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中国共産党が「形式主義」打破を繰り返す!?その理由をウォッチャーが解説

飯田和郎

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9月8日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に、東アジア情勢に詳しい元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが出演。中国共産党が地方機関に発令した「形式主義の打破」という通達から、中国社会、ひいては日本社会にも通じる組織のあり方について語りました。

短い演説と「形式主義の是正」

9月3日、中国は抗日戦争勝利80年を記念する式典を北京で開催しました。習近平主席がプーチン大統領、金正恩総書記と並び立ち、軍事パレードも行われるという、習主席にとっての晴れ舞台でした。しかし、その演説時間はわずか10分間。晴れ舞台にしては短い、というのが私の第一印象でした。

この短さには理由があるのかもしれません。先日、中国共産党と中国政府は、形式主義を戒めるため、地方機関に向けて「現場の負担軽減のための、形式主義を是正する若干の規定」という通達を発令しました。この通達は、中国共産党トップ24人で構成される中央政治局会議で決定されたもので、リーダーである習近平主席の肝いりと言えます。

通達の冒頭では「形式主義や官僚主義は依然、根深く、大きな努力をもってして、根絶しなくてはなりません。形式主義、官僚主義に手足をしばられてはいけません」と、強い言葉で戒めています。習近平主席が自ら率先して短い演説を行ったのかもしれません。

「5000文字以内」の文書と会議時間の短縮

この規定には、具体的な指示が多数盛り込まれています。

まず「文書の発行」については、毎年の発行回数を減らし、前年より増えた場合は上級部門に書面で理由を説明するよう求めています。さらに、文書の内容についても「要点を押さえて簡潔に」と命じ、原則として「5000文字を超えてはならない」と規定しました。

ちなみに、この規定を報じた新華社通信の文書は4884文字で、模範を示した形です。しかし、漢字のみの中国語で約4900字はかなりの分量です。こと細かに指示しないと現場に伝わらないという、共産党中央のジレンマが伺えます。

会議についても、規定は以下のように通達しています。

「会議の開催回数を厳格に管理していく。業務に関する全体会議は原則として年1回を限度とする」

「責任者であるリーダーの発言、報告は1時間以内とする」

「上司に気に入られようと、意図して徹夜で会議を開いてはならない」

リーダーの演説、訓話は概して長いものです。たとえば、中国と同じ社会主義国のキューバのカストロ元議長は、国連総会で4時間半も演説したことがあります。また、ピラミッド型組織の下に行けば行くほど負担が大きくなってきます。そして疲弊して、本来の業務がおろそかになったり、できなくなったりします。

繰り返される号令と中国の現実

なぜ、中国共産党はこのような規定を繰り返し出すのでしょうか。実は、同様の内容の通達はこれまでも繰り返し出されてきましたが、一向に改善されないという現実があります。誰もが「おかしい」と疑問に思いながらも、「上を見て仕事をする」という文化は、どこの国でも同じなのかもしれません。

中国では公務員は安定した職業として羨望の対象となっており、だからこそ「自ら襟を正す」必要があるのでしょう。また、習主席が自らを「末端組織に思いを寄せる指導者」としてアピールする狙いもあると考えられます。習近平主席の側近には地方での勤務経験が長い人物が多く、習主席自身も地方勤務が長かったことから、末端の現実をよく理解していると言えます。

また、形式主義は時間や労力だけでなく、お金の無駄にも繋がります。地方政府が見栄を張ってインフラ建設を進め、巨額の資金を浪費する無駄な開発が繰り返されてきました。これもまた、地方都市にはびこる「形式主義」の典型と言えるでしょう。

非効率な現実を是正しようと詳細な指示を出しても、なかなか変わらないのが中国の現実です。しかし、今日話した内容は決して中国だけの話ではありません。私たち自身の周りを見渡しても、形式主義を完全に排除できているかと問われれば、自信を持って「はい」とは言えないでしょう。私もまた、勤務先で「長い文書、長いスピーチ」を戒めていきたいと感じています。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。