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消費税ゼロか給付付き税額控除か:物価高対策の最適解を問う

山本修司

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衆院選での自民党圧勝を受けた特別国会が始まりました。最も関心が高い物価高対策として、公約に掲げた2年間限定の「食品消費税ゼロ」について議論が始まります。「給付付き税額控除」についても検討されており、「物価高対策には消費税減税よりも給付付き税額控除の方が効果はある」とも言われていますが、このあたりの仕組みを正確に理解するのは容易ではありません。そこで、国税庁担当として税金関連の取材経験が豊富な毎日新聞出版の山本修司社長が、2月20日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演し、それぞれのメリットと課題を解説しました。

「給付付き税額控除」というハイブリッドな選択肢

消費税減税については、衆議院が解散された1月23日の放送で「物価高対策としてはふさわしくない」と申し上げたのですが、その後もずっと話題に上っています。衆院選で「食料品の消費税ゼロ」は「チームみらい」を除く全党が公約にしたので、議論が深まることはなかったのですが、その「チームみらい」が躍進したことは、食料品の消費税ゼロに反対する人が一定数いたということです。

消費者として物の値段が下がることが嫌だという人はいませんから、それでもなお、財源などの問題から食料品の消費税は下げるべきではないと考える人が相当数いたことは大変興味深いことで、健全な姿勢だと私は考えています。そこで今日は、消費税減税と給付付き税額控除の問題をセットで考えてみたいと思います。

まず「給付付き税額控除」とは何かということを説明しなければなりません。これは、所得税額から一定の額を控除し、控除しきれない場合はその差額を現金で給付する制度です。例えば、10万円が控除される場合、納税額が10万円の人は税金がゼロになり、5万円の人ならば、残り5万円が現金で給付されます。納税額が0円ならば、10万円全額が現金で給付されることになります。

一方で、納税額が100万円の人は10万円控除されますので90万円になり、納税額が1000万円の人は990万円ということですので、納税額が高い人、つまり所得が高い人よりも低い人の方が減税効果は大きく、使えるお金の割合も大きくなりますので、所得の再分配と消費の下支えの両方に効果があるといえます。

従来は、よく「給付付き」がない税額控除だけが使われたのですが、税額控除だけだと先ほどの例で言えば、納税額が10万円の人はゼロになりますが、10万円に満たない人は恩恵が比較的小さくなりますし、納税額がゼロ(非課税世帯)には全く支援が届かないということになってしまいます。ですから、給付付き税額控除は「給付と控除を組み合わせて所得の低い人にも支援が届くハイブリッドな制度」ということができます。

食品消費税ゼロが抱える「逆進性」のワナ

次に消費税減税です。現状では、食料品にかかる8%の消費税を2年間に限ってゼロにするという案が与野党で組織する「国民会議」で議論されることになる見通しです。1月の放送でもお伝えしましたが、4人家族で年6万4000円ほどの恩恵がある一方で、5兆円に上る国の税収に穴があくことになります。

総務省の家計調査によると、2025年の2人以上世帯では、食費の割合を示す「エンゲル係数」が28.6%に達し、1981年以来44年ぶりの高水準となったということですので、食料品の消費税がゼロになると家計が大変助かるのは確かです。

ただ、これには問題があります。食料品は所得の高い人(富裕層)ほど支出が大きいので、それにかかる消費税をゼロにすると、富裕層ほど恩恵が大きくなります。これを「逆進性」といいますが、単純にいいますと、5兆円もの国費の結構な割合をお金持ちのために使うということになるわけです。しかも5兆円の財源はまだ示されていません。

そこで再び給付付き税額控除です。仮に、食料品の消費税8%をゼロにした場合に、4人家族が助かる額の6万4000円を控除したら、全部の世帯が6万4000円の減税になり、非課税世帯には6万4000円が給付され、ちょうど消費税分が助かることになります。国の財政への負担は食料品の消費税ゼロよりもはるかに軽くなり、逆進性もありません。つまり、低所得層への支援と消費税の逆進性の対策が両立する制度で、所得格差の是正と物価高対策に効果があるといえるわけです。

IMFの評価と企業の冷ややかな視線

高市内閣は、食料品の消費税ゼロを給付付き税額控除までのつなぎとして、2年間に限定するとしています。これにはいろんな評価があるのですが、毎日新聞の報道によれば、国際通貨基金(IMF)は「消費税減税は財政リスクを高めかねず避けるべきだ」としつつ、給付付き税額控除については「日本の最も脆弱な世帯により的を絞った支援ができる」と指摘していて、消費税減税が食料品に絞って、また期間を限定していることに一定の評価をしています。

一方で、帝国データバンクの調査では、消費税減税が実現した際に「プラスの影響がある」とする企業は25.7%にとどまっていて、「マイナスの影響が大きい」は9.3%、「特に影響はない」は48.9%でした。

こうしてみると、おおむね物価高対策として消費税減税は好ましくはなく、給付付き税額控除がふさわしいということだと思います。

公平な給付に不可欠な「マイナンバー」の壁

それでも不公平が生じる可能性があります。国税庁の人に話を聞くと、例えば株の配当で所得を得ていながら確定申告の必要がない制度があり、多額の資産や継続的な所得があっても非課税世帯として給付の対象となる場合が少なくないということです。

ですから、給付を適正に行うためには、行政機関が情報を共有すること、つまり個々人の実態を行政機関が把握することが必要で、株などの資産を管理する証券口座と銀行の全部の口座にマイナンバーを振って個人の情報を一括して把握できるようにすること(名寄せ)が有効なのです。

ただそうすると、政府が個人情報に深く入り込むことになりますので、賛否は大きく分かれます。「自分は何も悪いことはしていないので把握されても構わない。公平を期する方がいい」という人と「政府に把握されるのは監視社会のようで嫌だ」という人に分かれるのです。

今回だけでなくかつてのコロナ支援金など、公平で迅速な給付をする際必ず議論になることですが、これこそ国民一人一人がどう考えるかが問われる問題です。物価高対策はこれから国会や「国民会議」で議論が活発化してきますが、7月17日までの会期中、こうしたことを念頭に置いて審議に注目していただければと思います。

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この記事を書いたひと

山本修司

1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。