東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、1月19日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演しました。高市早苗総理による衆院解散表明という国内政治の激動を前に、先週行われた韓国の李在明大統領による「中韓・日韓」連続訪問を検証。冷え切った日中関係の狭間で繰り広げられた、熾烈な「おもてなし外交」の裏側を解説しました。
中国が仕掛けた「抗日の同志」の演出
李在明大統領は1月4日から7日にかけて中国を、続く13日・14日には日本を相次いで訪問しました。訪問先の日本と中国は今、とても冷え切った関係。日中それぞれからすれば、間にある韓国と、そしてその大統領との距離を縮めたいところでしょう。
まず中国は、李大統領を「国賓」として招待し、最大限の礼遇で迎えました。習近平主席は首脳会談で「中韓は日本軍国主義との戦いに勝利した。共に成果を守らなければならない」と述べ、露骨に日本を意識した「歴史問題での共闘」を求めました。台湾有事を巡る高市発言以降、中国は外交のあらゆる場面で日本批判を展開しており、韓国に対してもその姿勢を鮮明にした形です。
李在明大統領は「国権が奪われていた時期に、その回復のため互いに手を取り合って共に戦いました」と応じましたが、この発言は、外交儀礼的な色彩が強いと感じています。
李大統領は上海にある「大韓民国臨時政府」の庁舎跡にも訪れています。ここは日本統治時代に朝鮮の独立運動家が拠点を置いた場所であり、今年は庁舎使用開始からちょうど100年の節目にあたります。
中国政府系メディアは、この視察を「中韓共通の歴史を再認識し、『抗日の同志』という絆を強化するものだ」と論評しました。かつて朝鮮戦争で北朝鮮を支援し、韓国と戦火を交えた中国が、今や「抗日」を旗印に韓国を引き込もうとする姿には、対日包囲網を形成したいという強い思惑が透けて見えます。
実際のところ、李在明大統領は韓国国内向けに、臨時政府跡を訪れたいと希望したのです。それを中国が演出して「対日共闘」「抗日」に利用するため、大統領をもてなしました。中国の通信社は「両国関係の感情面における礎(いしずえ)とする」と報道したのは、「共に日本に侵略され、日本と戦った同じ思いを持つ者同士」と強調したかったからです。ただ、李在明大統領からすると、「抗日」ではなく、「大韓民国の独立」という視点からの訪問だったのです。
高市総理が地元・奈良で見せた「したたかなもてなし」
対する日本側、高市総理も負けてはいません。総理は自身の「政治の師」である安倍晋三元総理がプーチン大統領を地元・山口に招いたように、李大統領を故郷・奈良へ招待しました。
法隆寺の案内や、奈良市内のホテルでの自らのお出迎え。さらには、かつてバンド活動をしていた大統領の希望に合わせ、総理自らもスティックを握りドラムで共演するというサプライズまで演出しました。仏教文化が朝鮮半島を経由して奈良に伝わったという歴史的背景を活かしたこの「奈良外交」は、友好ムードを盛り上げる舞台装置としてこれ以上ないものでした。
かつて日本を「敵性国家」と呼び、厳しい姿勢を見せていた李大統領が、滞在中終始なごやかな表情を見せていたのは、高市総理の「したたかなおもてなし」が功を奏したと言えるでしょう。
「引き分け」の裏にある韓国の現実的バランス
日中両国による、この“おもてなし合戦”。軍配はどちらに上がったのでしょうか。
李大統領は「一方の肩を持つことは対立を激化させる要因になる」と発言しています。これは、アメリカの同盟国である日本との安全保障上の連携を重視しつつも、北朝鮮に影響力を持ち、経済的結びつきも強い中国を敵に回すことはできないという、韓国の「バランス外交」の表れです。
日中の対立に深入りせず、双方から利益を引き出す。この李大統領の冷徹な現実主義を前に、今回のおもてなし合戦は「引き分け」に終わったと言えるかもしれません。
仏教文化が中国から朝鮮半島を経て日本へ渡ったように、東アジアの3カ国は歴史的に深く繋がっています。しかし、現状は「中韓対日本」の構図を作ろうとする中国と、それを引き留めようとする日本という、不安定な均衡状態にあります。
間もなく衆議院選挙が始まります。有権者である私たちは、単なる感情的な外交ではなく、こうした東アジアの複雑な力学を見据え、どのような近隣外交を目指すべきなのか。その答えを託せる相手に、一票を投じたいものです。
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