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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、12月22日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。臨時国会閉幕後の会見で高市早苗総理が発した「対話は常にオープン」という言葉の真意と、それを受け取る中国側の視点との決定的な食い違いについて解説しました。
1か月半が経過しても冷え切ったままの日中関係
台湾有事をめぐる高市早苗総理の「存立危機事態」答弁から、すでに1か月半が経過しました。日中関係の冷え込みは深刻で、残念ながらそのまま年を越すことは避けられない情勢です。
こうした中、高市総理は先週の臨時国会閉幕を受けた記者会見で、日中関係の現状認識について自ら次のように言及しました。
「中国は重要な隣国で、建設的かつ安定的な関係を構築する必要があります。懸案と課題があるからこそ意思疎通が重要です。中国との対話については常にオープンです」
隣国として前向きな関係を築くべきだという主張は当然のことです。しかし、この「対話は常にオープン」というフレーズこそが、今の状況下では関係改善をいっそう困難にする危うさを秘めていると感じずにはいられません。
中国側はどう受け取るのか?食い違う「責任の所在」
「対話は常にオープン」という言葉は、外交において「柔軟に、ざっくばらんに話し合おう」という開かれた態度を示す際によく使われます。しかし、現在の中国の立場に立って考えてみてください。
高市総理は、台湾有事が起きれば「存立危機事態になりうる」と明言し、現在に至るまでその発言を撤回していません。内閣官房が事前に用意した「台湾有事という仮定の質問にお答えすることは差し控える」などと記されていた答弁資料を用いず、いわば総理個人で判断し、これまでの政府見解ではなく、持論を展開しました。
台湾を自国の領土とする中国からすれば、この発言は東京の中国大使館がX(旧ツイッター)で発信しているように、「内政に対する乱暴な干渉」であり、「核心的利益への重大な挑戦」と映っています。
対話の環境を壊した原因は「高市総理、あなたにある」と確信している中国に対し、「対話の窓口は開いていますよ」と呼びかけることは、火に油を注ぐようなものです。中国側からすれば、「問題をこじらせているのは我々だと言いたいのか」という、新たな反発を招く可能性が高いのです。
「ボールは向こうにある」という無言のメッセージ
高市総理は自身の政治スタンスを鑑みても、今後も発言を訂正・修正することはないでしょう。その状況で「対話はオープン」と発信し続けることは、暗黙のうちに次のようなメッセージを含んでいます。
「ボールは向こう(中国側)にある」
これは「次にアクションを起こすべきは相手の番であり、責任は相手にある」という意味で使われる表現です。高市総理が「こちらは開いている」と強調すればするほど、中国側は「日本側が歩み寄らなければ対話に応じない我々の責任にするつもりか」と、不信感をいっそう増幅させてしまいます。
萩生田氏の訪台がもたらす影響
さらに追い打ちをかけるような動きもあります。12月21日から23日にかけて、高市総理と近い関係にある自民党の萩生田光一幹事長代行が台湾を訪問しています。萩生田氏は「日華議員懇談会」の幹事長として、台湾の頼清徳総統との会談も調整されています。
総理に近い要人がこの緊張した局面で訪台し、台湾の最高指導者と会うことは、中国にとってさらなる刺激となります。総理が「対話はオープン」と言いながら、実際には中国の神経を逆なでするような行動を重ねています。これでは「言葉と行動が伴っていない」と捉えられ、高市総理への不信感は決定的なものになってしまいます。
遠のく日中韓首脳会談、修復への道は険しく
高市総理は会見で、「答弁は従来の立場を変えるものではない。この点を粘り強く説明していく」とも述べています。その言葉通り、ぜひとも粘り強い説明を尽くしてほしいところです。
しかし、現実は厳しいものです。年明け1月には韓国の李在明大統領が来日しますが、本来予定されていた日中韓3か国による首脳会談の日本開催は、中国との関係悪化により実現が困難となりました。結局、日韓の2か国首脳会談に留まることになったのです。
「対話はオープン」という姿勢を掲げつつも、短期的には日中関係の修復は極めて困難だと言わざるを得ません。重い課題を抱えたまま、激動の2025年が暮れようとしています。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。




















