アメリカのトランプ大統領が、世界の国々にかける相互関税について。中でもターゲットを絞ったように、中国との報復関税合戦が展開されてきた。GDP世界第1位と2位の経済大国間で繰り広げられた激しい攻防は、株式市場を大きく揺さぶり、世界中の企業や消費者に影響を与えている。国際情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが4月14日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、この米中関税戦争で見られた中国の戦略の変化、そして今後の展望についてコメントした。
激化する米中の報復関税
事の発端は、トランプ大統領による相互関税措置の発動でした。特に中国に対しては、集中的に報復関税が課せられ、両国間の貿易関係は急速に悪化しました。一時、日経平均株価が反発したのは、トランプ大統領が相互関税の上乗せ措置を一時停止すると発表したためでしたが、その対象に中国は含まれていませんでした。
アメリカは、中国からの輸入品に対し、最大で145%という高率の追加関税を課しました。これは、通常の関税に加え、合成麻薬の流入対策の不備を理由とした制裁関税が上乗せされた結果です。
一方、中国も黙ってはいませんでした。アメリカからの輸入品に対し、報復として最大125%の追加関税を発表し、4月12日に発動しました。
中国の主張と戦略の変化
中国商務省の報道官は、アメリカの措置に対し「中国の正当な権利と利益を守るため、断固たる強い措置を取る」と表明しました。当初は、アメリカの強硬姿勢に最後まで付き合う構えを見せていました。ところが、4月11日には「アメリカが課す高い関税は数字のゲームであり、意味がない。ゲームを続けるなら、これ以上相手にしない」と発言するなど、その態度に変化が見られました。
この変化の背景には、米中間で高関税が課されることによる貿易の限界、そして習近平国家主席のリーダーシップ戦略があると見られます。「アメリカと張り合う大国・中国の指導者」というイメージを国内外に示すとともに、トランプ大統領の予測不能な行動に対し、「愚か者には付き合わない」という大局観を持つ指導者像を演出する狙いがあったと考えられます。
また、中国は関税による報復合戦とは異なる対抗措置も示唆しています。ハイテク製品の生産に不可欠なレアアースの輸出規制を強化する方針を示唆しており、関税以外の手段でアメリカとの交渉に臨む可能性を示唆しました。
さらに、中国はアメリカの関税措置を「国際的な重大なルール違反」として、WTO(世界貿易機関)に提訴しています。過去の米中経済摩擦では、知的所有権を侵害したり、政治犯や少数民族らに強制的に労働させたりしたとして、アメリカがWTOなどの国際機関を利用して中国に圧力をかけることが多かったのに対し、今回は中国がWTOを巻き込み、「アメリカに翻弄される国々」との連携を探る姿勢を見せています。
「正義は我にあり」というメッセージを発信することで、国際社会における自らの立場を強化しようとしていると言えるでしょう。
習近平主席の東南アジア歴訪と国際社会へのアピール
米中間の緊張が高まる中、習近平主席は14日から、カンボジア、マレーシア、ベトナムといった東南アジアの国々を歴訪します。これらの国々は、かつてトランプ大統領が相互関税の対象としてリストアップしていた国々であり、アメリカの保護主義的な政策に警戒感を抱いています。習主席の訪問は、「トランプ大統領に翻弄される国々」との連携を深め、「大局観を持つ指導者」としてのイメージを国際社会に示す機会となりました。
世界経済への影響と日本の立ち位置
アメリカが自由貿易の旗手を降り、ルールを度々破る一方で、かつて知的財産権侵害などで批判されてきた中国が「正義」を訴えるという状況は、国際秩序の大きな転換を示唆しています。米中対立の激化は、世界経済に大きな不確実性をもたらし、各国は自国の経済戦略の見直しを迫られています。日本もその例外ではなく、米中間の動向を注視し、多角的な視点から経済政策を検討していく必要に迫られています。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。