視化したという効果があったと思うんです。

すなわち、組織票、まとまった票を獲得できる団体やその結びつき、そういったものが今の政治を動かしているということです。「政・官・財」でグルグルお金を回しているんだなということが改めて浮かび上がったので、次に繋がることだと思います。

こういった景色が見られるようになったのも、今回の都知事選の大きなことで、のちのち「あのときが分水嶺だったな」と言われるかもしれません。

大健闘、というと本人に怒られるかもしれませんが、YouTubeのショート動画やTikTokを最大限に活用した石丸さんの選挙戦略がどれほど結果に作用したのかを検証し、既存のメディア、特に地上波テレビは改めて告示期間中の「ややいびつに見える報道」「不自然に思える放送の控え方」を再考する時期ではないかと思います。

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