今年のプロ野球は、横浜DeNAベイスターズが26年ぶりの日本一に輝き、幕を閉じた。翌日の第7戦で実況予定だった私は、横浜の街が歓喜に沸く中、独り下を向いてホテルへと戻った。
今年もテレビ・ラジオで数多くの試合を実況した。私は人よりも「緊張しやすい」という自覚がある。幼少期から人前に立つと声が震えていたし、今も実況マイクの前では冷や汗が流れる。日本シリーズなど大きな舞台を任せてもらえることに感謝しつつも、重圧に胃が痛い日々だった。
ただ実況前、あることをすると少し心が落ち着く。放送席から、グラウンドではなく観客のいるスタンドを見渡すのだ。観客は何を楽しみに会場まで訪れたのか、どの場面でボルテージが上がるのか。スタンドを見て、自分が観衆の1人になったような感覚を持つ。すると、試合を楽しむ感情が重圧を少し軽減してくれる。
テレビやラジオの前で戦況を把握している方に臨場感を余すところなく伝えたい。自身もその場にいるように感じてもらいたい。目指すのは「ユニークな言葉で描く実況」ではなく「視聴者やリスナーを会場に連れていける実況」。緊張と向き合う中で自分の進む方向が見つかった。
今後もマイクの前で冷や汗はかくだろう。緊張は受け入れて、目の前の試合を楽しみたい。
11月23日(土)毎日新聞掲載
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