8月27日にRKBラジオ『田畑竜介 Groooooow Up』にスポーツ文化評論家の玉木正之さんが出演。野球の世界大会、ワールドベースボールクラシック(WBC)の放送放映権をNetflixが獲得したことについてコメントし、日本スポーツ界、特にプロ野球が直面する国際競争と構造改革の必要性について強調しました。
「日本人は時代遅れ」
WBCの放送が地上波ではなくNetflixでの独占配信となるニュースが報じられ、多くの日本人が「驚きのニュース」として受け止めています。しかし私は「驚きのニュースだと言っている日本人は遅れているのではないか」と思います。
前回のWBC決勝戦では、日本で43%という高視聴率を記録し、約5000万人が視聴したとされていますが、そもそもこの「視聴率」という考え方はもう古いのではないでしょうか。
今回のWBCのケースは、地上波テレビで誰もが見られない時代が到来しつつあることの象徴といえるでしょう。すべてのスポーツ、映画、その他の映像コンテンツが有料チャンネルや配信サービスに移行する、「そういう世の中になってきた」ということです。
こうした動きは日本だけでなく、東アジアを中心としたさまざまな放送権を狙ったものであると考えます。
海水浴人口激減との類似性
話は脱線しますが、かつて日本には海水浴ブームがありました。最も盛んだった1985年頃には、夏休みに海水浴を楽しむ人が3800万人もいましたが、最近では360万人と10分の1以下に激減しています。
この減少の背景には、猛暑により海岸で寝転ぶことが困難になったことや、昔は「どれだけ日焼けしているか」を競うコンテストなどもありましたが、それらも今ではできなくなったことなどがあります。しかし、何より海水浴客を増やそうという話になっていませんね。
すなわち、時代の流れというものは不可逆なんです。今回のWBC放送権の問題も「もう昔のようには戻らない」中で、日本がどう振る舞うべきかを考えてみましょう。
WBC誕生と日本の受動的な立場
今回の放送権売買において、日本は交渉に全く手を出せていません。MLB選手会が設立したWBCIという会社が独自に権利を動かし、交渉の余地はありませんでした。
そもそもWBCが誕生した際、日本は当初、不参加を表明していたことを覚えているでしょうか。その背景には、アマチュア球界の山本英一郎さんがMLBと交渉を進めていた「スーパーワールドシリーズ」構想がありました。
これは、ワールドシリーズ優勝チームと日本シリーズ優勝チームが秋に戦う計画で、1999年頃には2003年からの開催で合意寸前でした。しかし、2001年に9.11同時多発テロが起こったことや、日本プロ野球界の後押しがなかったことにより、この構想は立ち消えになりました。
その後、急遽WBCが立ち上がると、アメリカは日本に対し、不参加で赤字が発生したら経済的損失を訴える、国際的に孤立するといった強い姿勢で参加を迫り、日本は参加せざるを得ない状況に追い込まれました。
第1回大会では、イチロー選手をはじめ選手たち自身も「この大会何なの? 本気でやるの?」と戸惑いを見せていたほどでした。しかし、大谷翔平選手などの活躍によって大会が盛り上がり、商品価値が生まれます。「スポーツが資本主義の世の中でのコンテンツとして成長する」という現実を示しました。
日本プロ野球が抱える構造的課題と未来
現在のNPB(日本野球機構)は構造的な問題を抱えています。NPBには国際的な交渉主体がなく、日本のプロ野球を実質的に動かしているのは読売新聞社であり、各テレビ局に権利を渡すような形で運営されています。このやり方では、世界のマーケットと争うことはできません。
方やJリーグは、マーケットを整備し、放映権をDAZNに一括販売することで、個別に放送局に売るのではなく、リーグ全体で権利を管理する形をとっています。NPBもJリーグのように、プロ野球全体でマーケットを管理する、そういう組織に変わらないと、これは世界から置いてけぼりになるでしょう。
すでに大谷翔平選手やダルビッシュ有投手、松井裕樹投手、鈴木誠也選手のような素晴らしい選手たちが大リーグに引っ張られていますが、今のままではこうした構造がずっと続くことになります。
先ほど登場した山本英一郎さんは、「日本は近い将来、日本と韓国と中国と台湾とオーストラリアと一緒にウエストパシフィックリーグを作って、アメリカのメジャーリーグと対抗するようなマーケットを作らないといけない」と提唱していました。こういう構想が今求められているのではないでしょうか。
しかし、日本の球団は独立性が高く、ビジネスを一つにまとめて行う体制になっていません。かつてメジャーリーグを取材した際、ドジャースの関係者が「我々MLBはWe(我々)という言葉を使うが、日本から来る人はI(私)で喋る」と話していたのを覚えています。全体としてまとまれない日本の現状を象徴しています。
ソフトバンクの孫正義社長がMLBと本物のワールドシリーズ開催を交渉しようとしても相手にされなかったのは、NPBが「リーグになっていないから」です。今回のWBC放送権の問題をきっかけに、日本のプロ野球が「反省と改革」に手をつけられるかどうかに期待しましょう。
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