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米ウ首脳会談が決裂…レアアースをめぐり、ほくそ笑む国はどこ?

飯田和郎

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アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が日本時間の1日未明、ホワイトハウスで会談した。しかし、ウクライナでの戦争を巡り激しい口論となり、会談は決裂した。国際情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が3月3日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、今後を展望した。

バンス副大統領の発言の背景

世界はとても悲しい光景を目の当たりにした。メディアが会談に入ったため、日本にいる我々もその言い争いを、映像を通して目撃した。トランプ大統領だけでなく、バンス副大統領がゼレンスキー大統領にこう言い放つ場面があった。

「あなたの国を救おうとしている大統領に、感謝の言葉を述べたらどうなんだ」

ロシアのウクライナ侵攻から3年が経過した。世界からウクライナへの支援のうち、4割をアメリカが占める。このことに対し「『ありがとう』と言いなさい」ということなのだろう。

バンス副大統領はトランプ氏の忠実なイエスマン。大勢のメディアを前にして、隣に座る大統領にいい格好をしたのかもしれない。日本を含むウクライナへの支援は人道的な見地だけではない。法の支配を無視する国に勝手な振る舞いをさせない、民主主義の価値観、民主主義国家の結束を示す――という意味合いもあるはずだ。

資源の共同開発協定の行方

世界中が注目した会談で、ゼレンスキー氏はウクライナにある石油・ガスを含む資源の共同開発を盛り込んだ協定に署名するため訪米したが、決裂で合意に至らなかった。今も侵略されているウクライナとその最大の支援国であるアメリカ。その両国の首脳が仲たがいすれば、一方でほくそ笑んでいる国があるだろう。

ロシアはもちろんだ。そして、中国も同様だ。トランプ・ゼレンスキー会談の決裂で棚上げになったのが鉱物資源開発であり、その鉱物資源を巡る中国の世界戦略が見えてくる。中国は鉱物資源、特に「レアアースの世界地図が変わらない」ことを望んできたからである。

トランプ大統領は軍事支援の見返りとして、レアアースなどウクライナの鉱物資源の支配権を握ろうとしていた。トランプ氏はウクライナとの鉱物資源に関する合意について「ウクライナの防衛策になる」と説明してきた。見返りとしてウクライナとの取引材料にするつもりだった。具体的には、ウクライナの鉱物資源の開発を進め、輸出による収入をアメリカの完全管理下に置く基金の創設だ。

中国のレアアース支配

ウクライナの鉱物資源の中でも、トランプ氏が特に支配したがるのはレアアースだ。レアメタル(=希少金属)の一種であり、17種類の元素を総称してレアアースと呼ぶ。産出量は少ないが、このレアアースを少量添加するとハイテク製品の性能が高まるため「産業のビタミン剤」とも称される。

レアアースは半導体の製造に欠かせないほか、ハイブリッド車や電気自動車に搭載されるモーター用の永久磁石、スマートフォンやタブレットなど、私たちの日常生活を支えるものに使用されている。さらに、潜水艦や戦闘機のレーダーやセンサーを作るのにも必要だ。

その「レアアースの世界地図」を、中国が主導で塗り替えていると言っても過言ではない。中国国内でのレアアースの埋蔵量は世界全体の3割程度だが、中国は早くからレアアースの生産・精製に力を入れてきた。中国からのレアアースの供給は世界全体の6割、精製能力においては全体の9割を中国企業が占める状況が長く続いている。

日本の産業界への影響

日本の産業界にとって、レアアースの安定供給が何より大切だ。しかし、日中関係においてレアアースが外交カードとして使われてきた歴史がある。2010年、沖縄県の尖閣諸島沖で中国の漁船が日本の海上保安庁の巡視船に衝突した事件があった。日本側が中国人船長を逮捕したことに中国が反発し、対抗措置として日本向けのレアアースの輸出禁止に踏み切った。

2023年12月には、中国はレアアースを加工して磁石をつくる技術を輸出禁止にした。この禁輸措置はアメリカが高性能半導体の中国向け輸出を規制したことに対抗する狙いがあった。

レアアースの安定供給を確保するためには、中国への依存を下げ、自国や同盟国で調達、精錬・加工するのが一番である。最近、日本を含む国際社会で頻繁に登場するキーワードに「経済安保」がある。レアアースの安定確保がこの経済安保の中核を成している。

グリーンランドの重要性

トランプ氏は、デンマーク領グリーンランドの入手に躍起だ。それは安全保障面の理由だけでなく、レアアースなどの地下資源がグリーンランドに存在することが近年明らかになったからだ。レアアースの中国の支配に対処するためだ。

アメリカはレアアースを確保しようと懸命に取り組んでいる。一方、中国は新興国や途上国にある重要鉱物への支配力を増そうとしている。レアアースなどの重要鉱物資源の採掘・加工を目的に、国際的なサプライチェーンを掌握しようとしている。

先週の放送で、中国人の特殊詐欺グループの拠点がなぜミャンマーにあるかという話をした。背景には中国とミャンマーの密接な関係がある。ミャンマーはレアアースの採掘量のシェアが世界第3位であり、中国、アメリカに次ぐ3位だ。ミャンマー産レアアースの大半を買い取るのは中国の企業である。

ウクライナの鉱物資源とアメリカの戦略

トランプ氏は「drill baby drill !」という言葉を好む。ウクライナでも同様に「掘って、掘って、掘りまくれ」ということだ。中国からすれば、グリーンランドだけでなくウクライナにもアメリカが手を伸ばすのは「世界地図が変わる」かもしれないわけだ。その両国首脳の激しい口論、会談の決裂を中国がどう見ているか? 自ずとわかるだろう。

最後に、先の会談でトランプ氏がゼレンスキー氏にまくし立てた言葉を紹介して締めくくる。

「あなたに残されているのは、取引を成立させるか、我々が手を引くか、そのどちらかだ。我々が手を引いたら、あなたたちで決着をつけることになる。合意書に署名すれば、あなたはずっといい立場になる」

我々は今、超大国のこのようなリーダーがいる時代に生きている。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。