自民党の新総裁に選ばれた高市早苗氏が次期総理となる公算が大きい中で、中国は「高市政権」をどう見つめているのだろうか? 東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、10月6日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、日中外交の論点について解説した。
12年間で6人目の日本のトップ
10月4日、自民党の新しい総裁に高市早苗氏が決まりました。高市氏が初の女性総理に選出される公算が大きく、その新政権の周辺外交、とりわけ中国がどう高市氏を見つめているのかが焦点です。
習近平氏が中国共産党のトップ、総書記に就任したのは2012年11月です。この時、日本の首相は野田佳彦氏でした。その後、安倍晋三、菅義偉、岸田文雄、石破茂の5氏が総理を務めました。習近平氏が権力の座にあるこの12年間で、日本のトップは6人目ということになります。
中国をはじめとする外国の首脳からすれば、日本のカウンターパートが次々と替わるわけで、その都度、新しい総理がどのような考え方を持つのか、対応の修正が求められるわけです。
中国が警戒する「右系月刊誌」の論調
高市氏は時にタカ派的な発言を繰り返し、国内の保守層から支持を集めてきました。当然、中国からの警戒につながります。
日中関係を専門にする中国の外交官が私に語った話があります。その外交官は「日本の新聞をよく読みますが、記事だけでなく、新聞に掲載されている日本の雑誌の広告にも注目します。特に『右系の月刊誌』の広告は気になります」と言いました。
つまり、保守色の濃い論壇・雑誌です。そこで筆を取る人たちが、どんな主張をし、どの政治家を明確に後押ししているのかを見ています。以前なら安倍晋三元首相、最近では高市新総裁です。保守論壇で活動する人たちが、高市総裁の応援団でもあり、高市氏自身も登場することもあります。これらの雑誌では中国が批判・攻撃の対象になることが多いため、その高市氏が日本の次の総理大臣になるという事実に、中国は当然、警戒しているのです。
靖国参拝と安倍元総理の「あいまい作戦」
日中間の「トゲ」の一つが、靖国神社の問題です。高市氏はこれまで靖国参拝を重ねてきましたが、自民党の新総裁に選ばれた際、今後の参拝について問われ、こう語っています。
「靖国神社というのは戦没者慰霊の中心的施設であり、また平和のお社(やしろ)でございます。どのように慰霊をするのか、また、どのように平和をお祈りするのか、こういったことについては適時適切に判断をさせていただきます」
「絶対にこれは外交問題にされるべきものではない。お互いに、お互いに、祖国のために命を落とした方たちに、敬意を払い合える、そういった国際環境をつくるためには、私は一生懸命努力をしてまいりたい」
「お互いに、お互いに」と繰り返したのが印象的でした。総理になっても参拝を続けるか明言はしませんでしたが、私はここで、安倍晋三元総理が靖国参拝について語った言葉を思い出しました。安倍氏は、
「行くか行かないかについて申し上げるつもりはありません。行ったか行かなかったかについても確認することはありません」
と言い、いわば“あいまい作戦”を堅持しました。高市氏は保守色を強く打ち出した安倍氏と政治信条が近く、2021年の総裁選でも安倍氏が後押ししました。高市氏は今後の靖国神社参拝について、明確に示さない手法も、安倍氏のやり方を踏襲していくのでしょう。これも中国が警戒を強める材料になるでしょう。
ただ、安倍氏は初めて総理に就任した直後、中国と韓国を訪問しています。小泉政権時代に機能不全に陥った首脳外交の中での大胆なアプローチでした。高市氏が安倍氏の手法を学ぶとしたら、自身の歴史認識と折り合いをつけながら、中国や韓国に大胆なアプローチがあるかもしれません。
政治学者が語る「保守」のあり方
高市氏は自分を「穏健保守」だと自称しています。ここで「保守とは何か」という議論に立ち戻ってみましょう。
自民党総裁選のさなかの10月2日、朝日新聞に東京科学大学の中島岳志教授のインタビュー記事が載っていました。中島教授は「保守」をこう定義しています。
「歴史の風雪に耐えて残された良識、社会的な経験値、暗黙知。それが形となったものが伝統や慣習である。保守はこれらを重んじるが、全く変えないということはない。漸進的な改革、永遠の微調整をしていく。これが保守だ」
その上で、「自民党は保守政党か?」と問われた中島教授は、以下のように答えています。
「違う意見にも耳を傾け、落としどころを探るのが保守政治家だった。(元首相の)大平正芳さんが『政治は60点』と語ったが、どんな人でも間違うから40%の余白を残す。これが保守の態度。むしろこの十数年間の自公政権は、保守の重要な部分を失ったのではないだろうか」
高市新総裁が目指す「穏健保守」が、この中島教授が定義するような、対立する意見にも耳を傾け、「落としどころ」を探る政治であるのかどうかは、今後の外交姿勢に強く関わってくるでしょう。
中島教授は、排外主義を抑制する一番の方法として、賃上げや再配分で日本人の生活の土台を引き上げることだと主張しています。リーダーは、排外主義をあおりかねない言動を厳に慎み、国民の生活の安定を通じて「偏狭なナショナリズムを抑制する」ことが、本来の保守のあり方ではないでしょうか。国内だけでなく、近隣国との関係においても、この姿勢が問われます。
来週にも誕生するとみられる高市総理の近隣外交に注目が集まります。10月末には韓国でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が開かれ、韓国の李在明大統領や中国の習近平主席らも出席します。高市新総理の外交手腕が、いきなり試される舞台となりそうです。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。






















