9月16日は「敬老の日」だった。「敬老」という言葉が示すように、「めでたい」わけだが、社会全体を見回すと、高齢化、それに至る少子化にどう対処していくか、重い課題がのしかかる。それは日本に限らない。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が9月19日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、中国の社会の高齢化問題を取り上げた。
豊かになる前に国が先に老いてしまう
中国にも「敬老の日」がある。日本は9月の第3月曜日が「敬老の日」だが、中国や台湾など中華社会の「敬老の日」は毎年、旧暦の9月9日「重陽(ちょうよう)節」(暦の上の五節句の一つ)がそれにあたる。今年は10月11日となる。
儒教にある「長幼の序」(=年少者が年長者を敬う)がまだ生きているのだろう。バスや電車の中で、お年寄りに席を譲る若者は、中華社会の方が日本よりずっと多いように感じる。
中国も、平均寿命は伸びている。9月12日、中国政府は、国民の最新の平均寿命を発表した。昨年2023年現在で78.6歳。発表によると、12年前の2011年から3歳伸びたという。世界一の長寿国・日本に比べれば、やや短いが、世界の国別でみれば、長寿の部類に入る。
ただ、今日の中国の高齢化社会を象徴する言葉として「未富先老」というのがある。意味するところは「みんなが豊かになる前に、国が先に老いてしまう」――。高齢社会の危機感を示したものだ。
75年後、中国の人口は半分以下に
中国の人口問題というと、「一人っ子政策」を連想する。かつては「2人目以上を産んだら、罰金」ということもあった。「一人っ子政策」によって人口の抑制には成功したが、今になって急速な高齢化をもたらした。長年続いた「少数民族などを除いて、ひと組の夫婦・ペアには子供は1人に限る」というこの政策について、中国政府はこれまで段階的に条件を緩和している。
中国で昨年1年間に生まれた赤ちゃんの数は902万人。前の年に比べてマイナス6%、54万人減った。7年連続で前年を下回っており、今年は900万人を割るのではないかとみられている。政府は3年前から、3人目の出産を認めたが、これまで目立った効果は見られない。ちなみに、日本では今年、出生数が70万人の大台を割るかもしれない、と懸念されている。
一方の高齢化率。これは、人口全体における65歳以上の人たちの割合だ。昨年末現在、中国の65歳以上の人口は約2億2000万人。高齢化率は15.4%。一方、日本の高齢化率は29.3%。ただ、中国はまだ日本の半分だ、と安堵してはいけない。長寿は進むのに、子供は減る――。統計では「地球上の全ての高齢者の4人に1人は中国人」だ。
急速な人口減少時代が目の前にある。国連が7月、世界の今後の人口推計を発表した。今の人口と約75年後、つまり2100年の人口を比較する内容だ。日本の人口は現在、1億2400万人だが、2100年には38%減り7700万人になる。一方、中国の人口は現在、14億967万人。これが2100年には6億3300万人になる。こちらは半分以下、約7億9000万人減る計算だ。
国連の推計では、中国の人口は75年後には、今の47%になってしまう――。「人口は国の力」という考え方はかつてあったが、「人口は急減し、高齢化率はどんどん上がる」。中国は人口規模が大きいだけに、深刻だ。
減り続ける子供、増え続けるペット
中国でも、子供をもうけない若いカップルが増えている。ライフスタイルの変化、それに経済的負担も大きい、というのは日本と同じだ。その結婚件数だが、今年上半期(1~6月)、中国の婚姻の数=役所に婚姻届を提出したカップルの数=は343万組。前年の同期比で約50万組減った。これは日本の厚労省に相当する中国民政省の統計だが、1年前に比べ、実に13%も結婚するカップルが減少したことが明らかになった。10年前に比べると、なんと半分に減っている。
習近平政権も、当然、対策を講じている。子供を3人までは産んでいいという政策に方針転換して間もないが、地方政府の中には独自の政策、つまり、子供を2人以上産んだら、その夫婦に奨励金を出す、といったケースも現れている。
ちょっと視点を変えてみたい。英国の経済新聞フィナンシャル・タイムズに8月3日「なるほど」と思う記事が載った。タイトルは「中国都市部で飼育されるペットの数は今年、乳幼児の数を上回る見込み」。つまり、「犬や猫に代表されるペットは増え続け、一方で、4歳未満の小さな子供はどんどん減り続け、今年ついに逆転されてしまう」という内容の記事だ。
ペットを飼うのは、結婚しない若い世代、子供を持たないカップル、かたや孤独感をまぎらわせようと考えるのか、高齢者の間でも、動物を持つ人が増えているという。「ペットが映し出す中国社会」と言ってよいのかもしれない。
経済専門紙らしく、ペットの話を紹介しながら、中国で少子・高齢化が加速すれば、マーケットとしての中国、投資先としての中国の今後が、不安視される――記事はそう締め括られていた。少子化に歯止めがかからないと、経済や社会保障を支える働き手が減る。税収が減る。そして年金を受ける方の高齢者は一方で増える――。日本と同じだ。
やっと手を付けた定年引き上げ
これも最近のニュースだが、働く人の退職年齢が今後、段階的に引き上げられる。中国の定年はこれまで70年以上据え置かれてきた。これを来年から改定する。現行は原則として男性60歳、女性50歳の定年を徐々に延長し、15年後までに男性63歳、女性55歳にする。
これについては、やっと手を付けたという感じだ。社会主義国として「早く引退して、あとは年金生活」を望む考えは、今も根強い。ただ、高齢化がどんどん進み、労働人口が減る。追い立てられようにして、促される形で習近平政権が決断したのだろう。
こう見ると、改めて「一人っ子政策」の功罪を考え込んでしまう。中国が様々な分野で、高度な技術開発を進めるのは、国際的に中国が主導権を握るという目的だけではない。近い将来の働き手不足を補うためでもある。人口動態の視点からも、中国が今、迫られている課題、漢字4文字で表す「未富先老」。つまり「豊かになる前に、先に国が老いてしまう」事態に対応するため、そんな国家戦略も見えてくる。
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この記事を書いたひと
飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。