松尾潔「公益通報のスタンダードを変える時期」兵庫県知事パワハラ疑惑
兵庫県の斎藤知事によるパワハラ疑惑をめぐっては、9月19日にも県議会で不信任決議案が提出される見通しだ。9月16日にRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんは、旧ジャニーズ事務所による性加害問題について提言を行ってきた自身の体験も交えながらコメントした。
斎藤知事の涙
兵庫県の斎藤知事の動向について、この1週間も動きがありました。報道陣とのやり取りの中で彼が涙を流す場面がありましたが、これまで彼に対するイメージから「この人も涙を流すんだ」というようなギャップを感じたこともあって、センセーショナルに取り上げられました。
記者が「その涙の訳は?」と踏み込みました。その質問の是非を問う声もありますし、僕も「テレビ特有の下世話さに寄ったようなやり取りがなされるんだろうな」と何かモヤッとした気持ちになったんですが、それに対する知事の返答が衝撃的でした。
知事選のときに世話になった2つの政党名を挙げて「申し訳ない」と述べたのです。「え? 亡くなった局長や遺族に向けられた涙ではなかったんだ」と、みなさんも感じたと思います。
根強く残る「上長への批判的な物言いを良しとしない風潮」
これを機に、公益通報制度の是非を考えるべきだと僕は思うんです。「亡くなった方の命を少しでも無駄にしないためには」という言い方になってしまいますが、死亡した局長が残した言葉はかなり辛辣で、知事とそれを取り巻く人たちに対して「二流三流のイエスマンが主流を占めている」みたいなことを言っているんです。
「それ、俺のことかよ」と憤りを感じた県の職員もいただろうし、組織の中でのこの知事派・反知事派は本当に深い溝があったんだなと改めて浮き彫りになっています。
公益通報制度という、事業者や自治体などで「密告」という悪いニュアンスではなく、「公の利益、公益のために内情を話すことは、ちゃんと法律で守られている」という前提が意外と共有されていないと感じます。
公益通報者を守る公益通報者保護法の認知が浸透しないことには、やっぱり「チクリやがって」という声が出るし、上司や上長の言動に対して批判的な物言いを良しとしない風潮がまだ根強いんだと感じますね。これは自治体などに限った話ではありません。国家公務員などにも必要なことですし、私企業においてもこれは適用されることです。
知事の涙で情緒的なところに落ち着くのは危険
僕も去年、マネジメントでお世話になっていた事務所と関わりが深い、旧ジャニーズ事務所のあり方や、経営トップだったジュリー藤島さんについて、この番組でお話ししたり、SNSなどで疑義を呈したりしてきました。
そのとき「自分が世話になっている会社の批判をするなんて、あいつは日本人か」とまで問う声がありました。「日本の美徳にそういうことはないだろう」と言わんばかりですよね。「今はそういう時代じゃないでしょ」と反論すると、「ほらまたその口で言っている」みたいな。まぁ酷かったです。「それで生活しているんだったら、あんた黙ってなさい」というような声って本当にまだ根強いんだなと感じました。
僕は社員とか公務員という立場ではないので、「じゃあそこ(所属事務所)を離れます」という決断がしやすかったんですが、なかなかそうはいかない方も多いだろうなと察しますし、いろんな思いを抱えたまま、だけどグッと言葉を飲み込んで、定年まで全うする選択肢も容易に想像できるわけです。
でも、それで思い詰めた挙句に命を絶つという最悪の結果にもなりかねないということが、今我々が見ていることです。ある種、戦時下のシミュレーションみたいな状況だったんでしょうね。過去形にしていいのかどうかわからないですけれども。
我々、今を生きる者として「こういうのを変えていきましょうよ」と申し上げたいです。もちろん、いたずらに斎藤知事の人格攻撃をすることを僕は好ましいことだと思っていませんが、「あんなに泣いてはるんやから、もうええやん」みたいな情緒的なところに落ち着いてしまうのはもっと危険だと思っています。
公益者通報に対するスタンダードを変える時期
TBSテレビの『報道特集』で、維新の増山誠兵庫県議が、「亡くなった局長のプライバシー情報も百条委員会に提出すべきだ。なぜなら彼は、県知事のプライバシーも取り上げていたんだから、本人もプライバシーを出すべきだ」みたいな発言をしていました。
亡くなった局長はそのことを気にして「やめてほしい」と言っていたんですが、増山県議は彼なりの正義というのがあったのか、「我々は使命を全うしただけだ」と。
僕にとっては、かなりセンセーショナルでした。これを機会に公益者通報に関してのスタンダードをもうガラリと変える時期に今あるんじゃないでしょうか。「このタイミングでやらないと、ずっと変わらないんじゃないかな」というような危機感さえ抱いています。
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