佐賀県玄海町の九州電力玄海原子力発電所で7月27日の夜、ドローンの可能性がある三つの光が目撃されました。設備には問題はないとされてはいますが、戦争で兵器として使われるドローンが原発の敷地内に簡単に入ってしまったということで、衝撃が広がっています。いまでは攻撃兵器の印象が強いこの「ドローン」ですが、もともとこの言葉は音楽用語。私たちの生活の利便性を向上させた側面も含め、8月1日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、ジャーナリストで毎日新聞出版社長の山本修司さんが解説しました。
ドローンの語源は「ハチの羽音」
私はもともと、学生時代から音楽用語としての「ドローン」という言葉に触れていました。「無人航空機」という意味のドローンを意識するようになったのは、毎日新聞西部本社の編集局長をしていた2017年ごろです。ドローンを使って上空から写真や動画を撮影しよう、ということになって、社内で安全策なども含めて議論をしたのですが、このあたりから様々な分野でドローンが注目されるようになっていました。そして、いまや「ドローンといえば兵器」というような憂慮すべき状況になっています。
先日の毎日新聞朝刊1面のコラム「余録」に、ドローンに関する記述がありました。2008年発行の「広辞苑」第6版は「一つの音高で持続する音。また、それを担う楽器の機能」とだけ記されていたのが、2018年発行の第7版から「②」として「無人機に同じ」が加わったということです。英語の元の意味は雄バチで、羽音の「ブーン」というのが音楽用語の由来だということのようです。無人機のはしりはイギリスの空軍が1930年代に、射撃訓練用に開発した「クイーンビー(女王バチ)」で、ハチつながりで無人機の代名詞になったらしい、と書かれていました。このハチの話は受け売りですが紹介させていただきました。
音楽用語としての「ドローン」
私がもともと知っていた音楽用語のドローン(Drone)は、一般に曲の中で同じ高さで長く続く音のことで、持続音とも訳されることがあります。例えば、スコットランドの民族楽器にバグパイプというのがありますが、主旋律の下で「ブー」と低い音が鳴り続ける、あれですね。
インドの楽器のシタールなどもそうですが、旋律の下で低い音が鳴り続けているのを聴くことがあると思います。インドには完全5度の和音、ドとソを鳴らすための専用の楽器もあって、この楽器のことも一般名詞としてはドローンと呼びます。福岡には筑前琵琶がありますが、薩摩琵琶では4本ある弦のうち一番低い音のする弦をあけておいて、共鳴によって低い音がなるような奏法がありますが、これもドローンの一種だと思っています。
このように、音楽用語としてのドローンを紹介しましたが、無人機としてのドローンは2015年頃から本格的に登場し始めたようです。毎年1月にラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー展示会のCESで2015年にドローンが至る所で展示されました。
また同じラスベガスでこの年の4月に開かれた世界最大の放送機器展「Nabshow」では世界初のドローンパビリオンが登場し、アメリカでのドローンの盛況ぶりが注目されたのですが、これを席巻したのは中国でした。中国ではこの年の12月に民用航空局が「軽小型無人機運航規程」を作って、無人機に関する航空管制やパイロットなどに関する規定を発表しました。ドローンの制度整備をいち早く、また急速に進展させていたわけです。それで中国はドローン大国になったわけですね。
日本でのドローン規制と多様な活用法
一方、日本でドローンの脅威が現実のものとなったのは2015年4月、首相官邸の屋上で未確認のドローンが発見されたときです。このドローンには放射性物質を含む土砂が入った容器や発炎筒などが搭載されていました。これは「反原発を訴えるためだった」という男性によるものでしたが、この事件を受けて翌2016年3月に「ドローン規制法」、正式には「小型無人機等飛行禁止法」というのですが、これが議員立法で成立しています。
上空からのテロに備えて、国会議事堂や首相官邸、皇居などの重要施設、大使館といった外国公館、原子力事業所周辺では、管理者の同意がない場合は飛行禁止とし、その後自衛隊や米軍施設の上空も飛行禁止となっています。違反すれば罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)があります。
ドローンの用途は大変広く、当初はヘリコプターの代わりというものが多かったようです。先ほど、毎日新聞社内でドローンの運用について議論を重ねたと言いましたが、新聞社では航空取材というのは大変重要で、災害や事件が起きた際、地上からではなかなか近づけない場所の上空から動画や静止画を撮影する際に力を発揮します。尖閣諸島など遠い場所では、航続距離が長くスピードもある航空機で向かいます。
ただ、天候が悪い場合には搭乗する記者の安全のため飛べないことも少なくありませんし、空港に配備するため費用がかかりますし、何より機体が何億円もするためコストがかかります。その点、ドローンは優れています。ただ、ドローンでも先ほどの規制法がありますので、ヘリと同様に撮影する施設の管理者からきちんと許可を得ています。思ったより手軽というわけではないのですね。
東京では先日、面白い実験がありました。ドローンが生ビールを安全に運べるかどうかを検証するために中央大学の研究室が公開実験を行いました。長さ80センチほどのドローンにジョッキ4杯分の生ビールを詰めた箱をくくりつけて、東京の中野から、住民に迷惑がかからないように神田川の上空を経由して、5分ほどかけて高さ30メートルほどのマンション屋上に着陸したのですが、ビールは冷たかったということです。
これはドローンによる食料品配送ビジネスの実験なのですが、そこまで必要かどうかは別にして、自宅の庭やマンションなどで冷たいビールを受け取れるドローン技術はもうあるということですね。
ほかにも、九州ではありませんが、住宅地に出没するクマの警戒であるとか、災害時に送電会社が電柱や周辺の倒木の状況を把握するとか、火山の観測でも使われています。九州では新燃岳の噴火などがありましたが、実際にドローンを飛ばしている最中に爆発的噴火が発生して、噴火の瞬間を間近でとらえた映像が撮れたということで、今後の火山研究に大変役立つことになりました。
平和利用と兵器化:ドローンが問いかける未来
ただ、これだけ厳しい環境下でも精密に行動できるだけに、イランでは核物理学者の自宅をイスラエルが爆撃し、家族もろとも殺害するということも可能になっています。ミサイルなどに比べて価格が安いため、テロリストなども使えるということで、非人道的なことにも広く使われていることは懸念すべき事態です。
戦争で使うのですから規制も何もあったものではありませんが、音楽用語から発生したドローンの平和利用については考えていかなければなりませんね。
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この記事を書いたひと

山本修司
1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。























