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中台で情報戦激化の様相…中国が台湾のサイバー部隊を名指し非難

飯田和郎

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国際舞台の裏側で、情報戦が激しさを増しています。かつてのスパイ活動とは異なり、現代の情報戦の主戦場はサイバー空間です。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが4月28日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、中国と台湾の間で繰り広げられる情報戦の一端について解説しました。

かつての情報戦とは様変わり、サイバー空間が主戦場に

「スパイ」と聞くと、秘密裏に接触し、機密情報をやり取りするイメージを持つ方もいるかもしれません。私がかつて取材活動上つきあっていた人物に、日本の政府機関に勤務しながら、裏で外国の大使館に情報を提供していたスパイがいました。

しかし、ロシアのプーチン大統領がかつて所属していたKGBのような、情報機関による活動は過去のものとなりつつあります。現代の情報戦は、インターネット上での情報の窃取や破壊工作が主な舞台となっているのです。

中国、台湾のサイバー攻撃関与者を特定・公開

先日、中国国家安全省が、台湾から中国へのサイバー攻撃に関与したとして、台湾国防部所属の4人を特定したと発表しました。彼らの氏名、顔写真、台湾住民としてのIDナンバーまで公開するという異例の措置です。

中国国家安全省は、スパイ摘発や国内の反政府運動の監視などを行う機関ですが、その実態は多くが謎に包まれています。今回公開された4人の男性は、46歳をリーダーに、最も若い人で31歳。中国側の発表によれば、彼らは台湾国防部のサイバー戦担当部門に所属し、対中国サイバー攻撃の計画、指揮、実行の中心人物とされています。

中国側は、詳細な調査を経て特定に至ったとしており、台湾住民一人ひとりに付与される10桁のIDナンバーまで特定したことは、その情報収集能力の高さを誇示するものです。

台湾のサイバー部隊が中国に仕掛けた「サイバー戦」とは

台湾では2017年に軍の組織としてサイバー専門の担当部門が設立されました。中国側の指摘によれば、この組織が台湾のハッカーやサイバーセキュリティ企業を取り込み、中国に対しサイバー戦を仕掛けるよう指示し、実行に移したといいます。

具体的な活動内容として、中国側の機密情報の窃取、破壊工作、反プロパガンダ活動などが挙げられていますが、中国側はこれらの活動を全て阻止したと主張しています。

その強硬な姿勢を示す言葉として、「我々の国家安全保障機関は、中国本土における機密を盗むという、無駄なたくらみをすべて掌握した。彼らの『黒い手』をバッサリと切り落とした」という表現が用いられています。

台湾側の警戒感の高まりと中国の牽制

中国が台湾国防部のサイバー部隊を名指しで非難する背景には、台湾の頼清徳総統の決定があります。頼総統は先ごろ、軍事犯罪を一般事件とは別に裁く「軍事審判制度」の復活方針を示しました。

これは、中国側からの台湾軍への浸透を防ぐための措置です。実際、台湾では昨年、中国が関与したとされるスパイ事件で起訴された被告の3分の2が現役・退役軍人でした。

台湾側がスパイに対する警戒モードを一段階上げたことで、中国は今回、台湾のサイバー部門所属とされる4人を公表したと考えられます。しかし、サイバー戦の分野においては、中国が一歩も二歩も先を行っているとの見方もあります。

中国のサイバー戦能力と台湾への警告

日本の防衛省が昨年7月に発表した防衛白書には、「中国では、サイバー戦部隊が2024年に再編された可能性が指摘されている。なお、2024年以前のサイバー攻撃部隊は3万人との指摘もあった」「中国が2019年に発表した国防白書において、軍によるサイバー空間における能力構築を加速させる――としているなど、軍のサイバー戦能力を強化していると考えられる」との記述があります。

中国が今回、「台湾のサイバー戦部隊の中心人物」とする4人を公表したのは、以前から把握していた情報をあえて公開することで、台湾当局だけでなく、台湾住民に対し中国の情報機関の能力を誇示し、畏怖させようとする意図があるでしょう。同時に、中国国内の一般市民に対し、「サイバースパイ活動の疑いがある場合」の通報を呼びかけることで、台湾の民進党政権への警戒感を煽っています。

さらに、中国側は台湾のサイバー戦部隊について、「台湾の民進党政権の指示を受け、台湾独立を目論んでいる」と指摘し、「必要なすべての懲罰措置を取り、法律に従って生涯にわたり、責任を負わせる」と警告しています。

これまで、中国からのサイバー攻撃はアメリカに対するものが注目されることが多かったですが、中国と台湾の間でも、情報活動を巡る対立が激化している現状が浮き彫りになりました。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。