のみの市で購入した小さなキーホルダー。ブルーとグレーの大人っぽいデザインにひかれた。「フランス製ですよ」という店主の言葉で即決。木箱に数百個のキーホルダーが雑然と入っていたが、迷うことなくその一つを選び取った。
そのキーホルダーの絵柄はカメラのようにも見えたので、職業上、親しみを感じたのかもしれない。目を凝らすと表はORFTというアルファベットを組み合わせたデザイン。裏はFRANCE INTERの文字とラジオの受信機が描かれていた。インターネットで調べると、意外なことがわかった。文字は「フランス公共テレビ・ラジオ局」の頭文字だった。裏面は「フランスアンテール」でパリ16区にある国営ラジオの名称。国営としては1974年ごろに閉局し、その後、民営化されて今も人気のラジオ局のようだ。
そうなるとキーホルダーは閉局される以前のもので、少なくとも50年ほどの古さだろう。当時このキーホルダーは番組プレゼントだったのか、記念品だったのか。ファンが、それとも局員が持っていたのか。想像すると興奮してくる。
自身がテレビ・ラジオの長い歴史の一員に身を連ねたような気持ちになった。キーホルダーに軽く触れて、きょうもマイクに向かう。言葉を紡ぎ、温かい歴史をこの先につなげるために。
8月23日(土)毎日新聞掲載
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