確定した刑事裁判をやり直す「再審制度」見直しの議論が本格化しています。再審無罪まで逮捕から58年と異常に長い時間を費やした「袴田事件」がその契機となっているのですが、裁判官、検察官、弁護士と3者の主張には隔たりがあるようです。1月9日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演したジャーナリストで毎日新聞出版社長の山本修司さんが、裁判取材の長い経験をもとに解説しました。
「三審制」でも防げない冤罪と再審のハードル
再審といえばこれまで、免田事件や財田川事件、島田事件、松山事件が知られていましたが、これらは「死刑冤罪4事件」と呼ばれていました。いずれも死刑が確定していた事件ですので、もし執行されていたら取り返しのできない事態になっていたわけです。再審無罪までに極めて長い時間を要したことが大きな問題となりましたが、その原因は再審に関する規定が十分に整備されていないことにあります。
刑事裁判では、検察官が「合理的な疑いがない程度」に立証できたと裁判官が判断すれば有罪となります。しかし、裁判に関わるのは人間ですから判断を誤ることもあり得ます。そのため、地裁、高裁、最高裁と3段階で裁判を受けられる「三審制」がとられていますが、それでも冤罪は起きてしまいます。
再審制度は間違いを正すために不可欠ですが、開始には「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」が必要です。通常の裁判とは逆に、弁護側が無罪を証明しなければならず、証拠の多くを警察や検察が握っている現状では新証拠を見つけるのは並大抵のことではありません。再審開始へのハードルが極めて高く、「開かずの扉」といわれるのはこのためです。
わずか19条の規定が生む「裁判官ガチャ」の実態
刑事訴訟法には約500の条文がありますが、再審の手続きに関する規定はわずか19条分しかありません。内容も「誰が請求できるか」といった基本的なものにとどまり、「どのように手続きを進めるか」という肝心な点が極めて不明瞭です。
このため、再審の進め方は裁判官の広い裁量に委ねられています。これを「職権主義」といいますが、実態は裁判官の姿勢次第という側面があり、一部では「裁判官の当たり外れがある『裁判官ガチャ』だ」と皮肉られるほど不透明なものになっています。
近年、袴田事件や福井女子中学生殺害事件(前川彰司さん)で再審無罪が確定しましたが、いずれも逮捕から30年以上を要しています。特に前川さんの事件では、無罪を決定づける重要な証拠が開示されたのが再審請求から19年後でした。こうした事態を受け、超党派の国会議員連盟が結成され、法制審議会での議論も本格化しています。
「証拠隠し」と「長期化」という二大問題
再審制度の見直しにおける最大の焦点は、検察側による「証拠開示」と「異議申し立て(抗告)」の是非です。
1つ目の問題は証拠開示です。検察が持つ証拠の中には、弁護側に有利なものがあっても提出されない「証拠隠し」に近いケースがあります。裁判所が命令してようやく出てくるような状況では、フェアな審理は望めません。
2つ目の問題は、検察官による抗告です。地裁が再審開始を決定しても、検察が不服を申し立てることで審理が数年、数十年単位で長引きます。袴田事件でも、2014年の開始決定から実際に再審が始まるまで、検察の抗告によって9年もの月日が費やされました。
検察側は「確定した有罪判断が1回の決定で覆るのは法的安定性を欠く」と主張し、抗告の権利を維持すべきとしています。しかし、再審の原点は「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜(むこ)を罰するなかれ」という精神にあります。
裁判に誤りがあれば速やかに正すのが司法の責務です。多様な意見がある中、私たちは「再審は何のためにあるのか」という原点を見失わずに、この議論に注目していかなければなりません。
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この記事を書いたひと

山本修司
1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。






















