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東京の名店「上野毛 吉華」の遺志をついで2023年福岡に開業した「一輩子 吉華」明石 圭一郎さん

UMAGA

はじめに

博多区美野島に、以前「UMAGA」でも紹介した「四川料理 巴蜀」という店がありました。同店は現在、東京の浅草に移転して営業されていますが、その後、同じ場所で営業を始めたのが今回紹介する中国料理「一輩子 吉華」(いーぺず・きっか)です。

オーナーシェフの明石 圭一郎さんは福岡市生まれ。東京の四川料理の名店「上野毛 吉華」や四川省成都市で修業をし、2023年地元に戻って独立開業した人。「四川料理 巴蜀」荻野店主からも紹介されていましたが、去年初めて伺って明石さんの料理はもちろんのこと中国料理に取り組む考え方や姿勢に惚れ込んでしまったので今回「UMAGA」でご紹介したいと思います。

調理専門学校時代

まずは明石さんのことからご紹介しましょう。昭和55年に福岡市東区で生まれ、高校卒業後は中村調理製菓専門学校へ進学したそうです。

― 料理人という仕事にはいつ頃から興味があったんですか。

明石さん 中学生の頃に興味を持ちました。あまり裕福な家で育ってなかったのでサラリーマンの年功序列というより自分の努力や実力で上を目指せる世界で勝負したいなぁと思ってました。いざ業界に入ってみたら年功序列ではなかったですがサラリーマンよりも上下関係は厳しかったですけどね(笑)


― 専門学校ではどんなことを勉強をされましたか。

明石さん 2年間のコースで和食・洋食・中華の基礎を学ぶんですが、就職はフレンチへ進みたかったんです。1年が終わって実習としてお店で働かせてもらうんですが、「北島亭」という店に行く予定でした。王道のフレンチで飾り過ぎない料理に憧れてたんです。しかしちょうどその時に体調を崩して行けなかったんです。その代わりに以前学校に講師で来られていた久田先生のお店に日にちを改めて実習に行かせてもらったのが中国料理の「上野毛 吉華」でした。

― 「上野毛 吉華」はどんなお店だったんですか。

明石さん 日本における四川料理の父とされる陳建民さんの弟子の久田大吉さんがオーナーシェフを務めるお店です。特に飾りっ気もない古いお店でしたけど、芸能人や政治家が頻繁に通うのを見て、有名なお店なんだぁと思いました。そしてオーナーシェフの久田さんの料理がビックリするほど美味しくて圧倒されたんです。僕はセロリやピーマンなどが苦手だったんですが、それも全部美味しく食べられたんです。それで久田さんの料理を学びたい!!と思うようになりフレンチから中華へ志望を変更しました。

「吉華」時代

― 卒業後は「上野毛 吉華」へ入られたのですか。

明石さん はい。人は足りてるので募集はしていないということだったんですが、2年生の夏に再度懇願したらなんとか働かせてもらえるようになりました。

― 久田さんはどんな方でしたか。

明石さん 見た目はいつも同じような服を着て紙袋に荷物を入れて持ち歩くような人でオシャレとは程遠いような人で物腰が柔らかく優しい方でした。しかし料理となると、今まで食べたことの無いような美味しいものをたくさん作られるんです。「いつか中国に行って勉強したい」という話をしたら「基礎が出来てないのに行っても仕方ないので、うちで4年は働きなさい」と言われました。通常3年以上はここで仕事をさせてもらえないというのが「上野毛 吉華」」の暗黙のルールであったようですが結局4年半くらいお世話になりました。

― 久田さんにしっかり中国料理の基礎を教えてもらったのですね。

明石さん そうですね。その間、前菜、板場、そしてメインとなる鍋場のすべてを任せてもらえました。お酒好きな久田さんでしたが、まだ24歳だった僕のために3ヵ月間禁酒されて熊の手やフカヒレ料理など鍋場の仕事を叩きこんでくれました。

― 休みの日とかありましたか。

明石さん 久田さんが「休みの日は白衣を持って他の店でお皿や鍋を洗ってきたら良いんじゃない?」と言われていたので真面目に聞き入れて先輩たちの店の厨房で皿洗いしながら勉強させてもらってました。神保町の古本屋で本を買い漁って中国料理や中国語の読書にもあけくれてました。とにかく30歳までには両親の面倒を看るためにも福岡に帰って開業したいという気持ちがあったので、とにかく仕事と勉強ばかりしてました。

中国修業時代

― その後25歳で中国に行かれたのですね。

明石さん 中国で本格的な料理を学びたいと思い1年間四川省成都市に行きました。久田さんのツテを使って現地の料理人を紹介してもらい訪問ビザを所得しました。週6日は授業料を払ってお店に入って勉強させてもらい、休みの日はいろんな店を食べ歩きしてました。さらに5年後にもう一回半年間成都で修業させてもらいました。

― 学びたい中国料理について得るものは多かったですか。

明石さん 僕は中国の伝統的な料理を学びたかったのですが、2005年頃からの高度成長で仕事内容がすっかり変わった店が多かったようです。昔ながらの人海戦術で手の込んだ調理をするような料理は減っていて、コスト重視で量をさばくような調理法に変わりつつあったんです。お世話になっていた店の料理長に「どうしても昔ながらの中国料理を勉強したい」と何度もお願いしたら「わかった。昔の料理にこそ中国料理の基礎がある」と教えてくれるようになりました。今思えばあの時代だからこそまだそういう料理人が残っていたので教えてもらえたけど、今ならそんな知識や経験がある料理人も減っているかもしれませんね。教えてもらった中国人料理長は今でも連絡を取ってますし、僕にとってのもう一人の師匠みたいな人です。

― 帰国されてからはどこで働かれたのですか。

明石さん 帰国後一度福岡に帰ったんですが、2011年に「上野毛 吉華」」に再就職しました。久田さんの年齢的なものもあり、「福岡に移転しても良いのでお店を引き継がないか?」というご提案も頂いたんですが、まだやりたいことがある気がしたので丁寧にお断りさせてもらいました。その後、関東の中国料理店4店舗で働いていろんな経験をさせてもらいました。

再就職の時の久田さんと明石さん(右)

― いよいよ帰福からの開業ですか。

明石さん 2019年に福岡に帰って開業の準備を始めました。しかしすぐにコロナ禍に突入してなかなか前に進みませんでした。物件も見つからずに困り果てていた時でした。一度だけ友人に連れていってもらったことがある美野島の「四川料理 巴蜀」の荻野さんから「東京に引っ越しするので、もし良かったらこの場所で開業しませんか、との話をいただいたのです。場所的にどうなのかと最初は迷いましたが荻野さんが「ここにはお客さんがついていて売上も見込めます。ここで無理なら他でも無理と思います。僕も同じような気持ちで中国料理に取り組んでいる人に譲りたいんです」と言われて決断しました。

「一輩子 吉華」開業

― 2023年いよいよ開業ですね。店名について教えてください。

明石さん 2015年に久田さんは亡くなられたんですが、少し遅くなりましたが「吉華」という名前を残したくて使わせていただきました。以前お誘いいただいた時は受けることが出来ませんでしたが、自分の中では後を継いで頑張ろうと「吉華」を名乗らせてもらいました。

― ちなみに「一輩子」というのは「一生」という意味ですね?

明石さん 僕は「吉華」に育ててもらったので、生涯を「吉華」に捧げる覚悟を込めてつけました。

― 久田さんへの敬意や感謝の気持ちが表れているんですね。料理内容も引き継がれたのでしょうか。

明石さん 当時はレシピなどが無かったので久田さんの感覚や感性を僕なりのアレンジをして引き継いでます。陳建民さんからの流れをくむ担々麺については特にそれを大事にしています。

― どのようなコンセプトで料理に取り組まれてますか。

明石さん 何回も食べたくなるような料理を目指しているので、見た目の派手さは求めずしっかり手間をかけたものをお出ししようと思います。旨味調味料については可能な限り使用していませんが、使用する醤油やオイスターソースなどに元々少し含まれているものもあるので無化調は謳わないようにしています。香辛料や調味料については定期的に中国にいって自分で確認して仕入れてきています。特に山椒はさわやかな香りとキレのあるしびれを基準に選んでます。とにかく香りを大切にしています。山椒や唐辛子もそうですが野菜も含めて香りを大事にして料理しています。また使用する野菜については宗像の豆苗、台湾高菜、南瓜や糸島の黄ニラなど農家さんから仕入れているものもあります。畑まで状況を確認しに行って使いたい野菜についていろいろ相談させてもらってます。頑張っている農家さんに協力してもらっているんで僕も応援したいという気持ちでお付き合いさせてもらってます。

主なメニュー

― 人気メニューや推しメニューはありますか。

明石さん ランチタイムは、平日は気軽に楽しんでもらえるように看板メニューである担々麺と麻婆豆腐、さらに一種類の定食を用意しています。土曜日のランチタイムは夜メニューを一つ選んで定食として出しています。夜は、コース料理を中心に用意していますが、アラカルトも対応しています。その中でもよだれ鶏、酢豚、そして麻婆豆腐と担々麺は人気メニューです。コースは5,500円、8,800円、13,200円を用意しています。相談の上ということで30,000円をお出しすることもあります。
麻婆豆腐は旨味調味料は使わず、3年間自家発酵させた豆板醤を使用して香りと辛味としびれを楽しめるようにしています。担々麺はもちろん陳建民さんの昔ながらの味を再現しています。干しえび、ザーサイ、ヤーツァイ、胡麻、酢などを使用して花椒は使用していません。盛り付ける時に味を重ねたスープは混ぜないというルールがあり、お客様が食べる時にまぜて香りや味を楽しむという正統派スタイルにこだわっています。

ランチタイムの担々麺

ランチの一例

夜メニューの本格的な四川流汁無し担々麺と麻婆豆腐

夜メニューの一例

― ワイン推しだともお聞きしましたが。

明石さん ワインは、元・日本ソムリエ協会福岡支部長を務めた「ラタフィア」のオーナーソムリエ・吉村智美さんにセレクトしてもらったものを置いてます。吉村さんが選ぶワインがうちの料理によく合うんです。そもそも中国料理は発酵食品をよく使うので発酵飲料のワインと合うのは間違いないと思っています。中国でも中国料理とワインを一緒に楽しむというのは広がっているようです。もちろん紹興酒が合うのは間違いないです。

将来について

― 将来について思うところはありますか。

明石さん 特に大きな野望みたいなものはないですが、このまま末永く中国料理人としてやっていけたら良いなと思っています。自分の作りたい料理にこだわってやっているので、それを理解して共感して食べに来てくれるお客様を少しでも増やしていけたら良いと思います。それはお互いの信頼の元に成り立つと思うので、お客様に限らず農家さんであったり同業者の方だったり仕事の仲間についても同じです。特に最近は、中国料理に関わらず、フレンチやイタリアンなども含めて他分野の料理人とのコラボイベントにも取り組んでいます。

― 人との信頼関係というのことが大事にされてると受け取れますね。

明石さん 料理を作るのが仕事ですが、やはりそこには人がいるわけで、どんな人が料理を作るか、どんな人が食べるのか、どんな人と一緒に仕事をするのかなど、人と人の関りや信頼というものが非常に大事だと思うようになりました。そういう関係の中で仕事が出来るのは幸せだし、良い仕事が出来ると思います。

― まさに僕も共感しますね。どんな料理なのかだけではなく、どんな人がどんな想いや気持ちで作った料理なのか、それが分からないと僕は心の底から“美味しい”とは思えないので明石さんの料理は話を聞けば聞くほどお客さんにとってはさらに美味しくなると思います。これからも楽しみにお邪魔したいと思います。今日はお忙しい中お話し聞かせていただいてありがとうございました。


「一輩子 吉華」は明石さんが一人で仕入れて仕込みをして調理をして提供するというこじんまりとした本格的な中国料理のお店です。ランチタイムはフロアをまかなうスタッフさんもいますが、夜は少人数の予約制で明石さんが一人ですべてをこなしています。だからこそお客さんとの距離感が近くここに惚れ込んだ常連さんも多い店になっています。まさに僕にストライクなお店なのです。ご興味があればランチからでも、夜のコース料理でもアラカルトからでも是非どうぞ。

店舗名:一輩子 吉華(いーぺず・きっか)
ジャンル:中華料理
住所:福岡県福岡市博多区美野島2-3-14
電話番号:092-600-0599
営業時間:ランチ11:30~OS14:00 /ディナー18:00~
定休日:日祝、水曜
席数:カウンター4(昼のみ)席、テーブル12席
メニュー:ランチ 担々麺、麻婆豆腐など 1,000円~/ディナー コース5,500円、8,800円、13,200円、その他アラカルトあり

URL:https://www.instagram.com/i_peizu_kikka/

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この記事を書いたひと

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