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台湾を包囲した中国の大規模軍事演習…その「三つの狙い」とは?

飯田和郎

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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、1月12日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。アメリカによるベネズエラ攻撃やグリーンランドへの関心に世界が揺れるなか、昨年末に突如実施された中国軍による台湾包囲演習の深層を、習近平指導部の「核心的利益」と国内事情の観点から解説しました。

「核心的利益の中の核心」という不気味なフレーズ

トランプ政権によるベネズエラへの武力攻撃と大統領拘束。この衝撃的なニュースが世界を駆け巡るなか、国際社会ではある危惧が広がっています。「他国の主権を軽視するアメリカの行動が、中国に対し『台湾を武力統一してもよい』という誤ったメッセージを送ってしまったのではないか」という懸念です。

高市早苗首相が、台湾有事を「日本の存立危機事態」と位置づけた答弁も、いよいよ現実味を帯びてきました。中国側は、昨年末の12月29日から大晦日にかけて、台湾をぐるりと包囲する大規模な軍事演習を強行しました。年明け1月2日、中国国防省のスポークスマンはこう言い放っています。

「中国軍は外から干渉しようとする、たくらみを断固打ち砕く」

中国が台湾問題で繰り返すフレーズに、「台湾問題は中国の核心的利益の中の核心である」というものがあります。「核心」という言葉を二段重ねにするこの奇異な言い回しには、チベットや新疆ウイグル両自治区、沖縄県・尖閣諸島や南沙諸島など他の懸念事項とは一線を画す、「絶対に譲歩しない」という剥き出しの執念が滲んでいます。

軍事演習が狙った「三つのターゲット」

今回の演習には陸海空、そしてミサイル部隊であるロケット軍までもが動員されました。このタイミングでの演習実施には、三つの要素(ターゲット)があります。すなわち、台湾に向けて、日本やアメリカに向けて、そして中国国内に向けての三つです。

1. 台湾に向けて:頼政権への強烈な警告

台湾の頼清徳総統は、中国を「境外敵対勢力」と呼びました。「境外(中国は別の国)」かつ「敵対(敵である)」という認識は、中国にとって最も許しがたい越線です。演習は、この頼政権に対する直接的な軍事的圧力です。

2. 日米に向けて:高市発言と過去最大の武器売却への反発

高市総理の「存立危機事態」発言、そしてアメリカ・トランプ政権による過去最大規模(約1兆7000億円)の対台武器売却承認。これら日米の動きに対し、中国は演習を通じて「干渉への反撃」という実力を誇示してみせました。

3. 中国国内に向けて:ナショナリズムの喚起と軍の引き締め

戦後80年が経っても解決できない「台湾統一」という課題を国民に再認識させ、中華民族の悲願であることを強調する狙いがあります。同時に、汚職で幹部が相次いで失脚し、動揺が走る人民解放軍内部に対し、トップである習近平氏の権威を知らしめ、組織を引き締めるという内政上の事情も見え隠れします。

世界の関心が「ベネズエラ」へ移った隙に

中国国防省は、今回の演習で「台湾独立阻止に強大な実力を示した」と成果を強調しました。しかし、最大の皮肉は、この大規模な演習の効果が、アメリカのベネズエラ攻撃という更なる「巨震」によって、国際社会の関心から急速に薄れてしまったことです。

台湾にとっては、世界が自分たちに注目し続けてくれることこそが最大の防御となります。しかし、今や世界の目はベネズエラ、グリーンランドに移ってしまいました。台湾だけでなく、ウクライナやパレスチナからもその目は離れつつあります。

中国はすぐに台湾侵攻を開始する状況にはありません。しかし、アメリカの暴走によって国際社会の関心が分散し、自らの軍事挑発が「過去の出来事」のように扱われる現状を、習近平氏は内心、ほくそ笑んでいるのではないでしょうか。私たちは、遠くの激震に目を奪われ、足元の危機の予兆を見逃してはなりません。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。