カーテンを開けて目に飛び込んできた一面の雪景色に息をのんだ子供の頃の経験が忘れられない。「雪が積もっているといいな」という期待もあったが、それだけでなく、カーテンを開ける前から確かな予感があった。それは普段と違った静寂を感じていたからだ。
雪が降っていると、外が静かに思えるのは気のせいだろうか。いや、実際雪の日は静かになるそうだ。音響機器メーカーのDENONによると、「音」は空気の振動で、人にはその振動が主に鼓膜に届くことによって「音」として認識されるのだが、雪の結晶の複雑な形は、そのすき間に音の振動を閉じ込めてしまうのだそうだ。条件によっては80%以上の音を吸収してしまうというから驚きだ。
先日の大寒波では「録りだめたドラマでも見るか」「ゆっくり本でも読もう」といった声をよく聞いた。私の場合は「じっくり音楽を楽しもう」だ。静寂は、オーディオ機器をグレードアップさせるのと同等に音楽の味わいを数段深める。町の騒がしさや生活音を完全に遮断するのは難しいからこそ雪が積もった時が絶好の音楽鑑賞の機会となるのだ。雪がもたらす静寂という非日常。雪害は勘弁してほしいが、ほどほどの雪で非日常を味わうのも悪くない。
2月15日(土)毎日新聞掲載
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