皆さん、啜っていますか? ラーメンライター上村がお届けする連載『福岡ラーメン愛が止まらない』。今回は、いつもの福岡市内から少し足を伸ばして北九州エリアのラーメンについて述べようと思います。
まず、ご存知の通り豚骨アイランド・九州にはさまざまな“ご当地豚骨ラーメン”があります。博多、熊本、久留米、佐賀ラーメンなどが有名どころ。もっと限定された地域にフォーカスすると佐伯ラーメン(大分)、玉名ラーメン(熊本)、大牟田ラーメン(福岡)なども存在。そして、熊本ラーメンはニンニクチップ、佐賀ラーメンは卵黄など分かりやすいアイコンをもっているものは実は少数派であり、例えば博多と長浜ラーメンを比べてもそうであるように、明確な定義の違いというものはほとんどありません。それでも僕らが九州ご当地豚骨に強く惹きつけられるのは、地域の愛され店の歴史や人間ドラマに思いを馳せながら啜れるなど、現地を訪れてこそ味わえるそれぞれの萌えポイントがあるからだと思っています。
今回の「北九州ラーメン」も定義的にはふわりとしているものの、間違いなく“地域の名を冠した愛され豚骨”の一角。同地の名店の中から「クモノウエ」(北九州市八幡西区鷹の巣)をピックアップします。「クモノウエは北九州ラーメンでなく佐賀ラーメンでしょ?」。熱心なラーメンファンからこの問いもあるでしょうが、答えはYesでありNoでもあります。「クモノウエ」は「佐賀ラーメン いちげん。」を源流にしているのでジャンルでいうと確かに佐賀ラーメン。けれども、開業から時を経て、地元に深く根ざした北九州ラーメンの色も加わりつつあります。これはある意味では自然な流れであり、九州の他ご当地豚骨を形作る名店の多くが豚骨ラーメン発祥の地・久留米に端をなし、時間をかけて各地名を冠した一杯へとなっていったように「クモノウエ」はまさに今その進化の過程。その土地に溶け込み、馴染んでこそ本物という考えもあると思います。まあ、何々ラーメンとカテゴライズしたがるのは僕らラヲタの習性的なところもあり(笑)、作り手は一心に“自分の美味”を追い求めているだけなのですがとにかく、「クモノウエ」の佐賀愛、北九州愛、師弟愛あふれるストーリーはとても興味深いので紹介します。
「クモノウエ」店主は岩下輝さん(※上写真右、昭和53年、北九州市三ヶ森出身)。名前はアキラと読みますが、愛称“テルさん”で広く通っています。元は自衛官で、食べることが好きすぎるあまり転職して飲食の道へ。うどん集団「豊前裏打会」の創始者・津田屋官兵衛(横山和弘)氏、佐賀ラーメンを牽引する「いちげん。」店主の内田健市氏(※上写真左)と、九州のうどん&ラーメンの2人の巨匠から習った異色の経歴をもつ人です。本企画はラーメンが主役なので官兵衛さんとのエピソードはまた別の機会に書かせていただくとして、ここでは内田さんとテルさんの話を。
「幼少期から地元の『鳳龍』や『唐そば』のラーメンに親しみ、自衛官時代も県をまたいで頻繁に食べ歩きをするほど大のラーメンファンでもありました。その中で特に味に惚れ込み、長く通い詰めたのが『いちげん。』。僕が豊前裏打会に入門し『うどん満月』を2008年に独立開業してからも健市大将にはいつも気にかけていただいていました。そんなある時、SNSを通じて『いちげん。』のスタッフが足りていないことを知り、サプライズ的に手伝いに行ったんです。それが僕がラーメンにおいても食べ手から作り手となるきっかけでした」とテルさん。
一方、「いちげん。」の内田さんはこう話します。
「まずは気持ちが嬉しいじゃないですか。それからテルちゃんは北九州で自分の店をやりながら、佐賀のウチの店にも頻繁に手伝いにきてくれました。根気よく続けてくれる彼のひたむきさをみて『本格的にラーメンを学んでみる?』と声をかけたんです。僕はあまり弟子をとる方ではないのですが、前向きになったのは感謝の念もありましたし、何より彼の人柄に惚れたから。そして、その時すでにテルちゃんは『うどん満月』を十数年続けていましたので経営的センスも長けていると判断したからです。彼ならやっていけると」。
内田さんのありがたい言葉にテルさんのラーメン熱は一気に高まりました。約1年、北九州市と佐賀市を往復する日々を過ごすこととなります。夜中まで北九州の自身の店に立ち、その足で佐賀に向かい車中で仮眠をとり麺場で学ぶこともよくあったそう。そのようなハードな修業を経て、いちげん流の呼び戻しスープの製法を習得。2021年に「クモノウエ」を北九州市鷹の巣にオープンする運びとなりました。
豚のゲンコツのみを櫓のように綺麗に組み上げて炊き、状態を見極めながら骨の出し入れをして旨味を重ねたスープは絶妙の濃さで、脂を抑えているためあっさりライトな飲み口。スープの中で溶ろける“干し”か、パリッと香ばしい“焼き”が選べる佐賀県産の最高級海苔「特選 一番摘み」、鞍手町のブランド卵「味宝卵」の卵黄が定番人気のトッピングです。「クモノウエ」はメキメキと頭角を現し、5年の時を経て北九州エリアを代表する一店へと成長しました。
「健市大将は今でも気にかけてくれ、時折スープをチェックしにフラリと北九州まで来てくれます。背筋が伸びる思いですね」と感謝を述べるテルさん。また、テルさんの弟子、つまり内田さんからすると孫弟子にあたる永野健太さん(下写真)が2025年6月北九州市紺屋町に「Ken-Kenらぁめん」をオープンした際にも内田さんは応援に駆けつけました。
節目の5周年を迎えたテルさんは10周年へ向けての意気込みをこう話します。
「お客様に感謝。健市大将に感謝。スタッフに感謝。日常に寄り添うようなこの優しいラーメンをより多くの地域、老若男女に広めていくことが、健市大将への恩返し、そして故郷の北九州がより盛り上がることにつながると思っています。来たる3月21日(土)、22日(日)にはクモノウエとして初のラーメンイベント『北九州ラーメンフェスティバル』にも出店します。クモ系旋風を巻き起こせたらいいですね」。
食文化の伝播、継承は豚骨ラーメンにおいても1937年に久留米で生まれてから約90年の間、繰り返し行われてきたことです。そして新しい土地で馴染み“ご当地”が醸成されていく。そのような系譜や師弟愛に思いを巡らせながら啜れば豚骨ラーメンの深みが増し、より大切にいただきたくなるはずです。
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